ライフサイクルアセスメント( Life cycle assessment (LCA))

ライフサイクルアセスメント ( Life Cycle Assessment ) とは

ライフサイクルアセスメント (Life Cycle Assessment:LCA) とは、製品 (またはサービス) が目的とする機能を果たすために、製品の資源採取から原材料の調達、製造、 加工、組立、流通、製品使用、メンテナンス、そして廃棄またはリサイクルする、「ゆりかごから墓場まで」の全過程(ライフサイクル)における投入資源、環境負荷およびそれらによる地球や生態系への環境影響を総合して、科学的、定量的、客観的に評価、その目的に沿って結果を解釈する手法です。

例えば、ある製品Aと製品Bがある時、製品Aは製品Bよりも生産にはCO2が発生します。しかし、資源採掘や処理・処分など製品のライフサイクルで考えると、製品Bが製品AよりCO2を多く排出することがわかります。 このように、ライフサイクルアセスメントを利用することで、より環境に配慮した製品の開発やサービスの提供を可能にします。

出典元 国立環境研究所 循環・廃棄物のまめ知識「ライフサイクルアセスメント(LCA)」

It is a method of quantitatively assessing the environmental impact of products and services throughout their life cycle, from procurement of raw materials, production, and distribution to disposal and recycling. It enables companies to develop products that have less environmental impact and improve production.

ライフサイクルアセスメントの背景

1969年に米コカ・コーラ社がミッドウェスト研究所に委託して行ったリターナブル瓶と飲料缶の環境負荷評価がライフサイクルアセスメントの基礎を築いたとされています。それ以前にも、イニシャルコストとランニングコストのような経済性の評価がライフサイクルの視点で製品に広く行われていました。

環境問題への意識が高まり、地球環境の保全や資源・エネルギーの持続可能的な利用などの社会的背景や環境問題から環境影響の全貌を評価する必要性が求められ、客観的な根拠の提示方法としてアセスメントが拡張され、今日に至ります。

ライフサイクルアセスメントの手順

ライフサイクルアセスメントの基本的な枠組みと段階は、国際標準化機構ISOの定めるISO14040で、次の4段階により行うと規定されています。

1.アセスメントの目的と調査範囲の設定

アセスメントの実施目的を明らかにします。目的に従い、製品のライフサイクルの範囲や評価項目、制約を十分に検討して絞り込みます。調査結果の公開範囲、用途を明らかにします。

2.インベントリ分析

目的や製品のライフサイクルに基づき、各段階で投入される資源やエネルギー量 (インプット)、排出される廃棄物や環境負荷物質量 (アウトプット) などに関するデータを収集、検証、集計するインベントリ分析 (Life Cycle Inventory : LCI) を行います。データが不完全であると、不完全な結果しか得られません。

3.影響評価

インベントリ分析のデータと特定の環境負荷や潜在影響ごとに、多数の評価基準や手段、重み付けをして関連付け、統合評価します。インベントリ分析のデータを特定の影響と正確に関連づける方法が確立されていないため、アセスメントに主観的要素が入ってしまう可能性があります。したがって、算出方法やその目的、透明性の確保に十分考慮する必要があります。

4. 結果の解釈

インベントリ分析や影響評価の結果を元に、アセスメントの目的に照らして、単独または総合的に評価します。比較評価において、その分野の専門家による第三者からの結果の正当性の検証が必要となります。解釈には自社に有利な事例のみを取り入れるのではなく、重大な影響を示して初めて、製品の改善、環境負荷の低減に向けた提案が可能となります。

事例紹介

日本の自動車会社マツダ (MAZDA) は、電気自動車 (EV) がガソリン車 (GE) やハイブリッド自動車 (HV) より環境にやさしいのか、ライフサイクルアセスメントを利用して検証しました。(2019年)

 

自動車産業では、環境に対する考え方として、Tank to Wheelが一般的です。Tank to Wheelとは、走行時にどれだけCO2を排出するかということです。電気自動車は、走行中のCO2の排出量が0であることから環境にやさしいと思われています。

それに対し、マツダは、自動車のライフサイクル全体でのCO2削減に向け、Well to Wheelという考え方を打ち出しました。Well to Wheelとは、自動車の原料調達から、製造過程、車両走行までの工程でどれだけCO2を排出するかということです。電気自動車の場合、走行に必要な電力の製造過程でどれだけCO2が排出されるのか、計算に入れるということです。

電気自動車の走行中のCO2排出量の求め方

(EVの走行時CO2排出量) = (発電所の電源平均のCO2排出量) × (EVが1kmを走行するのに消費する電力量) (発電所の電源平均のCO2排出量) = (全発電所から排出されるCO2の量) ÷ (全発電量)

検証は、米国をはじめ5地域を対象に20万km走行するまでに排出されるCO2を把握した。EVには16万kmでバッテリーを交換するという前提条件も付けました。各地域の電源構成やエネルギー利用によって、GEとEVの環境面の優位性が変わることが分かりました。EVはGEに比べて、製造過程でCO2をより排出しています。よって、走行時のCO2排出量によって優位性が変化します。EVの走行に必要な電力が化石燃料に依存しているほど、発電時にCO2排出量が多くなるという理由から、EVの環境面が変わってきます。

出典元 日本LCA学会

日本は火力発電に依存しているため、一時的にEVが優勢となる距離もありましたが、20万km走行終了時はGEが優位でした。EVの排出量が少ない時期は限定的でした。日本のように火力発電に依存する、オーストラリアや中国でも同様の傾向が見られました。

一方、再生可能エネルギーによる発電が多い欧州では、EVがGEより優位な走行をする時期は長く、EVの優位性を示しました。よって、発電時のCO2排出量を減らし、再生可能エネルギーを普及させることがEVの普及や環境にやさしい社会の実現につながることがわかります。

また、自動車会社トヨタが行った事例では、ガソリン車と電気自動車のCO2以外環境汚染物質の排出量を比べたところ、電気自動車のほうが、窒素酸化物や硫黄酸化物が多く排出していることがわかりました。一方で、各々の汚染物質を統合して比較するのが難しいのが現状です。したがって、EVは硫黄酸化物や窒素酸化物が多くても、環境影響が二酸化炭素のほうが大きいと判断された場合、この検証結果の評価が変わる可能性があります。

出典元 JSTAGE 自動車におけるLCA実施例

CO2の排出量の比較にとどまらず、費用対効果を検証した事例もあります。検証によると、電気自動車よりもハイブリッド車のほうがCO2の削減に対し6倍も費用対効果が良いことが明らかになりました。

出典元 環境省 トヨタの次世代車の取り組み

ライフサイクルアセスメントのメリット

ライフサイクルアセスメントは、次世代以降の人類の生存と健康を保障する「持続可能な発展」を実現するための環境負荷低減の評価ツールとして、企業や社会の発展に貢献します。

  1. 企業は製品やシステムのライフサイクルにおける環境負荷を評価することで、製品の開発や設計、生産活動を改善し、環境にやさしい社会が実現されます。
  2. 行政はライフサイクルアセスメントから、環境へ配慮した政策の順位づけが可能となり、政策による社会誘導によって、環境にやさしい社会が実現されます。
  3. 消費者は製品やシステムが環境に与える影響を適切に知ることができ、環境に配慮した商品やシステムを選択できることで、環境にやさしい社会が実現されます。

ライフサイクルアセスメントの課題

まず、入力するデータが不十分になることです。ライフサイクルアセスメントでは、全ての工程において関係するデータの入力が求められるため、データの採集が負担となります。

次に影響評価、統合評価の手法が未だ確立されていません。数値で表すことの出来ない事例はその影響を分析することが出来ません。また、複数の評価を統合する際の重み付けに価値判断を含むため、科学的根拠の欠けた主観的な評価手法となります。

最後にマイナス評価手法であることです。ライフサイクルアセスメントでは環境に対する負荷がどれだけあるか、減点方式で評価します。そのため、製品の性能がどれだけ良くても評価されず、製品や産業全体での活用にはまだ不向きです。製品性能と環境負荷の比で表した指数による計算の研究が必要になる分野と言えます。

「キーワードでわかる! 脱炭素と電力・エネルギー[中級編]」より
 5日間でわかる 系統用蓄電池ビジネス