太陽光発電パネルの寿命とリサイクル(前編)
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2024年12月26日
一般社団法人エネルギー情報センター
太陽光発電は再生可能エネルギーの一つとして、私たちの生活に広く浸透しています。地球温暖化の抑制や化石燃料の枯渇といった緊急の課題に対応するため、環境に優しいエネルギー源として大きな期待を集めています。 一方で、太陽光発電パネルのEOL(End of Life=製品の寿命)に伴う廃棄物問題は、持続可能なエネルギー社会の実現に向けた大きな課題となっています。 本コラムでは「太陽光パネルの寿命とリサイクル」を題材に2回にわたりお伝えします。1回目は太陽光発電の普及とその背景に加え、パネルの寿命やリサイクルに関する問題点とその解決策について、国内の例を合わせてまとめました。
太陽光パネルの普及状況
2012年に固定価格買取制度(FIT)が導入され、家庭や企業における太陽光発電の導入が急速に進みました。FIT制度により、発電した電力を一定価格で買い取る仕組みが整備され、技術革新によるパネル価格の低下や、環境意識の高まりといった要因が相まって、特に2012年から2015年にかけて太陽光発電の設置数は急増しました。その結果、2022年には日本の太陽光発電による年間電力供給量が926億kWhを超え、2011年と比較して約20倍に達し、全再生可能エネルギーの9.6%を占めるまでに成長しました。
近年では、電力の買取価格の低下などの影響で年間の導入量は減少傾向にありますが、それでも累積発電量は増加を続けており、再生可能エネルギーとしての太陽光発電の重要性は今後さらに高まると考えられます。
太陽光発電パネルの寿命は?
太陽光発電パネルの寿命は通常20〜30年とされ、25年の出力保証期間内では初期性能の80〜90%を維持できます。適切な設置環境とメンテナンスが行われれば、30年以上の運用も可能です。しかし、パワーコンディショナー(インバーター)は10〜15年で寿命を迎えるため、定期的な点検と交換が必要です。また、設計や施工の不具合、災害、故障、リプレイスなどの要因により、パネルは製品寿命よりも早期に廃棄されることも考えられます。
太陽光パネル廃棄物の増加
2030年代には、FIT制度の下で設置された大量の太陽光パネルが寿命を迎え、年間最大50万トンもの廃棄物が発生することが予測されています。この「大量廃棄時代」に対する対応は、持続可能な社会の実現に向けた重要な課題となります。現行の廃棄処理体制を確立し、適切なリサイクルシステムを構築することが求められています。
日本における太陽光パネルリサイクルの現状
リサイクル費用の確保の重要性
我が国では、年間約4,400トンの太陽光発電用パネルが使用済みとなり、そのうち約3,400トンがリユースされ、約1,000トンがリサイクルまたは処分されると推計されています。
しかし、年間の排出量が少ないため、リサイクル施設の稼働率は低く、事業としての採算性に課題があります。また、現行の制度では排出事業者にリサイクル義務が課せられていないため、コスト重視の処理方法が選ばれることが多く、十分なリサイクルが行われていないのが現状です。再生可能エネルギー特措法では、10kW以上のFIT/FIP対象事業に廃棄費用の積立が義務付けられていますが、対象外事業には新たな費用回収やリサイクル費用積立の仕組みが必要です。
最新の日本のリサイクル技術
AGC株式会社は、日本で初めて太陽光パネルのカバーガラスをリサイクルしてフロート板ガラスを製造する実証試験に成功しました。今回の試験では、約5トンの廃カバーガラスを低温熱分解技術で精製し、フロート板ガラスへの再利用を実現しました。カバーガラスはパネル重量の約60%を占め、従来は透過率を高める成分が含まれていたためリサイクルが困難でした。しかし、AGCの新技術により、廃カバーガラスがフロート板ガラスとして再利用可能となり、リサイクルの推進により天然資源の節減や温室効果ガスの削減に貢献することが期待されています。
まとめ
太陽光発電は再生可能エネルギーとして重要な役割を果たしていますが、2030年代以降に予想される大量廃棄物の増加に対応するため、リサイクルシステムの構築が急務です。特に、日本国内ではリサイクル費用の確保や最新技術の導入が課題解決の鍵を握っています。AGCの新技術に見られるように、資源の有効活用と環境負荷の低減を両立する取り組みが、今後さらに重要になるでしょう。
次回は、欧州をはじめとする海外のリサイクル対策や成功事例をご紹介します。日本の未来に役立つ国際的な取り組みから学び、より効果的なリサイクルシステムの構築に向けた道筋を探ります。
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