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系統用蓄電池は、いつから「前提」になったのか 【第3回】収益は「見えにくい」のか、それとも見え方を混ぜているのか

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系統用蓄電池は、いつから「前提」になったのか 【第3回】収益は「見えにくい」のか、それとも見え方を混ぜているのかの写真

前回は、系統用蓄電池をめぐる議論がかみ合いにくくなる背景として、立場ごとの時間軸や評価軸の違いを整理しました。政策、系統運用、事業者、投資家、それぞれが同じ対象を見ながら異なる物差しで評価している構図がそこにあります。それでも議論の現場では、繰り返し聞かれる言葉があります。「収益が見えにくい」というものです。 蓄電池は10年から15年の運用を前提とする長期資産であり、その収益の根拠となる市場制度や価格の前提は、数年単位で更新され続けます。長期資産と短期制度が重なるとき、収益の見え方はどのように変わるのか。連載の締めくくりとして、その背景を順に見ていきます。

1. 長期資産と短期制度という、時間の重なり

蓄電池をめぐる時間軸には、二つの異なる層があります。導入時点で固定されるコストの層と、稼働期間にわたって変化し続ける制度の層です。この二つが同じ事業計画の中に重なっている構図から入ります。

(1) 長期資産としての蓄電池

系統用蓄電池は長期資産です。設備の購入・建設・系統接続に要するコストは導入時点で大枠が確定し、蓄電池本体やPCS(パワーコンディショナ)などの機器費、系統接続に伴う工事費、用地取得や造成費といった要素が積み上げられて、事業の骨格として固定されます。

設備の耐用年数は一般に10年から15年とされており、その期間にわたって導入時に確定したコストを回収していく構造が、事業計画の前提として置かれます。IRRや投資回収期間といった投資指標の計算も、この固定された初期コストと、その先に続く長い運用期間を重ねることで成り立つものです。

(2) 更新され続ける市場制度

一方で、収益の根拠となる市場や制度は更新され続けます。需給調整市場では上限価格の見直しが議論され、入札条件の変更も検討の俎上に上っています。容量市場の落札価格は年度とエリアによって変動し、卸電力市場の価格も需給状況や燃料費によって動きます。

蓄電池は長期資産でありながら、その収益の多くはこうした短期の制度や市場の上に置かれており、導入時に固定される設備コストと、運用期間中に変化し続ける制度・市場という二つの時間軸が、一つの事業計画の中に同時に存在する構図です。ここで言う不確実性は情報が足りないことから来るものではなく、制度は状況に応じて見直されることを前提として設計されているため、将来の姿を現時点で確定させることは構造上できない仕組みになっています。

2. 同じ「収益」を、同じ意味で使っていない可能性

「収益が見えにくい」という言葉を丁寧に追うと、情報量の問題とは異なる重なりが見えてきます。収益源ごとの性質の違いが区別されないまま、同じ言葉で議論が進んでいる場面がその一つです。

(1) 収益スタッキングという考え方

需給調整市場での調整力収入、容量市場での容量収入、卸電力市場での価格差益、長期脱炭素電源オークションによる容量収入、補助金など複数の収益源を組み合わせる考え方は「収益スタッキング」と呼ばれ、現在の蓄電池事業の計画では一般的な前提として置かれるようになっています。

(2) 収益の性質の違い

ただし、それぞれの収益源は性質が異なります。長期脱炭素電源オークションに落札した案件では原則20年間の容量収入が確保される仕組みが整備されている一方、需給調整市場や卸電力市場での収益はその時々の市場条件に左右され、補助金も政策判断によって変わり得る要素です。

確定的な収入と市場に依存する収入が一つの事業計画の中に並んでおり、それぞれの性質が区別されないまま「収益」という言葉で括られると、見通しの感覚がそろわないまま議論が進むことがあります。ある立場では安定収入として捉えられている要素が、別の立場では変動リスクとして理解されているケースもあり、「収益が見えにくい」という感覚の一部は、情報の不足というより、この性質の違いが区別されないまま扱われている状態から生まれている場合があります。

3. 情報不足ではない、という整理

では、動的な要素をどこまで精緻に調べれば、収益の見通しが立つのでしょうか。
この問いを追うと、一つの整理が浮かび上がります。10年後の市場ルールは現時点では存在せず、それは情報収集の限界ではなく制度設計の性質として置かれているもので、エネルギーインフラ投資に広く共通する前提でもあります。

発電所の建設、送電網の整備、LNG調達契約、いずれも数十年単位の資産でありながら、価格・規制・需要の前提は更新され続けます。将来の制度が見えていないのではなく、制度が更新され続ける前提の中で投資が検討されているという構図が、ここにもあります。「正解がない」のではなく「現時点では確定していない要素がある」という整理を出発点に置くと、何が分かっていて何がまだ確定していないかを区別したまま検討を進める土台が見えてきます。

4. 社内でも起きていること

この重なりは、外部の議論の中だけで現れるわけではありません。経営層は長期脱炭素電源オークションによる安定収入の枠組みを収益の根拠として置き、事業開発部門は複数市場を組み合わせた収益スタッキングを計画に組み込み、財務部門は融資判断に耐えうる確定的なキャッシュフローを求めています。同じ「収益」という言葉を使いながら、それぞれが参照している情報の性質が揃っていない状態が生まれます。

確定的な収入を指しているのか、市場に依存する収入を指しているのかという点が、議論の出発点になります。その仕分けが共通言語として置かれていないまま議論が進むと、合意が形成されたように見えながら実行段階で前提の違いが表面化することがあります。情報が不足しているわけではなく、情報の性質を区別する作業が社内で共有されていない状態として現れている、そういう整理です。

● まとめ

蓄電池の収益が「見えにくい」と感じられる背景には、複数の要素が同時に重なっている状態があります。長期資産である設備と数年単位で更新される制度、確定的な収入と市場に依存する収入、静的な前提と動き続ける情報、それぞれを分けて見れば整理できる要素も、同じ事業計画の中で同時に比較されると、見通しの感覚が揃いにくくなります。

収益が「見えない」というより、性質の異なる要素が混ざった状態で見ようとするとき、見通しは立ちにくくなります。その混ざりをいったん解きほぐすことが、不確実性と向き合う入り口です。不確実性が残ること自体はこの分野に特有の問題というより、エネルギーインフラ投資に共通する前提でもあり、その前提をどこに置くかによって、同じ情報の見え方も変わっていきます。
その整理が、蓄電池事業をめぐる議論の出発点として静かに置かれています。

関連記事

  1. 【第1回】前提化が生まれた三つの流れ
  2. https://pps-net.org/column/154908

  3. 【第2回】立場ごとの時間軸と評価軸
  4. https://pps-net.org/column/159066

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