東京都キャップ&トレード制度、2020年度より第3期に突入、高まる低炭素電力への期待
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2018年12月18日
一般社団法人エネルギー情報センター
キャップ&トレード制度は、都内CO2排出量の削減を目指し、オフィスビル等のエネルギー需要側にCO2排出削減を義務付ける制度です。同制度は現在、第2計画期間(2015年度~2019年度)に入っており、2020年度~2024年には第3期に突入します。本コラムでは、制度概要や、今後の動きについて見ていきます。
環境先進都市を目指す東京都と世界の動き
世界各国で温室効果ガスに関する取組が行われておりますが、環境省の発表によると、2015年12月に地球大気全体の月別平均濃度が初めて400ppmを超過し、その後も依然として増加傾向にあります。
気候変動に起因すると思われる現象や被害も頻発化する中、国家間の気候変動交渉に加え、様々なステークホルダーが活発な活動を展開しています。気候変動交渉のマイルストーンとしては、パリ協定(2015年11月、COP21において採択)が挙げられます。また、2018年12月2日からポーランドで開催された「COP24」においては、詳細なルール(実施指針)が無事に採択されました。
企業側の動きとしては、ESG投資の拡大や、SBT(Science Based Targets)、RE100、Japan-CLP加盟の動きがあります。また、2015年9月に国連総会で採択された「SDGs」を企業活動に組み込む動きも見られます。
都市及び地方政府の取り組みとしては、都市間協力を推進する「C40」や、気候変動緩和策などを広く発信するプラットフォーム「GCoM」等があります。なお、東京都は「C40」と「GCoM」の双方に参加しています。
東京都は、世界一の環境先進都市を目指しており、2007年6月に気候変動対策方針を公表、国に先駆け2020年目標と先駆的施策を提起しています。2010年には、オフィスビル等を対象とする世界初の都市型のキャップ&トレード制度(C&T制度)を実施しており、高い実効性を発揮しています。
キャップ&トレード制度は、都内CO2排出量の削減を目指し、オフィスビル等のエネルギー需要側にCO2排出削減を義務付ける制度です(図1)。同制度は現在、第2計画期間(2015年度~2019年度)に入っており、2020年度~2024年には第3期に突入します。本コラムでは、東京都キャップ&トレード制度の概要や、今後の動きについて見ていきます。
5年毎の期間で実施されるC&T制度、2020年より第3期に突入
東京都キャップ&トレード制度は、都内に約1200存在する大規模事業所(前年度の燃料、熱、電気の使用量が、原油換算で年間1500kL以上の事業所)に、CO2排出量の削減義務を課すものです。総量削減義務の対象ガス (特定温室効果ガス)は、燃料、熱、電気の使用に伴い排出されるCO2となります。
企業は、高効率機器への更新や、運用対策の推進など、CO2削減対策を推進することで削減義務達成を目指します。自社施設による削減対策に加え、事業所間の排出量取引や各種クレジットが活用可能です。
削減計画期間は5年間と設定されており、第1計画期間は2010~2014年度、第2計画期間は2015~2019年度にて実施されます。削減義務率は、同じ期であっても事業所の区分によって多少異なりますが、基準排出量から第一期は8%又は6%、第二期は17%又は15%削減と設定されています。
第三期(2020~2024年度)は基準排出量から平均27%、第四期(2025~2029年度)は平均35%削減と設定される見込みです(図2)。なお、基準排出量は、各事業所が選択した平成14年度から平成19年度までのいずれか連続する3か年度排出量の平均値にて設定されます。
第一計画期間については、9割の事業所が、自らの対策により削減義務を達成しており、残りの1割も、排出量取引を利用して義務を履行しています。
第二期については、2年度目(2016年度)の実績によると、約8割の事業所が既に、削減義務量を達成しています。一方、自らの対策では義務達成が困難である見込みの事業所は約2割にのぼります。第三期はさらに義務削減量の条件が厳しくなるため、再エネクレジットや低炭素電力の必要性が高まると考えられます。これら再エネクレジットや低炭素電力の概要について、下記にて見ていきます。
C&T制度における再エネクレジット活用
C&T制度は、省エネ推進だけではなく、「再生可能エネルギー」の利用拡大を促進する観点から、再エネ利用によるCO2削減効果を削減義務の履行に活用できる仕組みとなっています。
C&T制度の義務達成の履行手段として、大まかに①自らで削減、②排出量取引、③バンキングの3種類があります。 ①自らで削減は、省エネの推進や、低炭素電力を利用することが挙げられます。②排出量取引は、クレジット等を活用した義務達成手法です。③バンキングは、例えばクレジットの大量購入などにより超過した削減量やクレジットを、次の期間の削減義務に利用することができるものです。
再エネクレジット利用は、②排出量取引に含まれる手法です。C&T制度において、「環境価値換算量」、「グリーンエネルギー証書 」、「RPS法新エネルギー等電気相当量」が利用できます(図3)。
J-クレジットについては、排出量取引運用ガイドラインによると、東京都の制度における都内中小クレジット又は都外クレジットの条件に合えば、J-クレジット等の認証・利用と同時に、東京都制度のクレジットの認定・発行を受けることができます。電力会社の中には、再エネクレジットの取り扱いに長けている企業もあり、C&T制度についても一定の立ち位置を確保できる可能性があります。
5種類あるクレジットの内、最も利用量が多いものが超過削減量であり、合計で9,909,336t-CO2(1435件)あります(平成30年4月30日時点)。一方で、再エネクレジットは309,040t-CO2(129件)であり、超過削減量の3%程度(CO2排出ベース)の活用に留まっています(図4)。
これは、再エネクレジットの査定価格帯が8,000~11,200円/t-CO2に対し、超過削減量が300~1,000円/t-CO2と、大きな開きがあるためと考えられます。(2018年3月2日時点)。しかし、再エネクレジットは温対法など、他の制度にも活用できるため汎用性が高く、換算率が1.5倍になる可能性があるほか、大量購入で価格も抑えられるため、グリーン電力証書を好む事業所も存在します。
第二期より導入された低炭素電力
C&T制度において、通常、熱、電気の排出係数は、供給事業者の別によらず一律です。第一計画期間の場合は、電気の排出係数 0.382 (t-CO2/千kWh) であるのに対し、第二計画期間では電気の排出係数 0.489 (t-CO2/千kWh) として設定されていました。
しかし、第二期より、都が認定するCO2排出係数の低い電力・熱を調達した場合に、需要側にインセンティブ(削減量)を付与する仕組みを導入しています。そのため、都認定の低炭素の電力会社を選択することで、CO2排出量を少なく算出できます。ただ、低炭素電力選択の仕組みの活用実績はまだ少なく、2016年度の活用事業所数は17であり、CO2排出量ベースでも約12万t-CO2(全体の約1.0%)となっています(図5)。
2020年以降は非化石証書(再エネ指定)が利用できる見込み
2020年度以降のキャップ&トレード制度の在り方として、都は「省エネ」の継続とともに、「低炭素エネルギー(再エネ)の利用拡大」を推進する方針です。
まず大きな変更として、非化石証書(再エネ指定)の利用可能性が挙げられます。第二期では、低炭素電力の認定には「事業者全電源」が評価対象となっておりましたが、第三期からは「事業者全電源+環境価値利用(非化石証書等)」となる方向性です。なお、認定基準を満たす場合、再エネ電力メニューも対象になります。
そのため、第二期は基礎排出係数のみでしたが、第三期は基礎排出係数と調整後排出係数のいずれか低い方を利用できます。なお、排出係数は第二期で0.40 t-CO2/千kWh以下であったのが、第三期は0.37 t-CO2/千kWh以下と条件が厳しくなる見込みです(図6)。
低炭素電力による削減量については、これまで設定されていた利用上限が撤廃される可能性があります。また、算定式にも変更があるほか、再エネ電源割合(30~100%)に応じて、低炭素調達電力量の最大25%相当量の削減量が付与されます。例えば、モデルケースとして、下記の事業所を想定する場合を見てみます。
- 対象事業所:年度排出量 10,000t-CO2
- 電気使用量の全量を低炭素電力供給事業者から調達(燃料毎の排出量比率 電気:その他=7:3)
モデルケースにおいて、第3期案は、排出係数が0の電力会社を選択することで、電気分の7,000t-CO2を全て削減することができます。一方で第2期では、例え排出係数が0の電力会社を選択したとしても、3500t-CO2の削減に留まります。
これに加えて、第3期案は、再エネ電源割合による削減量も加わります。仮に再エネ電源100%の電力会社であった場合、追加で1,750tの削減を見込むことが可能であり(図7)、第二期案と比較して相対的に低炭素電力の優位性が高まると考えられます。
なお、再エネクレジットと再エネ自家消費については、削減効果を1.5倍して排出量に反映する仕組みが導入されていますが、第3期は1.25倍に変更するか検討が進められています。
また、早期の省エネ投資等の成果(超過削減量等)を後期の削減義務の達成に活用できる「バンキング」については、第三期においても、現行どおり継続される見込みです。ただし、東京都C&Tのバンキングの有効期限は翌期までと設定されているため、第一期の削減を第三期に充てることはできません。
トップレベル事業所との関連性
「トップレベル事業所」とは、「地球温暖化の対策の推進の程度が特に優れた事業所」として、「知事が定める基準」に適合すると知事が認めたとき、当該対象事業所の削減義務率を地球温暖化の対策の推進の程度に応じて軽減する仕組みです(図8)。
C&T制度においては、削減義務率がトップレベル事業所で1/2、準トップレベル事業所で3/4に緩和されます。この削減義務率の緩和は、第三期においても継続利用できる見込みです。第2期に認定を受けた事業所に限っては、「認定後、5年間は有効」と整理されています。
平成22~29年度において、C&Tの対象事業所1200事業所の内、104事業所(対象事業所の約8%)が認定されています。この認定の仕組みについては、第三期より認定基準が実態に合わせて改定される見込みです。
低炭素電力や再エネの導入で表彰される可能性
地球温暖化対策報告書制度は、一定のエネルギー利用条件を満たした場合、毎年度、本社等が全事業所のCO2排出量をとりまとめ、都に報告することが義務付けられる制度です。
C&T制度との違いは、①削減義務と罰則を基本とした規制的な手法ではないこと、②対象となる事業所数が2万を超える膨大な量であること、③事業所数の変化に伴い延床面積の増減が大きいことが挙げられます。
この制度において、今後新たに「①優良な者を評価する仕組み」と、「②再生可能エネルギーに関する報告を新設し、利用状況を評価に反映」する仕組みの導入が検討されています。これによって、再エネを取り入れた事業所が適切に評価され、優良な者にランク付与、公表される仕組みが整います。
これまで、「①低炭素電力の受入」や「②証書による環境価値の利用」、「③再エネ発電設備の設置」の3つについては、報告書への反映がありませんでした。しかし、今回の改正案によって、導入の有無に関する報告事項が設けられる可能性があります(図9)。
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執筆者情報
一般社団法人エネルギー情報センター
EICは、①エネルギーに関する正しい情報を客観的にわかりやすく広くつたえること②ICTとエネルギーを融合させた新たなビジネスを創造すること、に関わる活動を通じて、安定したエネルギーの供給の一助になることを目的として設立された新電力ネットの運営団体。
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