太陽光発電パネルの寿命とリサイクル(後編)

2024年12月30日

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

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前編では、太陽光発電パネルの寿命や日本国内におけるリサイクルの現状についてお伝えしました。今回は、欧州を中心とした先進的な取り組みに焦点を当て、その背景や成功事例を通じて、私たちが学ぶべきポイントを探ります。 太陽光発電は、再生可能エネルギーの一つとして、日本だけでなく世界中で急速に普及しています。中でも欧州は、太陽光発電設備の早期導入を背景に、リサイクルシステムの整備と技術開発で世界をリードしています。

欧州がリードする太陽光パネルのリサイクル革命

欧州の太陽光パネル成長の軌跡

1990年代、欧州は太陽光発電の活用に向けた取り組みを始めた時期に入りました。ドイツやオランダでは、政府や学術機関が中心となり、効率や耐久性を高めるための研究や小規模な実証実験が行われました。

2000年代前半、固定価格買取制度(FIT)が導入され、特に再生可能エネルギーへの固定価格保証を定めたドイツの再生可能エネルギー法(EEG)が転機となり、太陽光発電が急速に普及しました。住宅の屋根にパネルを設置する光景が広がりました。

2010年代には、製造コストが下がり、技術革新が進んだことで、太陽光発電は競争力のあるエネルギー源となりました。欧州では大規模な発電所の建設が進み、リサイクル技術の向上により環境への配慮も強化されています。

欧州が早期に太陽光発電を普及させた背景には、政策的支援、環境への高い意識、そして技術力の向上が大きな要因として挙げられます。これらの要素が相互に作用し、太陽光発電のリサイクルシステム構築の基盤を形成しています。

改正WEEE指令の役割と欧州の取り組み

2012年に発効した改正WEEE指令(Waste Electrical and Electronic Equipment Directive)は、欧州連合(EU)が制定した法令で、廃電気・電子機器(WEEE)の適正な管理、リサイクル、廃棄物削減を目的とし、この指令は、埋立処分量の削減を目指しており、EU各国で法制度の整備が進み、具体的な回収・リサイクルシステムが構築されています。

PV CYCLEが牽引する欧州の太陽光パネルリサイクル市場

欧州では、太陽光パネルのリサイクルシステムを構築するため、2007年に非営利団体「PV CYCLE」が設立されました。同団体は、欧州太陽光発電協会(EPIA)、ドイツソーラー産業協会、主要モジュールメーカー6社で構成され、本部をベルギーに置き、加盟企業からの会費で運営されています。

2010年の活動開始以降、2017年末までに約1.7万トンの太陽光パネルを回収し、大規模発電所で使用される非住宅用パネルを中心に成果を上げました。また、改正WEEE指令に基づき、各国の法規制に対応した処理システムを整備し、リサイクル費用を徴収する仕組みを構築しました。これにより、埋立処分の抑制とリサイクル率の向上が実現されています。

ドイツのリサイクル費用負担

ドイツでは、太陽電池モジュールメーカーが第三者機関に処理を委託できることが国内法で定められています。住宅用モジュールが廃棄される場合、所有者が回収ポイントまでの輸送費用を負担し、それ以降の輸送およびリサイクル費用はWEEE管理団体が計算し、メーカーが負担します。一方、非住宅用モジュールの場合、発電事業者とメーカーが費用負担を取り決め、通常は発電事業者が負担します。

PV CYCLE ドイツは、2010〜2016年に8,000トン以上の使用済みモジュールを回収し、排出枚数に応じた適切な処理プロセスを実施しています。このようにドイツではリサイクル費用までを考慮した仕組みが整備されており、太陽光パネルの廃棄物管理が効率的に行われています。このシステムは、企業の責任を明確にするとともに、リサイクルの促進と資源の循環利用を支援する重要な役割を果たしています。

出典:太陽光発電設備のリサイクル等の推進に向けたガイドライン(第三版)       令和6年環境省 環境再生・資源循環局 総務課 リサイクル推進室

フランスのVeoliaが誇る95%回収率のリサイクル技術

フランスの企業Veoliaは、欧州の環境団体PV CYCLEおよびSyndicat des énergies renouvelablesと協力し、欧州初の太陽光パネルリサイクル専門施設を設立しました。現在、この施設では年間1,800トンの使用済み太陽光パネルを処理しており、最大で4,000トンまでの処理能力が予定されています。回収された材料の95%が再利用されるという高い回収率を誇ります。

この施設は、特に「結晶シリコン」タイプの太陽光パネルの処理に特化しており、特殊なガラスからアルミニウムフレーム、接続ボックス、接続ケーブルに至るまで、すべての材料を分別・回収します。リサイクルプロセスの多くは自動化され、機械化されており、効率的かつ高精度で資源の回収が行われています。回収されたガラスの2/3はクリーンカレットとしてガラス製造業界に再利用され、アルミニウムフレームは精錬所で使用されます。さらに、プラスチックはセメント工場でリサイクル燃料として利用され、シリコンは貴金属業界で活用されます。ケーブルやコネクタは粉砕され、銅ショットとして販売されるなど、資源循環が進んでいます。

出典:フランスの企業Veolia HPより「独自の技術である太陽光発電パネルのリサイクル」

欧州以外の太陽光パネルリサイクル事情

欧州が先行して規制やリサイクル技術の発展に取り組む一方、アメリカやアジアでも革新的な動きが見られます。

アメリカでは、カリフォルニア州が2016年に「Solar Panel Recycling Act」を制定し、使用済みパネルの廃棄管理を適切に行う仕組みを構築しました。2021年には、太陽光パネルを「ユニバーサル廃棄物」に分類し、廃棄処理の簡素化が進みました。これにより、最大1年間の保管が許可され、有害廃棄物業者を介さずに移送できるようになり、リサイクル促進が進んでいます。この法律は、廃棄処理を効率化・低コスト化し、リサイクル施設の整備や新技術導入の促進にもつながっています。

一方、中国では、政府主導で太陽光パネルのリサイクルインフラ整備が急速に進行中です。世界最大の太陽光パネル生産国として、使用済みパネルの増加に備え、資源回収効率向上を目指した研究開発が強化されています。「14次五カ年計画」では、シリコン、ガラス、金属のリサイクル技術向上とコスト削減が重点課題となり、リサイクル施設の整備とインフラ強化が進められています。さらに、政府はリサイクル業者に対し環境基準の遵守を求め、効率的なリサイクルを促進しています。

太陽光発電の未来に向けたリサイクル課題と日本の制度改革

太陽光発電パネルのリサイクル技術の進展と費用確保は、持続可能なエネルギー社会の実現における重要な課題です。欧州や世界の先進事例はその指針となり、日本でもこれらを参考にしてさらなる取り組みが求められています。現在、日本ではリサイクルインフラの整備が進んでいますが、迫り来る「大量廃棄時代」に備えるためには、現行制度の改善が急務です。自治体、企業、研究機関が連携し、地域ごとに最適化されたリサイクルモデルを構築することが、資源循環型社会の実現に向けた鍵となるでしょう。

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