都市ガスの安定供給評価、南海トラフ地震でも重大被害は発生しない想定
| 政策/動向 | 再エネ | IT | モビリティ | 技術/サービス | 金融 |
一般社団法人エネルギー情報センター

4月22日、ガスシステム改革小委員会が開催され、震災におけるガス供給安定性の評価について議論されました。これまでに発生した地震におけるガス関連設備の被害などを整理し、将来大地震が発生した際の影響を評価する内容です。
ガス導管網の敷設状況、約7割の世帯に供給
都市ガス導管網が敷設されている一般ガス事業者の供給区域は国土全体の6%弱です。供給区域内世帯数では全国世帯数の約67%となります。
東京~名古屋間といった太平洋岸など、未だ接続されていない地域はありますが、都市ガスは国民生活に欠くことの出来ないライフラインであり、経済産業を支える主要なエネルギーの一つとして重要な役割を担っています。こうした都市ガスの震災時における安定供給について、東京ガス、大阪ガス、東邦ガスといった大手3社の製造設備・供給設備における評価を下記にてまとめます。

図1 都市ガス導管網の整備状況 出典:ガスシステム改革小委員会
製造設備、バックアップも活用し安定的な製造能力を確保
ガス製造設備に対する耐性評価にあたっては、内閣府中央防災会議が想定する、南海トラフ巨大地震(地震動5ケース、津波11ケース)及び首都直下地震(M7クラス19ケース+M8クラス大正関東型)のうち、最も過酷な被害となる想定ケースが用いられています。
南海トラフ巨大地震に対しては、全ての工場において最も過酷なケースで震度6強以下となります。東日本大震災において震度6強を観測した仙台市内の工場の実績等から、評価対象設備は十分な耐性を有しているとの評価になりました。
首都直下地震に対しては、最も過酷なケースで震度7の工場が1箇所、震度6強の工場が2箇所となります(表1)。震度6強の工場については、上述と同様、評価対象設備は十分な耐性を有していると考えられますが、震度7の工場(1箇所)についての耐性は、実績からは不明です。今後、高圧ガス保安法において巨大地震を踏まえた耐震基準の見直し検討など、耐性の評価を進める方針です。なお、震度7の工場が仮に製造停止した場合でも、残りの工場(2箇所)からのバックアップにより、概ね製造能力を確保することは可能となります。
| 事業者 | 各工場の震度階([ ]内は工場名) | |
|---|---|---|
| 南海トラフ巨大地震 | 東京ガス | 震度5強[根岸、扇島、袖ヶ浦] |
| 東邦ガス | 震度6強[知多LNG共同、知多緑浜、四日市] | |
| 大阪ガス | 震度6強[姫路]、震度6弱[泉北第一、泉北第二] | |
| 首都直下地震 | 東京ガス | 震度7[根岸]、震度6強[扇島、袖ヶ浦] |
表1 製造設備に対する地震影響 出典:ガスシステム改革小委員会
ガス導管などの供給設備、震度7の地震動を受けるも十分な耐久を有する評価
南海トラフ巨大地震または首都直下地震に対して、各社とも高圧ガス導管、球形ガスホルダーとも、一部の設備については震度7の地震動を受けます。しかし、阪神・淡路大震災において震度7を観測したエリアの中圧ガス導管、球形ガスホルダーの実績等 から、評価対象の設備は十分な耐性を有していると評価されています(表2)。
| 事業者 | 設備 | 震度階([ ]内は数量) | |
|---|---|---|---|
| 南海トラフ 巨大地震 | 東京ガス | 高圧ガス導管 | 震度6弱以下[約920km] |
| 球形ガスホルダー | 震度6弱以下[38基] | ||
| 東邦ガス | 高圧ガス導管 | 震度7[約40km] 震度6強[約140km] 震度6弱以下[約80km] |
|
| 球形ガスホルダー | 震度7[5基] 震度6強[6基] 震度6弱以下[2基] |
||
| 大阪ガス | 高圧ガス導管 | 震度6強[約50km] 震度6弱以下[約680km] |
|
| 球形ガスホルダー | 震度7[2基] 震度6強[6基] 震度6弱以下[22基] |
||
| 首都直下地震 | 東京ガス | 高圧ガス導管 | 震度7[約20km] 震度6強[約240km] 震度6弱以下[約660km] |
| 球形ガスホルダー | 震度7[4基] 震度6強[9基] 震度6弱以下[25基] |
表2 供給設備に対する地震影響 出典:ガスシステム改革小委員会
津波の影響、バックアップにより安定供給を確保
南海トラフ巨大地震または首都直下地震に対して、全ての工場において、浸水深さレベルが1m未満となります。東日本大震災において津波浸水被害を受けた5箇所の工場の実績等から、評価対象設備は十分な耐性を有しているとの評価です。
ただし、南海トラフ巨大地震に対して浸水深さ 0.7~0.9m となる1箇所の工場においては、設備自体は健全であるものの電気設備等の浸水で製造停止し、製造再開に2~3ヶ月程度の復旧期間を要する可能性があります。なお、浸水により製造停止した場合においても、残りの工場(2箇所)からのバックアップにより製造能力を確保することは可能となります(表3)。
| 事業者 | 各工場の浸水深さ([ ]内は工場名) | |
|---|---|---|
| 南海トラフ巨大地震 | 東京ガス | 浸水無し[根岸、扇島、袖ヶ浦] |
| 東邦ガス | 浸水0.2m[四⽇市]、浸水無し[知多LNG共同、知 多緑浜] | |
| 大阪ガス | 浸水0.7〜0.9m[泉北第一]、浸水0.4m[泉北第二]、浸水無し[姫路] | |
| 首都直下地震 | 東京ガス | 浸水無し[根岸、扇島、袖ヶ浦] |
表3 製造設備に対する津波影響 出典:ガスシステム改革小委員会
津波の影響、ガス供給設備は十分な耐性を有している評価
南海トラフ巨大地震または首都直下地震に対して、各社とも球形ガスホルダーの一部が浸水します。ただし、浸水深さレベルは最大のもので2.2mであり、東日本大震災において約3~4m浸水した仙台市内の球形ガスホルダーの実績等から、評価対象設備は十分な耐性を有しているとの評価です(表4)。
| 事業者 | 設備 | 浸水深さ[浸水想定/総設備数] | |
|---|---|---|---|
| 南海トラフ巨大地震 | 東京ガス | 球形ガスホルダー | 浸水無し [0基/38基] |
| 東邦ガス | 球形ガスホルダー | 最大2.2m [5基/13基] | |
| 大阪ガス | 球形ガスホルダー | 最大1.0m [2基/30基] | |
| 首都直下地震 | 東京ガス | 球形ガスホルダー | 最大0.6m [8基/38基] |
表4 供給設備に対する津波影響 出典:ガスシステム改革小委員会
東日本大震災の4倍の復旧要員確保により、約6週間での復旧想定
南海トラフ巨大地震や首都直下地震では、東日本大震災の実績である約10万人/日と比較し、約4倍である40万人/日ほどの復旧要員により、6週間程度での復旧が想定されています。復旧対象戸数は、東日本大震災で約46万戸であったのに対し、南海トラフ大地震では約180万戸、首都直下地震では160万戸となります(表5)。
復旧要員の確保
復旧を応援する側の事業者は、通常業務を行う中で応援要員を捻出するため、大勢の復旧要員を確保することは難しくなります。一方、被災した側の事業者は、通常業務が大幅に減るので、その分を復旧作業要員として割り当てることができます。
南海トラフ地震および首都直下地震における被災事業者には、大手ガス事業者が含まれることになるので、通常業務を担当する多くの要員を復旧要員として確保可能となります。
この続きを読むには会員登録(無料)が必要です。
無料会員になると閲覧することができる情報はこちらです
執筆者情報

一般社団法人エネルギー情報センター
EICは、①エネルギーに関する正しい情報を客観的にわかりやすく広くつたえること②ICTとエネルギーを融合させた新たなビジネスを創造すること、に関わる活動を通じて、安定したエネルギーの供給の一助になることを目的として設立された新電力ネットの運営団体。
| 企業・団体名 | 一般社団法人エネルギー情報センター |
|---|---|
| 所在地 | 東京都新宿区新宿2丁目9−22 多摩川新宿ビル3F |
| 電話番号 | 03-6411-0859 |
| 会社HP | http://eic-jp.org/ |
| サービス・メディア等 | https://www.facebook.com/eicjp
https://twitter.com/EICNET |
関連する記事はこちら
一般社団法人エネルギー情報センター
2026年01月19日
電力小売全面自由化から10年 数字が語る制度と市場の現実【第2回】10年で広がった、「経営の期待」と「現場の実務」の距離
「自由化から10年」という節目を迎え、制度の成果や市場の成熟度をめぐる議論が活発化しています。 現場の会話をたどると、同じキーワードでも立場により意味がずれます。 たとえば、経営の「コスト削減」は現場では「業務負荷の増加」、制度側の「安定供給」は供給現場では「柔軟性の制約」として現れます。 第2回では、こうした変化のなかで生じている立場ごとの認識のずれを整理し、経営・現場・供給事業者という三つの視点から、なぜ議論が噛み合わないのかを構造的に考察します。
一般社団法人エネルギー情報センター
2025年12月31日
電力小売全面自由化から10年、数字が語る制度と市場の現実【第1回】数字の区切りに惑わされず、いまの制度と市場を見直す
「自由化から10年」という言葉が、各所で頻繁に取り上げられるようになりました。 しかし、制度の導入や市場設計の見直しが今も続いており、電力を取り巻く環境は「完成」に近づくどころか、なお変化の途上にあります。 本稿では、数字がもたらす完了感と、制度・市場の実態との間にあるずれを整理し、“節目”という言葉の意味をあらためて考えます。
一般社団法人エネルギー情報センター
2025年12月27日
政府も注目する次世代エネルギー 核融合の仕組みと可能性 【第5回】社会実装と中長期シナリオ 2030年代のロードマップと日本の戦略
これまで4回にわたり、核融合という次世代エネルギーの可能性を、研究・技術・制度の観点からたどってきました。長らく“夢のエネルギー”と呼ばれてきた核融合は、いま確実に社会の現実へと歩みを進めています。 最終回となる今回は、社会実装に向けたロードマップと、日本が描くべき中長期戦略を考えます。 核融合が“希望の象徴”で終わらず、私たちの暮らしに息づくエネルギーとなるために、次の時代に向けた道筋を描きます。
一般社団法人エネルギー情報センター
2025年12月17日
政府も注目する次世代エネルギー 核融合の仕組みと可能性 【第4回】制度設計・安全規制・地域産業化 社会実装に向けた最新動向
第1回では核融合の基本、 第2回では国内研究基盤、 第3回では民間企業による産業化の動きを整理してきました。 こうした技術・ビジネス面の進展を踏まえ、2025年後半には「社会実装」に向けた制度づくりや安全規制の検討が政府内や国際機関で動き始めています。国際基準への日本の参画や、地域での研究・産業活動の広がりなど、核融合を社会に組み込むための枠組み形成が進みつつあります。 本稿では、制度・安全・産業の三つの観点から、この転換点の現在地を整理します。
一般社団法人エネルギー情報センター
2025年11月30日
政府も注目する次世代エネルギー 核融合の仕組みと可能性 【第3回】民間企業が牽引する核融合ビジネスの現在地 国内外で加速する産業化の動き
第1回では核融合の基本原理と方式を、第2回ではJT-60SAやLHDを中心に日本の研究基盤を整理してきました。近年は研究成果が民間へ移行し、実証炉開発や供給網整備が本格化しています。高温超伝導やAIなどの技術進展により小型化と効率化が進み、投資も拡大。本稿では国内外スタートアップの動向と商用化に向けた論点を整理します。




























