電力会社の切替の際、さらに安い料金等を提示する「取戻し営業」、禁止ルールなど整備の可能性
| 政策/動向 | 再エネ | IT | モビリティ | 技術/サービス | 金融 |
一般社団法人エネルギー情報センター

電力・ガス取引監視等委員会は、電気の需要家がスイッチングを行う際の「取戻し営業」について、今後の対応に向けた論点をまとめました。今後、取戻し営業時の安値提示の是非などについて、ルール整備が行われる可能性があります。
「電力の小売営業に関する指針」等で問題になる可能性がある「取戻し営業」
電力小売の自由化により、各電力会社は市場原理に基づき自由に営業活動を行うことができるようになりました。各小売電気事業者の需要家への営業は原則として自由であり、一般的には価格や付加価値を巡る競争の発現に資するものです。そのような競争の中で小売電気事業者の選択余地が生まれ、需要家の利益につながります。
他方で、「電力の小売営業に関する指針」等で問題になる可能性がある「取戻し営業」が行われている可能性が浮上しています。また、「取戻し営業」を行う一定の場合においては、送配電等業務指針に抵触する可能性があると考えられます。
「取戻し営業」とは、具体的には、現在契約中の電力会社が、切替情報を入手し、契約に基づく違約金請求の予告と併せて、さらに安い料金プランの提示が行うものです(図1)。結果、需要家は、スイッチングを撤回する可能性があります。
経済産業省 電力の小売営業に関する指針【抜粋】
(3) 競合相手を市場から退出させる目的での不当に安い価格での小売供給
小売電気事業者が、競合相手を市場から退出させる目的で不当に安い価格で小売供給を行うことは、小売電気事業者間の公正な競争を阻害するおそれがあり、これにより電気事業の健全な発達に支障が生じる(又は生ずるおそれがある)と認められる場合には、問題となる。なお、取次業者が上記の問題となる行為をしたときであっても、小売電気事業者による指導・監督が適切でない場合には、小売電気事業者自身の行為が問題となる。
ⅱ) 解除に速やかに対応しないこと
需要家側から小売供給契約の解除の申出があった場合、小売電気事業者により需要家の意に反した過度な「引き留め営業」や、過度な本人確認を行うことなどによって速やかに対応しない「引き延ばし営業」が行われるおそれがある。小売供給契約の解除の申出を受けた小売電気事業者や取次業者が解除に正当な理由なく速やかに応じないこと(小売電気事業者が、需要家から取次業者との間の小売供給契約の解除の申出を受けた場合において、取次業者に連絡するなどの対応を速やかに取らないことを含む。)は、これにより電気の使用者の利益の保護に支障が生じるおそれがあるため、問題となる。
また、電力会社が、需要家のスイッチングに関する情報を入手後、違約金が発生する旨を伝える機会を利用して、取戻し営業を行っているといった可能性も浮上しています。
これらの行為が行われている可能性から、電力・ガス取引監視等委員会は2月23日、電気の需要家がスイッチングを行う際の「取戻し営業」について、今後の対応に向けた論点をまとめました。「取戻し営業」が実際に多く行われているとの指摘がある高圧を主たる対象とし、議論が進められました。今後、取戻し営業時の安値提示の是非などについて、ルール整備が行われる可能性があります。

図1 スイッチングプロセス中の「取戻し営業」の時系列イメージ例(SW申込日から申込取消日まで) 出典:電力・ガス取引監視等委員会
特別料金の提供や違約金請求の連絡等でスイッチング阻止
需要家がスイッチングを、新たな電力会社に申し込んだ場合、大部分の高圧契約については、スイッチング支援システムを利用して、顧客の同一性の確認が現在の電力会社によって行われます(図2)。新事業者からの電力供給開始は、供給設備工事などによって申込から1~2月後となることが多いです 。
この間に、現事業者が需要家に対して、特別料金の提供や、違約金請求の旨の連絡といった行為によって、スイッチングが阻止される事例が増加している可能性が委員会で指摘されています。

図2 スイッチング支援システムによるスイッチング廃止取次の業務フロー 出典:電力・ガス取引監視等委員会
「取戻し営業」についてルール整備の可能性
委員会では、スイッチング情報を利用した「取戻し営業」について、何らかのルール整備を検討すべきとの意見があがりました。①現事業者の廃止取次情報の利用方法、②取戻し営業の禁止の是非、③取戻し営業時の安値提示の是非、④規制の対象事業者、⑤交渉機会付与義務条項の是非といった、今後検討するべき5つの論点が挙げられました。
①については、廃止取次手続の必要性などが議論されます。スイッチング開始後、直ちに廃止取次情報が現事業者に通知されるため、「取戻し営業」が可能となっているからです。②は、スイッチング期間における「取戻し営業」を禁止することについての是非が検討されます。
③は、「取戻し営業」のうち、以前より安価な料金を、当該需要家のみに提供する行為の禁止について考えがまとめられます。④は、禁止ルール等について、全ての小売電気事業者を対象とするか、大規模事業者に限定する必要があるか整理されます。
この続きを読むには会員登録(無料)が必要です。
無料会員になると閲覧することができる情報はこちらです
執筆者情報

一般社団法人エネルギー情報センター
EICは、①エネルギーに関する正しい情報を客観的にわかりやすく広くつたえること②ICTとエネルギーを融合させた新たなビジネスを創造すること、に関わる活動を通じて、安定したエネルギーの供給の一助になることを目的として設立された新電力ネットの運営団体。
| 企業・団体名 | 一般社団法人エネルギー情報センター |
|---|---|
| 所在地 | 東京都新宿区新宿2丁目9−22 多摩川新宿ビル3F |
| 電話番号 | 03-6411-0859 |
| 会社HP | http://eic-jp.org/ |
| サービス・メディア等 | https://www.facebook.com/eicjp
https://twitter.com/EICNET |
関連する記事はこちら
一般社団法人エネルギー情報センター
2026年01月19日
電力小売全面自由化から10年 数字が語る制度と市場の現実【第2回】10年で広がった、「経営の期待」と「現場の実務」の距離
「自由化から10年」という節目を迎え、制度の成果や市場の成熟度をめぐる議論が活発化しています。 現場の会話をたどると、同じキーワードでも立場により意味がずれます。 たとえば、経営の「コスト削減」は現場では「業務負荷の増加」、制度側の「安定供給」は供給現場では「柔軟性の制約」として現れます。 第2回では、こうした変化のなかで生じている立場ごとの認識のずれを整理し、経営・現場・供給事業者という三つの視点から、なぜ議論が噛み合わないのかを構造的に考察します。
一般社団法人エネルギー情報センター
2025年12月31日
電力小売全面自由化から10年、数字が語る制度と市場の現実【第1回】数字の区切りに惑わされず、いまの制度と市場を見直す
「自由化から10年」という言葉が、各所で頻繁に取り上げられるようになりました。 しかし、制度の導入や市場設計の見直しが今も続いており、電力を取り巻く環境は「完成」に近づくどころか、なお変化の途上にあります。 本稿では、数字がもたらす完了感と、制度・市場の実態との間にあるずれを整理し、“節目”という言葉の意味をあらためて考えます。
一般社団法人エネルギー情報センター
2025年12月27日
政府も注目する次世代エネルギー 核融合の仕組みと可能性 【第5回】社会実装と中長期シナリオ 2030年代のロードマップと日本の戦略
これまで4回にわたり、核融合という次世代エネルギーの可能性を、研究・技術・制度の観点からたどってきました。長らく“夢のエネルギー”と呼ばれてきた核融合は、いま確実に社会の現実へと歩みを進めています。 最終回となる今回は、社会実装に向けたロードマップと、日本が描くべき中長期戦略を考えます。 核融合が“希望の象徴”で終わらず、私たちの暮らしに息づくエネルギーとなるために、次の時代に向けた道筋を描きます。
一般社団法人エネルギー情報センター
2025年12月17日
政府も注目する次世代エネルギー 核融合の仕組みと可能性 【第4回】制度設計・安全規制・地域産業化 社会実装に向けた最新動向
第1回では核融合の基本、 第2回では国内研究基盤、 第3回では民間企業による産業化の動きを整理してきました。 こうした技術・ビジネス面の進展を踏まえ、2025年後半には「社会実装」に向けた制度づくりや安全規制の検討が政府内や国際機関で動き始めています。国際基準への日本の参画や、地域での研究・産業活動の広がりなど、核融合を社会に組み込むための枠組み形成が進みつつあります。 本稿では、制度・安全・産業の三つの観点から、この転換点の現在地を整理します。
一般社団法人エネルギー情報センター
2025年11月30日
政府も注目する次世代エネルギー 核融合の仕組みと可能性 【第3回】民間企業が牽引する核融合ビジネスの現在地 国内外で加速する産業化の動き
第1回では核融合の基本原理と方式を、第2回ではJT-60SAやLHDを中心に日本の研究基盤を整理してきました。近年は研究成果が民間へ移行し、実証炉開発や供給網整備が本格化しています。高温超伝導やAIなどの技術進展により小型化と効率化が進み、投資も拡大。本稿では国内外スタートアップの動向と商用化に向けた論点を整理します。




























