電力と比較し新規参入の困難なガス小売市場における競争状況

2018年05月17日

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

電力と比較し新規参入の困難なガス小売市場における競争状況の写真

5月15日、競争的な電力・ガス市場研究会が開催され、ガス小売市場における競争状況について状況が整理されました。この記事では、電力と比較すると参入の少ないガスビジネスの現状について見ていきたいと思います。

新規参入のガス小売、家庭用で2.3%の規模に

都市ガスについては、これまで都市ガス会社が独占的に供給してきましたが、1995年から大口を対象とした部分自由化が実施されました。その後、徐々に自由化範囲は拡大していき、2017年4月からは家庭を含む、全ての都市ガス利用者がガス会社を選べるようになりました(図1)。

日本のガス供給の仕組み

図1 日本のガス供給の仕組み 出典:経済産業省

自由化により、都市ガス会社が独占的に供給していた約2.2兆円(需要家数は約2600万件)の市場が開放されることなりました。この結果、都市ガスだけではなく、LPガス等も含めた合計約5兆円のガス市場において、活発な競争によるコスト低廉化と、消費者の利便性の向上が期待されます。

全販売量における新規ガス小売参入者の割合は増加傾向にあり、2018年1月末時点で10.5%となっています。種別で見ると、家庭用では2.3%になっています。小売全面自由化を契機として、商業用、工業用についても増加しています(図2)。

新規参入者のシェアの推移

図2 新規参入者のシェアの推移 出典:経済産業省

参入社数の少ないガスビジネス、電力との差異

経済産業省では、2016年8月1日から小売の事前登録申請を受け付けていました。これまで56社が登録済であり、このうち今回の自由化を機に、越境販売を含め、新たに一般家庭へ供給(予定を含む)しているのは、現状で19社です(図3)。

この参入社数という点では、電力と比較するとガスは規模が非常に小さいです。その理由はいくつか考えられますが、まず1点目は電気と異なり、卸市場が存在しないことが挙げられます。ガスを調達する場合は、旧一般ガス事業者や旧一般電気事業者、石油会社、国産天然ガスを所有する会社等との相対交渉次第となります。ただし、価格指標が存在しないことは事業の採算性を判断する際の一つのネックとなっていると考えられます。一方で電気は、常時バックアップや余剰電源の取引所への全量投入等といった制度が整備されており、ガスと比較すると調達や、価格水準の把握が容易といった特徴を持ちます。

2点目として、ガスは導管を利用した供給が基本であり、域外への供給はハードルが高くなることが挙げられます。一方で、電気は全国に送配電網が張り巡らされており、一部のエリアを除いて域外供給は容易に可能です。

3点目は、保安規制の存在です。ガス事業者には、内管や消費機器に関する保安義務が課されている一方、小売電気事業者には保安義務は課されていません。そのほか、第3者によるLNG基地利用に関する制度設計や、スイッチングシステムに関する問題点などが考えられ、以下にて概要を見ていきたいと思います。

自由化後の小売事業者の登録状況

自由化後の小売事業者の登録状況 出典:経済産業省

LNG基地の利用、2社の申請に留まる

自由化されたガス小売市場の活性化には、LNG基地の利用促進は重要な要素の一つです。その点で、ガス事業においてはLNG基地の第三者利用制度が整備されています。これは例えば、第三者がLNG基地を利用(借りる)する料金について「同一条件同一料金」とすることで、各ガス会社が公平にビジネスできるよう配慮されたものとなります。

ただ、昨年12月末時点において、第三者によるガス製造事業者への利用申請は2件に留まっています。そのため、LNG基地利用の促進に向けては、既に第27回制度設計専門会合にて議論が開始されています。今後、①製造設備余力(設備余力の判定方法、余力情報の開示)、②基地利用料金(料金算定方法、料金情報の開示)、③利用申込に必要な情報について検討が進められる予定です(図4)。

製造設備余力について

図4 製造設備余力について 出典:経済産業省

電気と比較しフォーマットの整っていないガスのスイッチングシステム

スイッチング手続きに関する環境整備も、ガス事業への参入を促す観点から重要です。都市ガス会社のスイッチング手続き等については、電力と同等程度の仕組みを目指すことが第24回ガスシステム改革小委員会において整理されました。

しかし、実際にはスイッチング業務フロー等の標準化は不十分であり、新規参入者の負担となっていることが、制度設計専門会合で新規参入者より指摘されています。

例えば、多くのガス会社はスイッチングシステムを持たないため、お互いに手作業が多く発生し、多大な労力を要します。また、手続に必要なフォーマットや所要日数が統一されておらず、特に複数エリアの参入を前提とした、効率的な業務の実施体制の構築が困難とされています。

そのため、第25回制度設計専門会合では、ガス導管事業者の多くが中小企業であることを踏まえつつ、フォーマット等のばらつきを可能な限り揃えていくことが重要と整理されています。

違約金の競争制限効果

ガスでは大口顧客を対象に、10年超の長期契約を締結し、高額の違約金と組み合わせた「尺取営業」「包括契約」があります。そのため、スイッチングが阻害されていると「競争的な電力・ガス市場研究会」で指摘されています。

この続きを読むには会員登録(無料)が必要です。

無料会員になると閲覧することができる情報はこちらです
電力の補助金

補助金情報

再エネや省エネ、蓄電池に関する補助金情報を一覧できます

電力料金プラン

料金プラン(Excel含)

全国各地の料金プラン情報をExcelにてダウンロードできます

電力入札

入札情報

官公庁などが調達・売却する電力の入札情報を一覧できます

電力コラム

電力コラム

電力に関するコラムをすべて閲覧することができます

電力プレスリリース

プレスリリース掲載

電力・エネルギーに関するプレスリリースを掲載できます

電力資格

資格取得の支援

電験3種などの資格取得に関する経済支援制度を設けています

はてなブックマーク

執筆者情報

一般社団法人エネルギー情報センターの写真

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

EICは、①エネルギーに関する正しい情報を客観的にわかりやすく広くつたえること②ICTとエネルギーを融合させた新たなビジネスを創造すること、に関わる活動を通じて、安定したエネルギーの供給の一助になることを目的として設立された新電力ネットの運営団体。

企業・団体名 一般社団法人エネルギー情報センター
所在地 東京都新宿区新宿2丁目9−22 多摩川新宿ビル3F
電話番号 03-6411-0859
会社HP http://eic-jp.org/
サービス・メディア等 https://www.facebook.com/eicjp
https://twitter.com/EICNET

関連する記事はこちら

物流業界の脱炭素化と中堅・中小企業のGX事例の写真

一般社団法人エネルギー情報センター

2023年12月29日

新電力ネット運営事務局

物流業界の脱炭素化と中堅・中小企業のGX事例

持続可能な未来に向けて物流業界の脱炭素化は急務です。その中でも大手物流企業のGX事例は注目すべきアプローチを提供しています。今回は、脱炭素化の必要性と大手物流企業が果敢に進めるGX事例に焦点を当て、カーボンニュートラル実現へのヒントを紹介します。今回は中堅・中小企業のGX事例です。

スコープ3の開示義務化が決定、脱炭素企業がとるべき対応とはの写真

一般社団法人エネルギー情報センター

2023年11月02日

新電力ネット運営事務局

スコープ3の開示義務化が決定、脱炭素企業がとるべき対応とは

2023年6月にISSBはスコープ3の開示義務化を確定。これを受けて、日本や海外ではどのような対応を取っていくのか注目されています。最新の動向についてまとめました。

電力業界の最新動向について/新電力の撤退等はピークアウト、3割が値上げへの写真

一般社団法人エネルギー情報センター

2023年09月12日

新電力ネット運営事務局

電力業界の最新動向について/新電力の撤退等はピークアウト、3割が値上げへ

厳しい状況が続いた電力業界ですが、2023年に入り、託送料金引き上げと規制料金改定により、大手電力7社が値上げを実施。政府は電気・ガス価格の急激な上昇を軽減するための措置を実施しています。値上げを実施する新電力企業も3割ほどあり、契約停止、撤退・倒産等もピークアウトしています。

“脱炭素先行地域”に62地域が選定。地域のエネルギーマネジメント推進や課題解決のキーワードになるかの写真

一般社団法人エネルギー情報センター

2023年08月31日

新電力ネット運営事務局

“脱炭素先行地域”に62地域が選定。地域のエネルギーマネジメント推進や課題解決のキーワードになるか

2030年度目標のCO2排出量2013年度比46%減を実現するために、地方から脱炭素化の動きを加速させています。今回は、事例を交えて脱炭素先行地域の取り組みについて紹介をします。

水素エネルギーの可能性に目を向け、各国が巨額投資!?海外の最新動向についての写真

一般社団法人エネルギー情報センター

2023年07月11日

新電力ネット運営事務局

水素エネルギーの可能性に目を向け、各国が巨額投資!?海外の最新動向について

6年ぶりの改訂が注目を集めた「水素基本戦略」。同資料の中でも、各国の水素エネルギーに関する動向がまとめられていました。世界で開発競争が激化してきた水素エネルギーについて最新の海外動向をご紹介します。

 5日間でわかる 系統用蓄電池ビジネス ビジネス屋と技術屋が一緒に考える脱炭素