第7次エネルギー基本計画について(前編)

2025年02月27日

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

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経済産業省は2024年12月17日、有識者会議(総合資源エネルギー調査会・基本政策分科会)を開催し、今後のエネルギー政策の方向性を定める「第7次エネルギー基本計画」の原案を公表しました。本稿では、その概要を2回に分けて解説します。前編では、計画の背景や基本方針、2040年度の電源構成の見通しについてお伝えします。

エネルギー基本計画とは?

日本のエネルギー政策は、経済産業省が策定する「エネルギー基本計画」に基づき方向性が定められています。この計画は約3〜4年ごとに改訂され、長期的なエネルギー供給のあり方や環境対策の指針を示すものです。最新の「第7次エネルギー基本計画」は、2040年度の電源構成を見据えたものであり、エネルギー安全保障やカーボンニュートラル※1の実現に向けた重要な政策指針となります。

※1 カーボンニュートラル:CO2などの温室効果ガスの排出量を、吸収や除去によって実質ゼロにすることを指します。

「S+3E」の基本方針

日本のエネルギー政策は、「S+3E」の原則に基づいています。

  1. Safety(安全性)
  2. 原子力発電の安全対策の強化や、老朽化した火力発電設備の管理が求められます。

  3. Energy Security(エネルギー安全保障)
  4. 輸入依存度を下げ、安定供給を確保するため、多様なエネルギー源の確保が必要です。

  5. Economic Efficiency(経済効率性)
  6. 電気料金の安定化や、再生可能エネルギーのコスト低減が課題となります。

  7. Environment(環境適合性)
  8. 再生可能エネルギーの拡大に加え、CO2排出削減技術の推進が求められます。

2021年に策定された第6次エネルギー基本計画以降、日本と世界のエネルギー環境は大きく変化しました。ロシアのウクライナ侵攻や中東情勢の緊迫化により、エネルギー安全保障の重要性が一層高まっています。

また、グリーントランスフォーメーション(GX)※2の推進を通じた脱炭素化と経済成長の両立が求められ、産業政策の強化も進められています。さらに、データセンターや半導体工場の拡大による電力需要の増加も見込まれています。

こうした状況を踏まえ、日本のエネルギー政策は「S+3E(安全性・安定供給・経済効率性・環境適合性)」の原則を維持しながら、より柔軟かつ現実的なアプローチ**が求められています。

※2 グリーントランスフォーメーション(GX):脱炭素社会の実現を目指し、再生可能エネルギーや水素、CCUS(CO2回収・貯留)などの技術を活用して経済・産業構造を変革する取り組みを指します。

第7次エネルギー基本計画のポイント

経済産業省が2024年12月に公表した原案では、2040年度の電源構成について、以下の見通しを示しています。

出典:エネルギー基本計画(原案)の概要  令和6年12月 資源エネルギー庁

2021年に策定された第6次エネルギー基本計画では、2030年度の電源構成として、再生可能エネルギーを36〜38%、火力発電を41%、原子力を20〜22%とする目標が掲げられていました。

これに対し、第7次エネルギー基本計画では、2040年度を見据え、再生可能エネルギーの比率を40〜50%へと引き上げる方針が示されています。特に、再生可能エネルギーが主力電源となる見通しで、火力発電の比率を減らしつつ、原子力発電を一定規模維持する方針です。

出典:「エネルギー基本計画(原案)の概要 令和6年12月 資源エネルギー」を基に筆者作成

太陽光発電の飛躍的増加

特に注目されるのが、太陽光発電の割合が22〜29%とされ、日本の主要な電源となる見通しである点です。これは現在の9.8%(2023年度)から大幅に増加することを意味し、今後15年間で導入量を3倍に増やす必要があります。

例えば、住宅の屋根やオフィスビル、未利用の土地を活用することで、年間8〜12GWの新規導入を進める計画です。また、最近注目されている「営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)※3」の活用や、工場や空港などのインフラ空間への設置も拡大される見込みです。

しかし、太陽光発電の大量導入には課題もあります。日射量に依存するため、安定供給が難しいことや、発電設備の設置に伴う景観や環境への影響も懸念されています。このため、蓄電池の普及や電力の需給調整技術の高度化も求められます。

※3 営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング):農地の上部に太陽光パネルを設置し、農業を続けながら発電を行う仕組みです。

風力発電の拡大

第7次計画では、洋上風力発電の導入拡大も重要な要素とされています。政府は「グリーントランスフォーメーション(GX)」の一環として、2040年度までに洋上風力の導入量を50GW以上にする目標を掲げています。

日本の洋上風力発電は欧州と比べるとまだ発展途上ですが、日本近海の風況を活かした大規模な洋上風力発電プロジェクトが進行中です。政府は民間企業との連携を強化し、洋上風力発電の導入コストを削減しながら拡大を図る方針です。

次世代技術「ペロブスカイト太陽電池」

第7次計画では、次世代型の太陽光発電技術である「ペロブスカイト太陽電池※4」の導入も推進されます。これは軽量で柔軟性があり、従来のシリコン型太陽電池よりも設置場所の選択肢が広がるというメリットがあります。

経済産業省は2040年度までにペロブスカイト太陽電池の導入量を20GWとする目標を掲げています。これにより、屋根や壁面、さらには窓ガラスなど、これまで活用が難しかった場所にも太陽光発電を導入できるようになります。

※4 ペロブスカイト太陽電池:軽量・柔軟で低コストな次世代型の太陽電池です。従来のシリコン系太陽電池と比べ、薄くて曲げられるため、建物の壁や窓など多様な場所に設置可能です。

まとめ

第7次エネルギー基本計画では、再生可能エネルギーの導入拡大とエネルギー安全保障の強化が大きな柱とされています。特に2040年度には再生可能エネルギーが主要電源となる見通しで、日本のエネルギー政策は大きな転換点を迎えています。しかし、安定供給の確保やコスト管理といった課題も残されています。

後編では、原子力発電の役割と再評価、エネルギーコストの見通し、カーボンニュートラル達成に向けた政策の詳細について詳しく解説します。

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