トップランナー制度
トップランナー制度の概要
トップランナー制度とは、機器等のエネルギー消費効率の決め方の一つであり、日本独自の方式です。基準値を策定した時点において、最も高い効率の機器等の値を超えることを目標とした最高基準値方式になっており、1998年に改正された「エネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)」の中で、民生・運輸部門の省エネ施策として採用されました。
トップランナー制度成立の背景
1)我が国におけるエネルギー需給の現状
我が国におけるエネルギー消費は、戦後経済の発展に伴って急速に拡大し、2000年度には戦後すぐの1955年度に比べて約9倍と大きく増加しました。その一方で、我が国は国内にエネルギー資源をほとんど有しておらず、大部分を海外に依存しているのが現状で、エネルギー供給構造が本質的に脆弱です。
2)省エネ法とトップランナー制度の誕生
我が国は、1970年代に発生した二度の石油危機を契機に、産業部門を中心としてエネルギーの合理的な使用が注目されるようになり、この流れを受けて1979年に省エネ法が制定されました。
省エネに対する法的根拠の誕生や政府による省エネ活動の推進を受けて優れたエネルギー効率での生産体制が整いましたが、依然として、エネルギー消費量は、民生・運輸部門を中心として増加し続けています(図1)。
図1 日本の最終消費エネルギー推移 出典:資源エネルギー庁
そのような中で、1997年の気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)における京都議定書の締結を受けて、省エネ法は1998年6月に改正されました。その際、民生・運輸部門での省エネルギーの主要な対策の1つとして、機器等(機械器具等の略称。機械器具等とは、自動車・家電・建築材料などを指す)のエネルギー消費効率基準の策定方法にトップランナー方式を採用した、「トップランナー制度」が導入されました。
トップランナー制度の詳細と評価
1)詳細
トップランナー制度は、性能向上における事業者の判断基準を、現在商品化されていて、かつその中でエネルギー消費効率が最も優れているもの(トップランナー)の性能、技術開発の将来の見通し等を勘案して定め、機器等のエネルギー消費効率のさらなる改善推進を行なうものです。定められた基準を目標年度までに達成することが求められます(図2)。
図2 トップランナー方式の例 出典:経済産業省
対象となる機器等は、省エネ法第78条においては、以下の3つのすべてを満たすものとされていて、2015年3月現在、電気冷蔵庫や自動車をはじめとした31項目が対象となっています(図3)。
1. 我が国において大量に使用される機械器具である
2. 使用時に相当量のエネルギーを消費する機械器具である
3. その機械器具のエネルギー効率向上を図ることが必要かつ改善余地等がある
図3 トップランナー制度対象機器等 出典:資源エネルギー庁資料より作成
2)評価
トップランナー制度は事業者等の義務なので、省エネルギーは、消費者が機器等の買い替えを行なうだけで進行します。しかし、基準値を達成するために事業者等は新しい技術開発を行なうので、基準を達成した製品の価格は従来品よりも必然的に高価になります。これが消費者に受け入れられなければ導入の効果はなく、制度が破綻する恐れも内包しています。
2015年現在、我が国においては機器等の技術進歩は大きく、消費者の機能向上への関心も高いことから、省エネ型製品への移行は着実に進んでいると言えます。しかし、トップランナー制度に対しては、本制度で設定された期間の中では、漸進的な技術改善ばかりが推進されてしまい、技術革新に対するインセンティブを得ないという批判もあります。
トップランナー制度対象機器等の普及施策
1)表示義務
同制度の対象となっている機器等には、購入者が購入時にエネルギー消費効率の情報を取得できるよう、省エネ法に基づく表示義務があります。この制度は、対象となる機器等の表示について、製造事業者等が表示すべき事項を告示によって示し、遵守事項に従って表示しなかった場合は罰則を伴う、というものです。
この義務は、購入者に対してエネルギー消費効率の優れた製品の普及を図るとともに、製造事業者に対しても消費効率向上に向けた開発意欲を促す目的があります。
2)省エネルギーラベリング制度
前述のように、消費者への情報提供はとても重要です。そこで我が国は、省エネ製品に対して、「省エネルギーラベリング制度」を実施しています。省エネルギーラベルはシンボルマーク、基準の達成率、エネルギー消費効率、目標年度の4項目から構成されます(図4)。このラベルを見ることで、製品を選ぶ際の性能比較等に役立ちます。
図4 省エネルギーラベルの例 出典:資源エネルギー庁
3)小売事業者表示制度
小売事業者は消費者と直接接点を持つため、小売事業者の担う役割はとても大きく、このことを鑑みて2006年10月より小売業者が製品の省エネ情報を表示するための制度が始まりました。この制度において小売事業者は、店頭陳列商品に対し、統一省エネルギーラベルを貼付します(図5)。
統一省エネルギーラベルには、多段階評価、省エネルギーラベル、年間の目安電気料金などの情報が盛り込まれています。
図5 統一省エネルギーラベルの例 出典:資源エネルギー庁
5.諸外国の状況
エネルギー消費効率の決め方にはいくつか方法があり、これまではトップランナー制度という日本独自の方法を紹介しました。そこでこれ以降では、諸外国で一般的に取り入れられている方式である最低基準値方式(MEPS; Minimum Energy Performance Standard)を紹介します。
MEPSは、対象となる機器等に対して、超えばなければならない最低の値を定め、超えられない場合には出荷差し止め等の措置が取られる、という制度です。MEPSは単純明快で非常にわかりやすい、という利点を持つ一方で、最低基準値の設定には経済的妥当性について十分な議論を必要とします。
同方式を採用している米国では、ライフサイクルアセスメント(LCA; Life Cycle Assessment:ある製品やサービスの、ライフサイクル全体における環境負荷を定量的に評価する手法)を始めとして経済的妥当性を色々な角度から検討し、基準値が決められています。
基準値を決定する際には、企業の意向などが介入してくることもあり、調整の必要があります。こうしたことから、基準値の策定に膨大な時間がかかることが難点です。