母なる海 ~水産資源の危機~

  • 更新日:2020/08/28

所属:明治大学

インターン生:M.Yさん

母なる海 ~水産資源の危機~の写真

地球の体表の7割は海水であり、私たちが普段消費している魚や貝、エビなどはその広大で豊かな海の恵みによってもたらされています。魚や貝などの海洋生物も、他の陸上生物と同じように卵や子を産み、繁殖し、命の鎖をつないでいきます。水産資源は、再生する速さや量を考慮して利用すれば、決して尽きることのない「持続可能な資源」なのです。しかし現在、世界中の海で水産資源に関わる様々な問題が発生しています。

「獲りすぎ」による資源枯渇

世界の水産物の漁獲量は、この半世紀で飛躍的に増えてきました。魚を大量に、効率的に獲るために、漁業で使われる道具や、漁法が進化してきたからです。しかし規模が巨大化することで、環境や資源へのダメージが深刻化しています。

「獲りすぎ」とは、次世代を産む前の魚を大量に漁獲するなど、自然のサイクルを超えて魚が取り続けられることです。現在、世界の海では漁業の大規模化による「獲りすぎ」によって、魚の数が激減しています。

様々な大規模漁法

「はえ縄」や「巻き縄」などの大規模な漁具を使い、魚の種類や大小を問わずにごっそりと獲ることによって、水産資源の状態を悪化させることになりました。また、満杯の網の底で潰れたり、網によって傷つき、売り物にならなくなった魚や、小さすぎて食用にならない魚などを海に捨てることで、海底の環境が破壊されてしまうということも起こっています。

また、「混獲」という、目的以外の生物を網や針などの漁具に絡めて、誤って獲ってしまうことです。アホウドリなどの海鳥、イルカやクジラなどの鯨類、ウミガメ類など、中には絶滅危惧種である生物も数多く「混獲」の犠牲となっています。

さらに海外では、ダイナマイト漁というダイナマイトを海中に投げ込んで爆発させ、死んで浮いてきた魚を拾い集めるという漁法が行われています。一時的に大量の魚を獲れるものの、爆発によってサンゴ礁なども破壊されてしまい、海洋資源の再利用が非常に難しくなる破壊的な漁業です。

実際、1980年代半ばまでは右肩上がりだった漁獲量は、1980年代の後半以降、頭打ちとなっています。1974年から2009年までの水産資源の状態を比べてみると、健全な資源状態の水産資源の占める割合は確実に下がり、一方で枯渇の危機にあるものが増えてきています。

養殖産業にも被害が

「獲りすぎ」によって、世界の海で漁獲量が頭打ちになる一方で、養殖による水産物の生産量は年々増大しており、総生産量の約半分を占めるほどになっています。しかし、養殖水産業にも問題となるケースが存在します。

たとえば、養殖場を作るために沿岸の自然が破壊されてしまったり、養殖場から出される排水や廃棄物が環境汚染を引き起こすことがあります。また、海外から持ち込まれた養殖魚が養殖場から逃げ出した場合、外来種となり、他生物の絶滅や交配による遺伝子汚染を引き起こすこともあります。さらに、養殖魚の餌となる魚粉を作るために、大量の卵や稚魚が海から獲られ、海洋資源に悪影響を及ぼすケースもあります。

養殖業の比率上昇による主な環境への悪影響

  1. 養殖場建設による自然環境の破壊
  2. 水質や海洋環境の汚染
  3. 薬物の過剰投与
  4. 餌となる生物(天然の魚なども含む)の過剰利用
  5. 養殖された魚が病害虫を自然界に持ち込む
  6. 養殖場から逃げ出した個体が外来種として生態系に影響を及ぼす

健全な海洋環境は、養殖業にとっても必要不可欠なのです。

日本の近況は?

日本は水産資源に恵まれた国

日本列島は四方を海に囲まれ、6千以上の島嶼(とうしょ)で構成されています。そのため、国土面積は世界第61位であるものの、排他的経済水域の面積は世界第6位となっています。(2008)

また、日本の水域である太平洋北西部海域は、大西洋北東部海域、太平洋南東部海域と並び、世界の主要な漁場の1つとなっています。この海域では、世界の漁業生産量の約2割を占める約2千万トンが漁獲されています。(2008)

さらに日本の経済水域は、世界の海の中でも生物の多様性が非常に高く、生息が確認されている海洋生物は、全海洋生物の約14%にあたる3万3,629種に及ぶといわれています。そのため、他の国と比べても、日本では非常に多種多様な魚が漁獲されています。(2008)

古来より、日本人は地域や季節に応じて様々な水産資源を漁獲してきました。また、これらをより美味しく食すための知恵や調理法を模索し、発展させてきました。水産物は日本人の食卓において重要な地位を占め、私たちに栄養バランスに優れた食生活を提供してくれます。そんな日本の海も世界の海と同様に、水産資源が非常に危機的な状況にあるということです。

日本の水産資源はほぼ枯渇?

水産庁の資料によると、水産資源は枯渇しているものは41%で全体の4割、豊富なものは19%と2割に満たない状態であると分かります。(2012)また、日本の水産物の輸入金額は135億ドルと、アメリカの140億ドルに次ぐ世界第2位であり、水産資源を獲る国としても、輸入する国としても、重要な国なのです。(2012)世界の漁業資源の問題を考えるとき、日本がいかに大きな責任を負っているかが分かります。

日本のラベル表示問題

私たち消費者が魚介類を買うとき、その商品の情報を知る唯一の手がかりは商品に張り付けられたラベルです。しかし実際には、このラベルに表記されている情報というのは、かなり曖昧な基準によって記されているのです。

国産と海外産の基準

国産の場合、「国産」という文字を表記する必要はなく、その代わりに漁獲水域名(その魚を漁獲した海の名前)の表示が義務付けられています。魚介類における「国産」の定義とは、「日本船籍による漁獲物」とされています。船籍とは、船の国籍登録のことです。

そのため、日本から遠く離れた海で獲った漁獲物であっても、日本船籍の船が獲ったならば、それは「国産」という扱いなるのです。例えば、日本船が南太平洋(オーストラリア周辺)でメバチマグロを漁獲した場合、商品ラベルは「太平洋 メバチマグロ」と表示され、国産扱いとなります。

また、魚介類における「海外産」とは、日本以外の国・地域に船籍のある船が漁獲したものであることを指します。海外生産品の場合、漁獲水域名の表示義務は無く、代わりに「原産国名」の表示が義務付けられています。「原産国」とは世界保健機構(WCO)の協定に基づいて以下のように定められています。

「「一の国又は地域の船舶により公海並びに本邦の排他的経済水域の海域及び外国の排他的経済水域の海域で採捕された水産物」については、当該船舶が属する国が原産国である」

つまり、船で漁獲する場合、どこの海で漁獲しようとも船籍の属する国が原産国となるのです。例えば、台湾国籍の船が南太平洋でメバチマグロを獲っても、ラベルの表示は「台湾 メバチマグロ」となり、実際に台湾周辺の海で獲れたものかは分からないのです。

ラベル表示の「例外」

国産品には「漁獲水域名の表示が義務付けられている」と説明しましたが、実は「水域名の記載が困難な場合、例外として水域名に代えて水揚げ港又はその属する都道府県名を記載すること」ができます。水揚げ港とは、漁獲した魚を陸に上げた港のことです。

例えば、「千葉県 メバチマグロ」と表示されている場合、それは「日本船籍がどこかの海で漁獲したメバチマグロを、千葉県に属するどこかの港で水揚げした」という情報を提示しているに過ぎず、それが千葉県沖で獲れたものかどうかは分からないのです。

この「例外表示」は、現在は水産庁によって、東日本沖の太平洋側で獲られる魚介類商品のラベル上の産地表示について、「漁獲水域」の表示を徹底するように定められています。

養殖品の表示基準

生鮮品の場合、養殖されたものには「養殖」と表示することが義務付けられています(ここで表示義務があるものは餌を与えるものに限られているため、餌を与えず養殖する貝類などは対象外です)。養殖ものの原産地は、「育成機関の最も長い養殖地」のことを指しています。そのため、「国産 ウナギ 養殖」と表示されているものでも、あくまで日本で最も長く育成されたというだけで、それがどこで獲られたものかは分かりません。 

加工品の表示基準

加工品(ツナ缶など)の場合、単に「国産」という表示だけで済ませてしまうことも可能です。また、輸入品の場合、原料原産地の表示義務はなく、「原産国名」の表示が義務付けられています。ここでいう「原産国名」とは、食品が最終的に加工された国の名前を指します。

そのため、仮にラベルに原産国名がタイと表記されていても、それは「最終的にタイで加工して日本に輸入した」ということしか分からず、その原料がどこで獲れたものかは知りえません。ちなみに、刺身盛り合わせなど、2種以上の異種を混合した製品は加工品となります。このような製品では、製品の重量の50%を占める原材料がない場合は、原料原産地の表示義務はありません。

このように、水産品は流通経路の不透明性が高く、手に取った商品が実際にどこで獲られたものであるかを知るのは容易ではありません。

適切な資源管理の実行

世界的に起きている水産資源をめぐる問題。これを解決するためには、漁業の方法を含めた資源管理の徹底を行う必要があります。

乱獲を防止しつつ、漁獲物を効率的、持続的に得るためには、量を獲りすぎないことに加え、十分に成長していない小型漁や卵を抱えた親魚を取り残すなど、「卵からかえる」→「成長」→「産卵」という魚の再生産サイクルを守る必要があります。現在、世界中で水産資源を守るための取り組みが行われています。

マルポール条約

マルポール条約とは、国際海事機関(IMO)によって、1978年に採択され、1983年に発行された国際条約であり、正式名称は「1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する1978年の議定書」というものであり、「海洋汚染防止条約」や「マルポール73/78条約」とも呼ばれます。

主な内容

船舶の航行や事故による海洋汚染を防止することを目的として、船舶から生じる油、化学物質、有害物質、汚水、排ガスなどの投棄・排出の禁止、通報義務、その手続き等について規定しています。 マルポール条約は、本文と2つの議定書及び6つの附属書から構成されており、附属書ごとに規制している船舶廃棄物が異なります。各附属書の内容は以下のようになっています。

  1. 附属書I;油による汚染防止のための規制
  2. 附属書II;ばら積みの有害液体物質による汚染の規制のための規則
  3. 附属書III;容器に収納した状態で海上輸送される有害物質による汚染の規制のための規則
  4. 附属書IV;船舶からの汚水による汚染の防止のための規則
  5. 附属書V;船舶からの廃棄物による汚染の防止のための規則
  6. 附属書VI;船舶による大気汚染防止のための規則

回遊魚「マグロ」の管理機関

水産資源の中には2か国以上の排他的経済水域にまたがって生息する種が存在します。中でもマグロ類は、各国の排他的経済水域の範囲を超えて広く回遊する「高度回遊性魚類」であり、その資源管理のためには、マグロ漁の関係国が協力して対策を講じる必要があります。

そのためマグロ類は、種類及び回遊地域ごとに5つの地域漁業管理機関(RFMO)が設立され、加盟各国の合意のもと、漁獲隻数や漁獲量、操業期間などの資源管理措置が実施されています。

特に日本は、世界のマグロ類の漁獲量(180.3万トン)の約23%を占める41.1万トンを供給しており(2008年時点)、世界一のマグロ類消費国となっています。このため、日本は全てのRFMOに加盟し、マグロ類の国際的管理、違法漁船によるマグロ類の輸入阻止など、マグロ類の資源管理に積極的に活動しています。

海洋科学の国際的協力

1992年に、北太平洋の海洋科学に関する研究の促進とそのための関係国の連携・協力の促進を目的として、北太平洋科学機関(PICES)が設立されました。加盟国として日本、米国、中国、カナダ、韓国及びロシアの6か国が参加しており、他にも水産関係の研究機関や大学も数多く参加しています。北太平洋における海洋生物資源の持続的利用を目指し、調査、研究を行っています。

海のエコラベル

MSCマーク

生態系や資源の持続に配慮した方法で漁獲された水産物であることを示すマークを貼り付けたラベルを「水産エコラベル」といいます。イギリスに本部を置く海洋管理協議会(MSC)が、ラベルを通じて、消費者の水産資源管理についての関心を高めることを目的に、平成9年から認証制度を開始しました。

MSCの認証では、漁業の現場に加えて、水産物の加工・流通の過程でも厳しい審査が行われます。そのため、MSCマークの付いた商品というのは、海洋環境に配慮した信頼のある製品だということを示します。日本においては、京都府機船底曳網漁業連合会のズワイガニ、あかがれい漁業などがこのMSC認証を受けています。

ASCマーク

また、2010年に設立された水産養殖管理協議会(ASC)が、養殖による水産物に対して、同様の認証制度を始めました。この認証制度もMSCと同様、生産現場の養殖場をはじめ、養殖水産物の加工・流通の過程で審査を行います。

ASCマークは、環境と社会に配慮した責任ある養殖水産物であることを示し、このラベルの製品を選ぶことで、消費者が持続可能な水産物養殖の取り組みを後押しすることができます。 この認証制度の根幹となる基準は、「アクアカルチャー・ダイアログ(水産養殖管理検討会)」という会議で決定されます。

会議には、研究者や環境保護団体に加え、生産者や生産団体、バイヤーなどの水産物流通関係者も数多く参加し、様々な視点から、認証制度の根幹となる基準作りを行います。2013年時点でASC 認証の対象となっている魚介類は、全部で12品目あります。

これらのうち、ティラピア、パンガシウス、サケ、二枚貝(カキ、ホタテ、アサリ、ムール貝)、アワビ、淡水性マスについては、すでに基準作りの作業が完了し、ティラピアとパンガシウスは認証製品が完成し、流通が始まっています。

マリン・エコラベル

さらに平成19年には、水産関係団体によって、日本独自の管理協議会、「マリン・エコラベル・ジャパン」(MELジャパン)が創設され、認証制度を開始しました。平成23年までに、近海・遠洋かつお一本釣り漁業、日本海ベニズワイガニ漁業、桜えび2そう船びき網漁業、十三湖しじみ漁業、いかなご船びき網漁業などが認証されています。

また、これらのマークは、先述した魚介類のラベル表示問題において、流通経路のトレーサビリティ(追跡可能)を確立するのに大きな役割を果たします。生産者や流通側においても、自身が扱う製品に対する責任感を自覚できます。

しかし、これらのエコラベルが付いた商品が店頭に並ぶ機会はまだ少なく、水産エコラベルに対する消費者の認知度もまだまだ低いというのが現状です。水産エコラベルの普及のために、加工・流通業者や消費者に、その意義や効果について、理解を促進していくことが重要です。

おわりに

世界の水産資源を守るために、様々な取り組みが行われています。しかしこうした取り組みを、国際機関や団体にのみ任せるのではなく、消費者一人一人が世界の水産資源問題に対する理解と危機意識をもって、積極的に取り組んでいく姿勢が大切だと思います。

今の時代にはTwitterやFacebookなどがあり、情報を拡散することは誰でも容易に行えます。水産資源の問題に対し、まだまだ認知度が低い現状において、これらの情報媒体を通じて多くの人に情報を発信し、世界の海の実態を知ってもらうことも大切です。

また、スーパーマーケットには消費者のニーズに応えるためのシステムがあります。それらのシステムを活用し、「MSCマークの商品を入荷してほしい」など、「持続可能な魚介類」への要望を届けることも効果的です。一人一人の力は小さくても、多くの消費者の声が集まることで、企業や業界を動かす後押しとなります。

今から約40億年前、生命の起源は海にて誕生しました。40億年という途方もない年月の中で、生命のサイクルを回し続けてきた母なる海が、いま、危機に瀕しています。その原因を作ってしまった人類の1人として、また、はるか昔に海から始まった生命の連鎖の一部として、私たちは世界の海洋問題に臨んでいくべきだと思います。

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エコモ博士
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