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【第2回】イラン情勢と原油高で電力市場はどう動くのか ―ウクライナ情勢に続く新たな地政学リスクに対し、企業の電気代はこれからどうなるのか。固定料金と市場連動の考え方

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【第2回】イラン情勢と原油高で電力市場はどう動くのか ―ウクライナ情勢に続く新たな地政学リスクに対し、企業の電気代はこれからどうなるのか。固定料金と市場連動の考え方の写真

前回は、中東情勢による原油高がどのように電力市場へ波及するのか、そしてウクライナショックとの違いについて整理しました。 今回はもう少し視点を現場に近づけて、企業の電気料金がこれからどう動くのかを考えてみたいと思います。

はじめに

多くの企業にとって電気料金は、工場や店舗の運営コストに直結する重要な項目です。特に製造業、物流業、小売業などでは、電気代の変動がそのまま収益に影響することも少なくありません。
ただ、ここ数年で電力契約の仕組みは大きく変わっています。現在の電力契約を理解する上で重要なキーワードが、「固定料金」と「市場連動」です。

電気料金はどのように決まるのか

企業の電気料金は、基本的に次のような構造で決まっています。

電気料金
= 基本料金 + 電力量料金 + 燃料費調整など

このうち、電力量料金の部分が電力会社ごとに異なります。

以前は、この電力量料金が固定単価で設定されるケースが多くありました。例えば「1kWhあたり○円」という形で価格が決まり、契約期間中は基本的に同じ単価で電気を購入できる仕組みです。

企業にとっては価格が読みやすく、電気代の予算も立てやすいというメリットがあります。
一方で、電力会社側にとっては大きなリスクがあります。発電燃料の価格や電力市場価格が大きく上昇した場合、調達コストが販売価格を上回る可能性があるからです。

ウクライナショックが変えた電力契約

2022年のウクライナショックは、この構造を大きく変えました。
燃料価格や電力市場価格が急騰した結果、多くの新電力が大きな調達コストを抱えることになりました。固定価格で電気を販売していた会社ほど影響が大きく、結果として

  1. 新規契約の停止
  2. 料金改定
  3. 事業撤退

などが相次ぎました。

この経験を経て、電力小売市場では価格リスクの考え方が大きく変わりました。
電力会社がすべての価格変動リスクを抱えるのではなく、需要家と一定程度分担する形の契約が広がり始めたのです。

市場連動プランとは何か

その代表的なものが、市場連動プランです。
市場連動プランでは、電力量料金の一部が電力市場価格と連動する形で決まります。
例えば

電気料金
= 市場価格 + 小売マージン

といった形で料金が構成されます。

この仕組みでは、市場価格が下がれば電気料金も下がりますが、逆に市場価格が上昇すれば電気料金も上昇します。

出典:JPEX「スポット市場(2019-2024年)https://www.jepx.jp/electricpower/market-data/spot/ave_year.html

このように市場価格が大きく動くため、市場連動型プランでは電気料金も影響を受けやすくなります。

企業にとっては

  1. 市場価格が安いときはメリットが大きい
  2. 価格変動のリスクを一定程度受け入れる

という特徴があります。

ただし、ここには一つのジレンマがあります。
現在は政府の激変緩和措置などが比較的早い段階で導入される可能性があり、JEPX価格が一時的に上昇しても、電気料金への影響が見えにくくなる場合があります。
一見すると価格上昇が抑えられているように見えますが、燃料価格そのものが下がったわけではありません。そのため、補助金が終了したタイミングで料金が動くケースもあり、企業にとっては価格変動の見通しが読みづらくなる面もあります。

固定料金はなくなるのか

では、固定料金の契約は今後なくなってしまうのでしょうか。

必ずしもそうではありません。現在でも固定単価の契約は存在しています。
ただし、以前と比べると

  1. 契約期間が短くなる
  2. 価格見直し条項が入る
  3. 単価が高めに設定される

といったケースが増えています。

特に重要なのは、この「単価が高めに設定される」という点です。

現在の固定料金には、電力会社側が将来の燃料価格や市場価格の上昇リスクに備えるためのリスクプレミアム(保険料)が含まれている場合が少なくありません。
つまり、固定料金は価格が安定する一方で、平常時には市場連動より割高になる可能性があります。

その結果、企業の電力契約は

  1. 固定価格で安定を取るか
  2. 市場連動で価格メリットを狙うか

という選択になりつつあります。

原油高が企業の電気代に与える影響

今回の中東情勢による原油高が企業の電気料金に与える影響も、この契約構造によって変わります。
固定契約の場合は、契約期間中の単価は基本的に変わりません。ただし、契約更新のタイミングでは燃料価格や市場価格を反映した単価になるため、次の契約では価格が上がる可能性があります。

一方、市場連動契約の場合は、電力市場価格の変動が比較的早く電気料金に反映されます。市場価格が上昇すれば、電気料金もそれに応じて上昇する可能性があります。

つまり、企業の電気料金は

  1. 固定契約
    → 更新時に影響が出る
  2. 市場連動契約
    → 比較的早く影響が出る

という違いがあります。

企業が考えるべきポイント

こうした状況の中で、企業が電力契約を見直す際に重要になるのは、単純な価格比較だけではありません。
例えば次のような視点です。

  1. 電力価格の変動をどこまで許容できるか
  2. 電気代の予算を安定させたいのか
  3. 市場価格のメリットを取りに行くのか

企業ごとに最適な選択は異なります。
電力調達は単なるコスト削減ではなく、経営リスク管理の一部として考える必要があるのです。

次回:電力調達は価格比較からリスク管理へ
ウクライナショック以降、電力小売市場は大きく変化しています。
以前のように「一番安い電気を選ぶ」という単純な構図ではなく、

契約条件
市場リスク
調達戦略

などを含めた判断が求められるようになっています。
固定か市場連動か、という二元論だけではなく

調達先を分散する
契約期間を分ける
自社発電やPPAを組み合わせる

といったポートフォリオ型の電力調達を考える企業も増えています。
次回は、こうした変化を踏まえながら、企業がこれから持つべき電力調達戦略について整理してみたいと思います。

関連記事

  1. 【第1回】イラン情勢と原油高で電力市場はどう動くのか ― ウクライナショックとの違いを読み解く
  2. https://pps-net.org/column/159560

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