不動産業界が電力小売市場で提供する価値、大東建託グループの新たなる挑戦
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2016年12月07日
一般社団法人エネルギー情報センター
電気利用と密接に関わるファクターは数多く存在しますが、その中でも「住宅」は一際関連性が高いものと思われます。今回のコラムでは、その「住宅・不動産」にフォーカスし事業を展開する「大東エナジー株式会社」の代表取締役社長、望月寿樹氏から、ビジネスモデルの強みなどをお伺いしました。
大東建託グループの新電力企業 大東エナジー、「いい部屋でんき」を提供
電力小売りの全面自由化に伴い、電力という新しい市場で付加価値やサービスを提供する企業が次々と生まれています。その一つに、「いい部屋でんき」を販売する大東エナジー株式会社があります。同社は、大東建託グループが管理する物件の入居者・オーナーの方々に対するサービス向上・管理物件の付加価値向上を目的に設立された企業です。賃貸不動産業界における『消費者目線の電力自由化』に貢献することを目標に掲げ、事業を展開しています。
大東建託グループとしては、エネルギー事業への参入は今回が初めてではありません。その発端としてまず挙げられるのが、2011年9月から開始した「電力アグリゲータ事業(高圧電力一括受電)」です。電力アグリゲータ事業とは、当該住宅の電力需要(住戸+共用部)を高圧電力として一括で受電契約し、受変電設備を介して低圧へと変圧することで入居者に個別供給する仕組みです。入居者は、①安価な電気料金、②入退居時の生活インフラ手続き(電気・ガス・水道など)の煩雑さ低減、③セキュリティー向上などのメリットを享受することができます。2016年9月末時点で111地点(3,091戸)にサービスを提供しています。
その後、2012年8月からは管理建物のオーナーから屋根を借りて発電設備を設置し行う「太陽光発電事業」の展開を開始しています。その発電能力は2016年9月末時点で139.4メガワット(11,431 棟)に達し、一般の家庭約4,527世帯の電力需要を賄うことができる規模になりました。
大東建託グループは、これまでにもこうした電力事業の実績を重ねてきましたが、電力自由化を契機として、新たな付加価値を入居者に提供していくことになりました。それが電力ブランド「いい部屋でんき」であり、賃貸建物の付加価値向上&入居者サービスの向上を実現するスキームです。
いい部屋でんき、全てのテーブルで3~5%の電気代を削減
大東エナジー株式会社は、2016年5月より大東建託グループが管理する賃貸住宅向けに「いい部屋でんき」をスタートしました。通常、新電力は大量の電気を使う大口ユーザーをターゲットとするため、1人暮らしでは経済メリットの出ないプラン設計をしているケースも多く見られます。しかし、「いい部屋でんき」では、地域の電力会社の従量電灯料金テーブルから一定の割引率で電気を供給しています。つまり、電気の使用量が比較的少ない1人暮らしの方でもお得になるということです。下記にて、「いい部屋でんき」の料金プランが持つ3つの特徴について見ていきます(図1)。
- 家賃と電気代の支払いを一本化する「おまとめ請求サービス」
- 電気代が3~5%削減できる「割引サービス」
- 北から南まで電力を提供する「全国サービス」
家賃と電気代を合算して支払うことができます。面倒な支払いの手間もなく、便利で効率的です。
電気をたくさん使う人でも、あまり使わない人でも、誰でも電気代が安価になるプランです。地域の電力会社の従量電灯料金テーブルから一定の割引率(北海道、東京、中部、関西、中国、四国電力管内は5%、東北、北陸、九州電力管内は3%)の料金単価となっています。
「いい部屋でんき」は、北海道電力管内から九州電力管内までの全国で利用することができます。ただし現状では、沖縄電力管内が唯一サービス利用の対象外となっています。
図1 いい部屋でんき 3つのメリット 出典:大東建託
申込件数は8万件超、一ヶ月あたり1万件規模の伸びを達成
「いい部屋でんき」はこれまで見てきたように、3つのメリットを軸として需要家に魅力を訴求しています。ただ、プラン内容が好条件である一方で、加入には条件があり、大東建託グループが管理する賃貸住宅の入居者限定となっています。市場を限定してサービスを提供していますが、それでも1ヶ月に1万件ほどの申し込みがあり、事業開始当初から堅調に契約数を伸ばしています。現在では申込件数ベースでは8万件超、実質的な供給ベースでは7万件ほどの規模となっており、家庭向けの新電力としては屈指の販売量を実現しています。
大東エナジー株式会社 代表取締役社長 望月寿樹氏
大東エナジー株式会社 代表取締役社長の望月寿樹氏は、「低圧向け市場参入の準備を始めたのは、2014年8月から。当初は分からないことの連続で、そもそもビジネスとして成り立つのか、そういった不安もあった。そのような、ノウハウや経験も全くない状態で、手探りでビジネス構築を進めてきた。
事業を始める直前の段階でも、様々な課題に直面した。例えば、託送料金が正式に決定したのが2015年12月のため、その時点でやっとベースの試算が完成し、パートナーの検討を含め、小売電気事業登録の申請直前まで調整を繰り返した。その後も試行錯誤を積み重ね、今では独自のビジネスモデルを形作り、パイオニアともいえる領域まで事業を洗練させてきた。その結果として、現在では毎日数百件という規模でお申し込みをいただけていると考えている。」と述べます。
「いい部屋でんき」の特徴として、まず料金メリットの分かりやすさが挙げられます。電気の使用量に関係なく一律で3~5%の料金が割引されるため、電気に詳しくない入居者の方にも、導入を検討しやすいサービスになっているといえます(図2)。
また、これまでの大東建託グループが積み重ねてきたビジネス基盤を利用し、有効にPR活動を展開している点も「いい部屋でんき」の強みです。具体的には、賃貸契約における一連の流れの中で、電気料金プランをお客様に紹介しています。料金的なメリットも大きいため、お客様としては契約に前向きになる可能性が高く、料金プランを紹介したお客様の多くが「いい部屋でんき」の契約をしています。
望月氏は、100万戸の住宅に電気を提供することが当面の目標だといいます。この100万という数字は、概ね大東建託グループが管理する戸数であり、1戸あたりの電気料金が、仮に年間で10万円だとすると、1000億円の売上となります。これは、沖縄電力の低圧部門の3分の2以上を占めるほどの需要規模です。
図2 いい部屋でんきの料金メリット 出典:大東建託
将来的には内製化を進め、事業効率化を推進
低圧市場への参入当初、数億円という規模のシステムに投資するという意見が大東エナジー内であったとのことです。ですが、一旦はシステム導入を見送る形となりました。その選択は正解だったと望月氏はいいます。なぜなら、仕事を実際に始めてみると、新規契約を主体とした当社スキームに切替(スイッチング)を前提としたシステム提案では、要件を満たすことができないと感じたからです。
このように、仕事を進めて、ふたを開けてみると色々なことが見えてきます。そうした観点からも、大東エナジーでは徐々に内製化を進め、事業効率化を目指していくといいます。過剰に投資していると思われる部分は徐々に効率化し、ビジネスとしてより洗練させていくとしています。
賃貸住宅の総合的な価値向上につながるサービス
現在、人々のライフスタイルは多様化しており、住まいや暮らしに求める役割や価値観も変化してきています。このような環境変化を踏まえ、大東建託グループでは従来から「住まい(建物)というハード面の進化」はもとより、「住まう人の暮らしをより安心で快適・豊かにするソフトサービスの充実」に注力しています。2016年1月には、大東建託の取り組みを総称した賃貸住宅ブランド『DK SELECT』が生まれ、様々な活動を展開しています。
「いい部屋でんき」は、この『DK SELECT』において「進化する暮らし」を実現するために必要な要素として位置づけられています。この「進化する暮らし」は、①お財布、②安心、③暮らしといった3つの観点からサポートするものですが、この中で「いい部屋でんき」は①お財布サポートに資するカテゴリとなっています(図3)。
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執筆者情報
一般社団法人エネルギー情報センター
EICは、①エネルギーに関する正しい情報を客観的にわかりやすく広くつたえること②ICTとエネルギーを融合させた新たなビジネスを創造すること、に関わる活動を通じて、安定したエネルギーの供給の一助になることを目的として設立された新電力ネットの運営団体。
企業・団体名 | 一般社団法人エネルギー情報センター |
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