日本の電力自由化 – 欧州の経験から学ぶべきものはあるのか?(2)

2017年02月01日

セレクトラ・ジャパン株式会社

代表取締役 グザビエ・ピノン

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前回のコラムでは、日本では、電力会社の切り替え率が低いことが懸念されているが、欧州各国の例と比較すれば、その切り替え率は決して低いものではなく、むしろいいことをお話ししました。今回のコラムでは、日本でも関心の高い再生可能エネルギーを使用した電気料金プランとその仕組みについて中心に説明します。

イントロ

前回までに、日本では、電力会社の切り替え率が低いことが懸念されているが、欧州各国の例と比較すれば、その切り替え率は決して低いものではなく、むしろいいことをお話ししました。(フランスでは切り替え率が1%になるのに1年かかりましたが、一方日本は1か月で1%以上になりました。)電気の切り替え率は急激に増えるようなことはなく、どこの国も少しづつ切り替え率が高まっていく傾向があります。

加えて、欧州にはどんな電気料金プランがあるのかもご紹介しました。前回のコラムを読んでいただければわかるように、欧州の電気料金プランは日本に比べるとよりシンプルで分かりやすいといえるでしょう。

今回のコラムでは、日本でも関心の高い再生可能エネルギーを使用した電気料金プランとその仕組みについて中心に説明します。また電力自由化以降に起こった問題や未だに残る課題点についても紹介したいと思います。特に、問題点などは参考になるのではないかと考えています。

再生可能エネルギーを使用した電気料金プラン

フランスを始め、欧州各国では再生可能エネルギー電気料金プランというものがたくさんあります。フランスの旧独占ガス会社であったengieを始め多くの電力会社がいくつかある電気料金プランのなかの1つとして再生可能エネルギー電気料金プランを提供しています。中には再生可能エネルギーによる電気料金プランだけを専門にして電気の小売りを行っている電力会社もあります。フランスの場合、再生可能エネルギーによる電気料金プランは、一般的にl’électricité verte (直訳すれば、グリーン電気となります。)と呼ばれています。

一方、各契約者に提供される電気は、色々な場所で発電された電気がすべて混ざって電線にのって運ばれてくるため、純粋に再生可能エネルギーだけを利用することは自家発電でもしていない限り、実質的に不可能なことは周知のとおりです。それではどのようにして、フランスの電力会社は「グリーン電気」として再生可能エネルギーによる電気料金プランを販売しているのでしょうか。これにはフランス特有のしくみがあります。実はフランスでは、再生可能エネルギーで発電をしている会社から「le garantie d’origine」(直訳すれば、発電元保証書となります。)を購入すれば、発電元保証書で購入した分だけ、「グリーン電気」とうたった電気料金プランを販売することが可能なしくみが存在します。

つまり、発電も行っている電力会社でかつ自社ではまったく再生可能エネルギー発電を行っていない場合であっても、市場からこの「発電元保証書」を購入することで、「グリーン電気」プランを販売することができるわけです。この、「発電元保証書」はさほど高くないため、とある会社の「グリーン電気」プランが、規制電気料金よりも安いというケースも少なくありません。電気の特性上、発電の種類によって電気を選んで各家庭に運ぶことはできないため、物理的に発電元をトレーサブル(特定可能)にすることはできません。各電力会社が「グリーン電気」として発売する電力量の同等分が再生可能エネルギーでまかわなわれていることをこのシステムによって証明することを可能としている訳です。日本で環境省が取り組んでいるカーボンオフセット制度のようなものと考えてもいいかもしれません。非常に合理的なシステムと言えるでしょう。

ちなみに以下が、フランスで販売されている「グリーン電気」の一部です。direct energie社などは、その電気料金プランに「100% Pur Jus」(直訳すれば、100%果汁ジュースの意味です。)といったユニークなプラン名をつけています。このように、フランスを始め、欧州では「グリーン電気」プランは非常に一般的です。

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もちろん、フランスでも、日本の「再生可能エネルギー賦課金」のようなCSPEという税金も存在しています。ちなみにフランスではCSPEや付加価値税などを含め、電気料金に含まれる税金が非常に高いのが特徴的です。にも関わらず電気料金が日本よりも安いのは、発電コストが原子力のおかげで安く抑えられているからと考えられます。

以下は、電気料金の内訳を表しています。電気料金に含まれる税金の割合は37.1%となっています。

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ちなみに、「グリーン電気」プランの契約者は一定数いるものの、電気料金の安さでプランを選ぶ人が欧州では大多数であるのが現状です。

電力自由化以降に起こった問題

それでは、ヨーロッパでは電力自由化以降にはどんな問題が起き、どのような課題が依然としてあるのでしょうか?興味深い事例としてまずイタリアの例をご紹介します。イタリアではEnel社が電気の1社独占企業でした。日本でも「発送電分離」が2020年までに完全に行われる予定となっていますが、イタリアのEnel社は分離をした際に、それぞれ「小売り部門」と「送配電部門」に同じ“Enel”ブランド名をつけました。発電は、Enel Produzione、配電は、Enel Servizio Elettrico、小売りは、Enel Energiaといった具合です。EU指令では分離した各会社名にには別々の会社名をつけることが義務付けているにも関わらず、このように統一したブランド名ををつけたことはイタリアでも大いに批判の対象となっています。このように、イタリアでは、電力会社の切り替えが積極的にすすむような非常に好ましい環境にあるとは言いにくい状況にあります。

さらにイタリアの場合は、ヨーロッパの中でも、日本のように電気料金が複雑な国です。電気の使用料に応じて電気料金が段階制になっている点が共通しています。料金システムが複雑であれば、比較も容易にはできなくなりますので、分かりやすい競争を阻害する要素になっていると言えます。

続いて、オーストリアのケースです。もちろんオーストリアでも、発送電分離のために部門ごとに別会社を作って対応をしたのですが、契約者がどの小売り会社と電気契約を結んでいるかによって、送電を行っている会社が、その対応を差別化するという問題が起こりました。もちろん、新電力に切り替えた契約者へのサービスよりも、電力自由化以降も電力会社を変えずにいた古い顧客へのサービスを優先したわけです。このような問題は現在も完全になくなっているわけではありません。これはオーストリアにも限らず日本でも起こりうる問題だといえます。

ただし、オーストリアの場合は、エネルギー自由化に関連した諸問題を解決するような調停委員会が存在しており、消費者および各電力会社が、現行のルールに関して異議申し立てや改善を要求したり、どこかルール違反を犯しているような会社があれば報告できるようなシステムが作られています。

さらにヨーロッパ全体の課題としては、電力自由化が行われてから10年近くたっているにも関わらず、あいかわらず、電力会社の切り替えがあまりすすんでいいないことがあげられます。また、電力自由化とは直接は関係ありませんが、イタリアやオーストリアでは国民投票により原子力発電所の運転停止が行われ、結果として、電気料金の高騰が生じました。

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執筆者情報

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セレクトラ・ジャパン株式会社

代表取締役 グザビエ・ピノン

パリ政治学院・コロンビア大学にて修士号。東京大学に留学経験を持つ。欧州最大手の電気・ガス料金比較サイト「セレクトラ」を運営。現在フランスを中心に欧州7か国でサービスを展開、欧州での経験をもとに2016年5月に日本(セレクトラ・ジャパン:http://selectra.jp/)でのサービスを開始。

企業・団体名 セレクトラ・ジャパン株式会社
所在地 66 Rue Sébastien Mercier, 75015 Paris, France
電話番号 050-3085-0032
メールアドレス contact@selectra.jp
会社HP http://selectra.jp/
サービス・メディア等 https://hikaku.selectra.jp/
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セレクトラはフランスで電力の自由化が行われた2007年より電気料金・ガス料金比較サイトを運営しており、現在日本を含め世界7か国で同サービスを展開しております。今回のコラムで、日本では簡単にアクセスできないような情報についてシェアさせていただき、すこしでも皆さんの参考になればと考えております。

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