改正FITで大きく変わる、申請手続きのシステム化や入札制度など新しい仕組み
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2017年03月03日
一般社団法人エネルギー情報センター
資源エネルギー庁は2月、改正FITに関する各種情報を公開しており、その中には入札制度といった新しい仕組みや、軽微変更届出といった当面の対応について触れられています。このコラムでは、それら改正FITに関する概要をまとめます。
買い取り費用の負担、平均家庭で毎月675円の負担に
再生可能エネルギーの導入拡大は、資源を輸入する日本にとっては自給エネルギーの確保、そして低炭素社会の実現等の観点から重要です。そうした中、再エネ導入を促進するため、2012年7月に固定価格買い取り制度がスタートしました。固定価格買い取り制度は、再生可能エネルギーで発電された電気を、電力会社等が一定価格で買い取ることを国が約束する制度です。
現状では高い再生可能エネルギーを買い支えることで、環境負荷の低いエネルギー導入が促進されます。この制度により、高い発電設備の設置コストも回収の見通しが立ちやすくなりますので、太陽光発電を中心に普及が進みました。実際に、固定価格買い取り制度の始まる前まで、再生可能エネルギー設備容量は年平均で5~9%の伸びであったのが、制度が始まった後は29%まで急増しています(図1)。その結果、2012年の制度開始以来、再生可能エネルギー導入量は約2.5倍に増加しました。
図1 再生可能エネルギー設備容量の推移 出典:資源エネルギー庁
再エネ普及の観点では効果のあった固定価格買い取り制度ですが、国民負担が増大してきています。平均的な家庭であれば、2012年度は月に66円の負担であったものが、2016年度には675円と10倍以上に膨れ上がっております。総額で見ますと、買取費用は2016年度で約2.3兆円(賦課金は約1.8兆円)という規模に達しており、エネルギーミックスの検討においては、再生可能エネルギー拡大のために投ずる費用(買取費用)が3.7~4.0兆円と設定されています(表1)。
そのため、国民負担を抑制する必要性が増してきていますが、再生可能エネルギーの最大限の導入も重要ですので、二つを両立するべく、コスト効率が高い手法が必要とされています。
年度 | kWhあたりの賦課金 | 買取費用 | 賦課金 | 標準家庭の負担額(月) |
---|---|---|---|---|
2012年度 | 0.22円 | 2500億円 | 1300億円 | 66円 |
2013年度 | 0.35円 | 4800億円 | 3300億円 | 105円 |
2014年度 | 0.75円 | 9000億円 | 6500億円 | 225円 |
2015年度 | 1.58円 | 1兆8400億円 | 1兆3200億円 | 474円 |
2016年度 | 2.25円 | 2兆3000億円 | 1兆8000億円 | 675円 |
2030年度 | 3.7~4.0兆円 |
表1 固定価格買取制度導入後の賦課金等の推移 出典:資源エネルギー庁資料より作成
産業用太陽光発電が5割以上
固定価格買い取り制度の後押しもあり、制度の開始する前(2012年6月末)までは2060万kWであった再生可能エネルギーの設備導入量は、2016年10月末には5324.6万kWh(導入前2060+導入後3264.6)まで拡大しています。各発電類型別に設備導入量を見ると、2016年10月末時点においては、産業用太陽光が2757.8万kWであり、全体の5割以上を占めています。次点で住宅用太陽光発電(909.8万kW)、中小水力(982.4万kW)、風力(318.5万kW)、バイオマス(305万KW)、地熱(51万kW)と続きます。
このように、現在の日本の再生可能エネルギーは太陽光発電を中心に普及が進んでおります。ただ、太陽光発電が普及したのは固定価格買い取り制度の後です。特に産業用については、制度前は90万kWと他の電源と比較して低い水準(地熱の50万kWが最下位であり、産業用太陽光は下から2位)でした。つまり、2016年10月末時点(2757.8万kW)の30分の1程度の規模となります。一方で、地熱発電は開発期間が長いこともありますが、制度開始前の50万kWから2016年10月末時点で51万kWであり、ほとんど伸びていない結果となっています(図2)。
図2 2016年10月末時点における再生可能エネルギー発電設備の導入状況 出典:資源エネルギー庁
顕在化してきた課題、5つの対策にて対応
これまで固定価格買い取り制度が運用される中で、3つの課題が顕在化してきました。まず一つ目が、太陽光発電に偏った導入です。未稼働等の案件も含めた認定量に関しては太陽光が全体の9割を占め、かつ未稼働の案件も31万件と非常に多いです。二つ目が、国民負担の増大です。買い取り費用は2016年度に約2.3兆円となり、ベストミックスでは2030年に3.7~4.0兆円になると想定されています。3つめが、電力システム改革との連携です。小売り自由化や広域融通といったものとバランスをとった仕組みが求められます。
こうした3つの課題に対応するため、固定価格買い取り制度が抜本的に見直されます。改正FTIは5つの考え方をベースに改正され、その一つ目は新認定制度の創設です。未稼働案件の排除と防止、そして適切な事業実施を確保する仕組みです。2つ目が、コスト効率的な導入です。大規模太陽光の入札制度や、単年度ではなく中長期的な買取価格目標が設定されます。3つめが、リードタイムの長い電源(開発に比較的長期間を要する)の導入推進です。地熱・風力・水力等の電源に関しては、複数年の買取価格が予め提示されます。4つ目が、減免制度の見直しです。 国際競争力維持・強化、省エネ努力の確認等による減免率の見直しが行われます。5つ目が、送配電買取への移行です。買取義務者が小売事業者から送配電事業者に変更され、かつ電力の広域融通により導入拡大を推進する仕組みとなります。以下にて、この5つの考え方をベースとした改正FITの内容について見ていきたいと思います。
①未稼働案件の防止、運転開始が遅くなるとペナルティ
これまでの固定価格買い取り制度では、未稼働案件が大きな課題でした。特に産業用太陽光は、認定容量が7,550.0万kWであるのに対し、実際に運転を開始したものは2667.8万kW(2016年10月末時点)と3分の1程度に留まっています。そのため、改正FITでは運転開始期限が設定され、10kW以上の場合は認定日から運転開始日まで3年を超過の場合、調達期間が短縮(月単位)されます。また、10kW未満の場合は、認定日から運転開始日まで1年を超過の場合、認定失効となります(図3)。
図3 認定申請から発電事業終了までの流れ 出典:資源エネルギー庁
②コスト効率的な導入、大規模太陽光で入札
改正FIT法では、入札制度の対象として指定された再生可能エネルギー発電設備の区分等においては、調達価格を入札によって決定することとなります。具体的には、当面は2MW以上の事業用太陽光発電が対象となり、1kWh当たりの価格と発電出力についての札が入れられる形となります。最も安価な札を入れた者から順次、入札全体の募集容量に達するまでの者が落札者となります(図4)。
入札の第1回は2017年10月を目途に実施される予定です。その後は、2017度及び平成2018年度(7月、12月予定)に実施されるので、2年間で合計3回となります。入札量は第1回~第3回で合計1~1.5GWとなり、第1回は、500MWです。上限価格は、第1回は21円/kWhであり、第2回・第3回は第1回の結果を検証して設定されます。なお、第1~3回において調達期間は20年間として設定されます。
図4 入札のイメージ 出典:資源エネルギー庁
入札の他、電源毎に中長期的な価格目標を設定することとなっており、これを通じて事業者の努力やイノベーションによるコスト低減を促すこととしています。具体的な数値が示された目標としては、例えば非住宅用太陽光(産業用)に関しては、2020年で発電コスト14円/kWh、2030年で発電コスト7円/kWhの見込みです。住宅用太陽光に関しては、2019年でFIT価格が家庭用電気料金並み、2020年以降は売電価格が電力市場価格並みになることを早期に目指します。そのほか、陸上風力は2030年までに発電コスト8~9円/kWhという目標があります。
③リードタイムの長い電源の促進、地熱などは価格が据え置き
リードタイムの長い電源については、事業化判断の後、発電設備等の詳細が最終的に確定し、FIT 認定を得られるまでに長期間を要します。そのため、買取価格が分からないまま、事業の具体化(環境アセスメントや地元調整)を進めざるを得ない状況でした。しかし、改正FIT法においては、数年先の認定案件の買取価格を予め決定する仕組みが導入されます。
例えば地熱や水力などは2017年~2019年度において、概ねの電源規模において価格が据え置かれることとなります。(水力は例外があり、5000kW以上30000kW未満の場合20円、そして1000kW以上5000kW未満の場合27円と変更されていく見込み)太陽光発電に関しては価格が引き下げられ、2017年度の価格については、産業用太陽光が21円、住宅用が28~30円となります。住宅用に関しては、2018年に26~28円、2019年に24~26円と段階的に引き下げられていく見込みです(図5)。
図5 調達価格の推移 出典:資源エネルギー庁
電源のリプレースに関しては、新設時と比較した場合に低コスト・低リスクでの導入が可能であるという点で、その促進は重要です。そのため、既存の発電設備の廃止予定時期の2年前の時点からリプレース案件のFIT認定を取得できます。2017年からは、風力・地熱について、リプレースの価格区分が創設されます(図6)。
図6 リプレースに係る調達価格の見直し 出典:資源エネルギー庁
④減免制度、製造業等8割減免、その他は4割
電力多消費事業者の国際競争力の維持・強化の観点から、一定の基準を満たす事業所については、経済産業大臣の認定を受けることにより、賦課金の減免措置の適用を受けることができます。2016年9月28日公布の減免制度の政省令によって、製造業等8割、その他は4割の減免となります。また、省エネ努力が不十分な者については、減免率が半減されることとなります。
⑤送配電買取への移行、買い取ったFIT電気は原則として卸電力取引市場に
FIT電気の買取義務を負う電気事業者は、自由化前は「一般電気事業者、特定電気事業者、特定規模電気事業者」でしたが、改正FITでは送配電事業者(一般送配電事業者と特定送配電事業者)となります。また、送配電事業者が買い取ったFIT電気の供給方法は3つあります。
一つ目は、卸電力取引市場を通じた取引により小売電気事業者に供給されるものです。原則として、この一つ目の方式となります。2つ目は、FIT発電事業者と小売電気事業者との間の合意に基づき、電源を特定した上で相対供給するという方法があります。再生可能エネルギー電気卸供給約款における供給メニューの一つとしての措置です。この方法は、FIT発電事業者と小売との間に個別の契約が締結されていることが必要です。3つ目は、電源を特定せずに小売に相対供給する方法です。再生可能エネルギー電気卸供給約款における供給メニューの一つとして措置です。ただ、利用できるケースは①市場が存在していない地域(沖縄・離島等)、②市場が存在していても使えない場合等(災害時等)といった形で限定的です(図7)。
図7 送配電事業者が買い取ったFIT電気の引渡し方法 出典:資源エネルギー庁
認定申請の手続き、紙申請からシステムも絡めた複合型に
これまで、5つの考え方に基づく改正FITの変更点を見てきました。こうした国民負担の軽減や再エネ導入促進のほか、運用面でも方法が変わっており、例えば申請のシステム化が挙げられます。旧制度では太陽光50kWを超える発電設備については、経済産業局に対して紙申請にて手続が行われていました。しかし新制度では、まずシステムに必要事項を入力した後、登録画面を印刷したものに必要な書類を添付、経済産業局に郵送・持参する流れとなります。これにより、申請された内容に不備がある場合、システムを通じてメールにより連絡が行われます。また、不備内容はシステム内にて確認可能ですので、補正対応もシステムにて行うことが可能となります。
太陽光50kW未満については、設備設置者からの委任を受けた工務店や販売会社等が各種申請手続を行う場合であっても、設備設置者が申請内容を確認する必要があります。設備設置者が「承諾」又は「拒否」をシステムを通じて行い、「承諾」が確認できてから審査に入る仕組みとなります(図8)。なお、設備設置者の意向確認、補正依頼及び今後の重要な案内などのメールを送信する必要があるので、設備設置者のメールアドレスの登録は必須です。
図8 認定申請の手続方法 出典:資源エネルギー庁
50kW未満の太陽光における今年度中の軽微変更届出、2017年3月30日17時までが期限
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執筆者情報
一般社団法人エネルギー情報センター
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