証書等を用いた再エネ調達の価格、「Jクレジット」「グリーン電力証書」「非化石証書」

2018年02月07日

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

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自然エネルギー財団は1月、自然エネルギーの電力を効率的に調達するためのガイドブック発行しました。今回の記事では、代表的な自然エネルギーの発電設備による証書・クレジットである「Jクレジット」「グリーン電力証書」「非化石証書」について見ていきます。

3種類の再エネ証書・クレジット

自然エネルギーの調達量を増やす手段の1つとして、自然エネルギーが生み出す環境価値を証書で購入する制度があります。環境価値を高めたい企業や自治体は、「Jクレジット」や「グリーン電力証書」を利用できます。電力の契約とは別に、証書を購入することによって、自然エネルギーの環境価値を活用できます。

小売電気事業者は、「Jクレジット」や「グリーン電力証書」に加え、FITで買い取った電力に対して発行する「非化石証書」を購入できます。それぞれの特徴について、見ていきたいと思います。

自家消費の電力から創出する「Jクレジット」

「J-クレジット制度」は国が運営しており、企業や自治体が再エネ由来のJ-クレジットを購入すると、環境価値をCO2排出量の削減などに利用できます。

再エネ由来のJ-クレジットの対象になる自然エネルギーは、「太陽光・風力・水力・地熱・バイオエネルギー」の5種類です。発電した電力を自家消費していることが前提になっており、売電している場合には対象になりません。

再エネ由来のJ-クレジットの取引量は、2016年度に約87万トン(CO2 換算)にのぼりました。電力のCO2排出量の全国平均をもとに計算すると、1年間で約15億kWh分の電力に相当します。

J-クレジットの価格については、2017年4月の入札では平均で908円/トンでした。これを電力に換算すると、約0.5円/kWhになります。ただし J-クレジットの価格は入札によって大きく変動する可能性があります。また、クレジットを発行できる期間は最長で8年に限られます。

再エネ発電の環境価値をJ-クレジットとして売りたい場合、国の認証委員会が発電プロジェクトの内容を審査して認定します。プロジェクトの申請にあたっては発電設備の設置場所をはじめ、使用する機器のメーカー名や型番、出力や稼働開始時期などを計画書にまとめて提出する必要があります。

自治体などが、住宅で自家消費している太陽光発電の環境価値を集約してJ-クレジットを発行しているケースが多いです。住宅用の太陽光発電であれば、環境負荷が小さくて地域性もあります。

J-クレジットを購入したい場合、方法は3通りあります。①「Jクレジット・プロバイダー」と呼ばれる仲介事業者を通じて購入、②J-クレジットを創出する相手から直接購入、③J-クレジット制度の事務局が実施する入札参加による購入です。

入札は、毎年1~2回の頻度で不定期に実施されています。J-クレジット・プロバイダーには、2018年1月の時点で、6社が登録されています。

古い発電設備も認定可能な「グリーン電力証書」

自然エネルギー由来の証書として、「グリーン電力証書」が多くの企業や団体で使われています。グリーン電力証書は2000年に制度が始まっており、証書の対象は「太陽光・風力・水力・地熱・バイオエネルギー」の5種類です。自然エネルギーの発電設備であっても、固定価格買取制度の適用を受けている場合にはグリーン電力証書の対象になりません。

2017年4月1日時点で、グリーン電力証書の認定を受けている発電設備の数は386カ所あります。2016年度の発行量は3億1100万kWhであり、J-クレジットの5分の1程度です。このうち約7割の証書を、東京電力エナジーパートナーなどが出資する日本自然エネルギーが取り扱っています。

グリーン電力証書の価格は、販売する事業者によって異なります。価格を公表している事業者と、見積もりで価格を決める事業者があります。見積もりの場合には、一般的に証書の購入量が多いほど価格が安くなります。自然エネルギー財団によると、2017年度の標準的な価格は、大口の購入者で3~4円/kWhとなります。

この追加的コストにより、企業や自治体は、自然エネルギーの電力を購入したのと同等のメリットを享受できます。例えば、証書の購入量に応じて、国などに報告するCO2排出量を削減することが可能になります。電力の使用に伴うCO2排出量から、証書の購入分だけ差し引くことができます。

グリーン電力証書は資源エネルギー庁のガイドラインに基づいて、第三者機関のグリーンエネルギー認証センターが発電設備を認定したうえで証書を発行します。バイオエネルギーと化石燃料を組み合わせた混焼発電や、バイオエネルギーの一種である廃食用油と灯油の混合燃料による発電方法も認められています。

グリーン電力証書の認定を受けている発電設備の中には、運転開始から長年を経過したものも含まれています。特にバイオエネルギーによる発電設備では、運転開始から20年以上を経過しているものがあります。一方で、前述のJ-クレジットでは、2013年4月1日以降に実施したプロジェクトであることが登録の条件に入っています。

FITでんきの環境価値「非化石証書」

政府は固定価格買取制度で買い取った電力の環境価値を、「非化石証書」として発行する予定です。FIT電気の環境価値を電力から切り離して証書で販売するもので、2017年4月以降に発電したFIT電気が対象になります。

非化石証書を扱う「非化石価値取引市場」は、2018年5月に開設されます。入札方式で証書の売買が行われ、化石燃料を使わない原子力発電と大型水力発電(出力3万kW以上)による電力や、FIT電気以外の再エネも、 2019年度から取引の対象に加わります。

非化石証書は、小売電気事業者であれば購入できます。「再エネ指定」と「指定無し」の2種類に区分して市場で取引され、FIT電気の環境価値は再エネ指定の非化石証書として発行されます。

小売電気事業者は再エネ指定の非化石証書を購入することによって、自然エネルギーの環境価値を伴う電力を消費者に販売できます。供給する電力と同量の証書を購入すれば、「実質再エネ100%」の電力として販売することが認められます。

証書の対象になるFIT電気は、2017年度に700億kWh程度に達する見通しです。そのうち 4~12月の証書が、2018年5月の第1回入札で売り出されます。発行量は500億kWh以上にのぼり、日本全体の電力需要の約6%に相当する規模になります。

第1回の入札では、最低価格を1kWhあたり1.3円、最高価格は4円/kWhに設定されます(図1)。発行量が多いことから、最低価格の1.3円に近い水準で落札するケースが大半を占めると考えられます。

これまで再エネ証書・クレジットの概要を見てきましたが、それらを活用している企業の1つにソニーがあります。2016年度には再エネ由来のJ-クレジットを約1万3000トン購入、さらにグリーン電力証書を年間1450万kWh 購入しています。加えて、東京電力エナジーパートナーのアクアプレミアムの利用も開始しています。

アクアプレミアムは、水力発電による電力を使った自然エネルギー100%のメニューです。500kW以上の大口ユーザーに限定して販売しています。東京電力エナジーパートナーの「お客さま相談室」によると、20%をアクアプレミアムに切り替えた場合、通常の電気料金と比べて1kWhあたり4~5円高くなります。

このように、ソニーは複数の手段を組み合わせ、自然エネルギーの調達量を増やす取り組みを行っています。

自然エネルギーの発電設備による証書・クレジット

図1 自然エネルギーの発電設備による証書・クレジット 出典:自然エネルギー財団

CDPで利用できる「Jクレジット」「グリーン電力証書」

いまや世界中の投資家が自然エネルギーの活用を企業に求めるようになってきました。その点で数多くの投資家が重視しているのが、気候変動に対する企業の取り組みを評価するNGOのCDPによる活動です。

CDPは、選定した企業に対して質問書を送付し、その回答をもとに、最高レベルの「A」から「D-」まで8段階で評価します。2017年には全世界で5600社以上に質問書を送り、2400社以上が回答しました。日本の企業は500社が含まれていて、回答数は283社にのぼりました。

CDPの評価を受けるにあたっては、国際規約の「GHGプロトコル」に準拠して、CO2の排出量を算定することが推奨されています。GHGプロトコルでは、CO2排出量が3段階(スコープ1~3)に分けて計算されます(図2)。

「スコープ 2」の CO2 排出量を算定する 2 通りの方法(番号は優先順位)

図2 「スコープ 2」の CO2 排出量を算定する 2 通りの方法(番号は優先順位) 出典:自然エネルギー財団

このうちスコープ2の電力消費による間接排出量については、2015年から新しい評価基準に変わりました。新基準には2つの評価方法があり、①電力系統全体の平均CO2排出係数をもとに計算する「ロケーション基準」、②各企業が個別に契約する電力のCO2排出係数を適用できる「マーケット基準」です。

このうち「マーケット基準」では、自然エネルギーの電力をより多く調達する企業が評価されます。日本の「グリーン電力証書」と「J-クレジット(再エネ由来)」もマーケット基準の対象に加えることができます。新たに始まる非化石証書の取り扱いについては、現在検討が進められています。

非化石証書をRE100で活用

NGOのThe Climate GroupとCDPは、2014年から「RE100」に取り組んでいます。RE100は世界の有力企業がメンバーになっており、使用する電力を自然エネルギーに100%転換することを宣言しています。加盟している企業の数は2017年7月に100 社を超えました。

日本からは、オフィス機器メーカーのリコーが2017年4月に初めて、RE100のメンバーに入りました。続いて、住宅メーカーの積水ハウスとオフィス用品販売のアスクルが加盟しました。

RE100に加盟した企業は世界各地の専門家や関連機関からアドバイスを受けながら、自然エネルギーの電力を調達する体制を構築できます。そのうえで実行した結果をもとに、効率の良い調達方法や利用効果を外部に公表する役割も担います。

こうした活動を通じて、ナレッジ・シェアリングを拡大し、より多くの企業が自然エネルギーの電力を活用することがRE100の目的です。

RE100では、電力を調達した発電設備に関して信頼性のある情報を証明できることを重視します。この点で、日本の非化石証書には発電設備に関する情報が一切含まれていないため、RE100が推奨する基準は満たしていません。

自然エネルギー財団によると、こうした問題の解決策として、小売電気事業者が発電事業者と個別に契約したFIT電気と非化石証書を組み合わせる方法が可能です。小売電気事業者が、FITの認定を受けた発電設備を対象に電力の供給契約を結んだうえで、再エネ指定の非化石証書を加えて販売するスキームです(図3)。

このスキームを適用すれば、企業や自治体は小売電気事業者を通じて発電設備を特定できるため、国際的な基準でも自然エネルギーの電力を利用していると認められる条件を満たします。FIT電気と非化石証書の購入コストを低く抑えることができれば、通常の電力と比べてさほど高くない価格での販売も可能です。

FIT電気と非化石証書(再エネ指定)を組み合わせた電力調達スキーム

図3 FIT電気と非化石証書(再エネ指定)を組み合わせた電力調達スキーム 出典:自然エネルギー財団

世界の再エネ証書

欧米の先進国をはじめ世界の各地域で、自然エネルギーの電力を認定・評価する仕組みが浸透しています。海外で事業を展開する日本企業は、地域ごとに異なる認定・評価制度に合わせて電力を調達する必要があります。

欧州ではEUが、2009年に再生可能エネルギー促進指令を出しました。発電事業者に対して、発電設備の内容を記載した証書「Guarantee of Origin(GO)」を発行するように義務づけました。

また、米国を中心に北米にも自然エネルギーの電力を対象としたラベリング制度があります。例えば、数多くの企業や自治体が標準的に利用している「Green-e Energy」があります。NGOのCenter for Resource Solutions(CRS)が運営しています。

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