進められる「取戻し営業」規制の議論、経済産業大臣が言及、公正な競争条件の確保へ
| 政策/動向 | 再エネ | IT | モビリティ | 技術/サービス | 金融 |
一般社団法人エネルギー情報センター

7月20日、電力・ガス取引監視等委員会の専門会合にて、現事業者による「取戻し営業」規制の議論が行われました。この会合において、スイッチングプロセスの短期化や、廉売行為に関する対応の方向性について検討が行われました。
「取戻し営業」について
電力小売の自由化が契機となり、多様な知識や経験を持った多くの企業が参入し、エネルギー業界を活性化させています。これら参入した企業はビジネスとして電力小売を成功させるため、IT技術や組織体としてのスリム化など、様々な知恵の下に営業活動を行い、顧客基盤を強化しています。
しかし近年、現小売電気事業者(以下、現事業者)による「取戻し営業」の実態が指摘され、電力・ガス取引監視等委員会の専門会合にて議論が進められています。例えば、現事業者の営業担当が顧客情報を入手し、また廉売行為が行われることで新電力事業者の事業を困難としている可能性が指摘されています。
こうした「取戻し営業」の行為は、長期的には多数の新電力企業のビジネスを困難とし、市場から退出させる可能性があるため、将来の競争を減殺するという意見があります。これは、長期的な電気事業の健全な発達に支障を及ぼす恐れがあると指摘されています。
経済産業大臣が「取戻し営業」に言及
世耕弘成経済産業大臣は7月24日、閣議後の記者会見で、大手電力会社による「取戻し営業」を規制する方針について言及しています。その中で、公正な競争条件の確保というのは非常に重要だという考えを示しています。
特に切り替えを希望している顧客の情報が営業部門へ流れること自体あってはならないと述べています。スイッチングを担当する部署と営業を担当する部署の情報交換には明確なファイアウォールが立っているのが、公正競争上当然という旨を説明しています。
SWシステムを利用しない場合でも行われる「取戻し営業」
現在、低圧および高圧500kW未満の需要家を対象として、電力広域的運営推進機関が運営するスイッチング(SW)支援システムが設けられています。また、各一般送配電事業者は、それぞれ2023~2024年度末までにスマートメーターを設置完了することとしています。
現在、スマートメーターが未設置である顧客については、スイッチング時点で、その設置を行う運用が行われています。こうしたケースでは、電力の切替時にスマートメーターの設置工事の手配が行われることとなります。
| 需要家 | SWシステム |
|---|---|
| 低圧 | 対象 |
| 高圧500kW未満 | |
| 高圧500kW以上 | 対象外 |
| 特別高圧 |
低圧などSWシステムを利用したプロセスにおいては、需要家がスイッチングを申し込んだ時点において、新事業者は現事業者に対して、現小売供給契約の解除の申し込みを行います。
廃止取次を受けた現事業者が、その情報を直接、または間接に利用して「取戻し営業」を行っている場合もあり、中には、不当と思われる価格によるものもあるとの指摘があります。
例えば、安い料金プランを提供する条件として、違約金で担保された2~3年の契約とされるケースが多いとされています。また、需要家側からの求めに応じる形で特別料金での提案を行い、結果的に「取戻し営業」となるようなケースも想定されるとの指摘もあります。
特別高圧などはSWシステムを利用しない場合、現事業者への廃止の意思表示は、新事業者がSWシステムによって廃止取次を行うのではなく、需要家から直接実施される点が大きく異なります(図1)。
なお、こうしたSWシステムを利用しないケースでも取戻し営業を行っている場合があり、中には不当なものもあるとの指摘があります。

図1 高圧500kW以上の需要家のスイッチングプロセス
スマートメーターを設置する前に電力供給開始できる可能性
電力スイッチングの短期化は、需要家がスイッチング後の新たなサービスを早期に受けることが可能となるなど、需要家の利益の保護の観点から望ましいです。加えて、不当な取戻し営業が行われる機会を減少させるという側面もあります。
しかしながら現状、旧一般電気事業者から新電力にスイッチングする際には、スマートメーターといった通信端末が設置されていないことが多いです。そのため、スイッチング手続きに最大2か月程度を要することとなり、切替期間が長引く要因となっています。
一方で、当該期間において、需要家がスイッチングを中止する場合は、新たにスイッチング申込する必要性はありません。新電力との小売供給契約をキャンセルするのみの処理で完了します。この申込期限の期間差が、取戻し営業につながる要因として指摘されています。
また、現状では、スイッチング完了前に通信端末工事を一律に実施する運用とされています。しかし、通信端末工事の前に電力供給を開始できるよう切替フローを変更する可能性が検討されています。
これにより、新小売電気事業者の希望があれば、電力供給開始日を早められます。この場合、スイッチング完了以降速やかに通信端末工事を実施する必要性が指摘されています(図2)。

図2 スイッチング時の通信端末工事について
ベースロード電源へのアクセスが難しい新電力
専門会合において、新電力事業者からは、旧一般電気事業者は、一部の地域において、特定の顧客に対して対価が非常に低い小売供給を提案しているという指摘があります。当該対価は、水力や原子力等の可変費が非常に安い電源を利用しつつ、固定費は限定的に上乗せすることで可能となっている可能性があります。
一方で、現時点で新電力は、常時バックアップの受電はあるものの、ベースロード電源に対するアクセスは限定的です。そのため、取引所、卸供給、可能な発電所の建設といった可能な手段を尽くしても、調達可能な価格水準については、一定の限界があります。
このため、旧一般電気事業者の行動は、現状の電源アクセスの状況を踏まえれば、新電力事業者の事業を困難とし、市場からの退出に至らせる可能性があります。これは、将来の競争を減殺し、電気事業の健全な発達に支障を及ぼす恐れがあるとされています。
そのため、新電力も大規模なベースロード電源へアクセスすることを容易とするため、ベースロード電源市場が創設される見込みです。同市場は2019年に取引開始し、新電力の価格競争力を高めると期待されています(図3)。

図3 ベースロード電源市場
しかしながら、現状においても、電力の入札において、低い負荷率帯では、新電力が旧一般電気事業者との価格競争の末、落札する傾向があります。一方で、高い負荷率になるほど、旧一般電気事業者が新電力との競争の末、落札する傾向があります(図4)。そのため、低い負荷率帯においては新電力も高い価格競争力を保持していると考えられます。

図4 全国の競争入札の状況
今後の流れ
他の事業者への切替を行うプロセスに入った顧客に対して、調達可能価格以下の差別的な安値を提示することは、新電力の事業を困難にし、電気事業の健全な発達および需要家の利益を阻害する恐れがあります。専門会合ではこのような行為を、現行電気事業法に基づき、問題となる行為に位置付けることも含め、更に実態を調査しつつ、規制のあり方について検討を進める可能性が示されています。
この続きを読むには会員登録(無料)が必要です。
無料会員になると閲覧することができる情報はこちらです
執筆者情報

一般社団法人エネルギー情報センター
EICは、①エネルギーに関する正しい情報を客観的にわかりやすく広くつたえること②ICTとエネルギーを融合させた新たなビジネスを創造すること、に関わる活動を通じて、安定したエネルギーの供給の一助になることを目的として設立された新電力ネットの運営団体。
| 企業・団体名 | 一般社団法人エネルギー情報センター |
|---|---|
| 所在地 | 東京都新宿区新宿2丁目9−22 多摩川新宿ビル3F |
| 電話番号 | 03-6411-0859 |
| 会社HP | http://eic-jp.org/ |
| サービス・メディア等 | https://www.facebook.com/eicjp
https://twitter.com/EICNET |
関連する記事はこちら
一般社団法人エネルギー情報センター
2026年01月19日
電力小売全面自由化から10年 数字が語る制度と市場の現実【第2回】10年で広がった、「経営の期待」と「現場の実務」の距離
「自由化から10年」という節目を迎え、制度の成果や市場の成熟度をめぐる議論が活発化しています。 現場の会話をたどると、同じキーワードでも立場により意味がずれます。 たとえば、経営の「コスト削減」は現場では「業務負荷の増加」、制度側の「安定供給」は供給現場では「柔軟性の制約」として現れます。 第2回では、こうした変化のなかで生じている立場ごとの認識のずれを整理し、経営・現場・供給事業者という三つの視点から、なぜ議論が噛み合わないのかを構造的に考察します。
一般社団法人エネルギー情報センター
2025年12月31日
電力小売全面自由化から10年、数字が語る制度と市場の現実【第1回】数字の区切りに惑わされず、いまの制度と市場を見直す
「自由化から10年」という言葉が、各所で頻繁に取り上げられるようになりました。 しかし、制度の導入や市場設計の見直しが今も続いており、電力を取り巻く環境は「完成」に近づくどころか、なお変化の途上にあります。 本稿では、数字がもたらす完了感と、制度・市場の実態との間にあるずれを整理し、“節目”という言葉の意味をあらためて考えます。
一般社団法人エネルギー情報センター
2025年12月27日
政府も注目する次世代エネルギー 核融合の仕組みと可能性 【第5回】社会実装と中長期シナリオ 2030年代のロードマップと日本の戦略
これまで4回にわたり、核融合という次世代エネルギーの可能性を、研究・技術・制度の観点からたどってきました。長らく“夢のエネルギー”と呼ばれてきた核融合は、いま確実に社会の現実へと歩みを進めています。 最終回となる今回は、社会実装に向けたロードマップと、日本が描くべき中長期戦略を考えます。 核融合が“希望の象徴”で終わらず、私たちの暮らしに息づくエネルギーとなるために、次の時代に向けた道筋を描きます。
一般社団法人エネルギー情報センター
2025年12月17日
政府も注目する次世代エネルギー 核融合の仕組みと可能性 【第4回】制度設計・安全規制・地域産業化 社会実装に向けた最新動向
第1回では核融合の基本、 第2回では国内研究基盤、 第3回では民間企業による産業化の動きを整理してきました。 こうした技術・ビジネス面の進展を踏まえ、2025年後半には「社会実装」に向けた制度づくりや安全規制の検討が政府内や国際機関で動き始めています。国際基準への日本の参画や、地域での研究・産業活動の広がりなど、核融合を社会に組み込むための枠組み形成が進みつつあります。 本稿では、制度・安全・産業の三つの観点から、この転換点の現在地を整理します。
一般社団法人エネルギー情報センター
2025年11月30日
政府も注目する次世代エネルギー 核融合の仕組みと可能性 【第3回】民間企業が牽引する核融合ビジネスの現在地 国内外で加速する産業化の動き
第1回では核融合の基本原理と方式を、第2回ではJT-60SAやLHDを中心に日本の研究基盤を整理してきました。近年は研究成果が民間へ移行し、実証炉開発や供給網整備が本格化しています。高温超伝導やAIなどの技術進展により小型化と効率化が進み、投資も拡大。本稿では国内外スタートアップの動向と商用化に向けた論点を整理します。




























