マッキンゼー エネルギー競争戦略
発売日:2025年5月4日
出版社:日経BP 日本経済新聞出版

脱炭素という不可逆な潮流の中、地政学リスクの高まりや新たな産業政策の登場により、世界のエネルギー地図は複雑さを極めています。このような先の見えない時代に、電力会社やエネルギーに関わる業界全般、政策立案者にとって参考となる書籍です。マッキンゼーの第一線で活躍するコンサルタントたちが、エネルギー転換の「現在地」を冷静に分析し、未来に向けたアクションプランを俯瞰的に提示しています。
本書は、世界各国が各々の事情に基づき多様なエネルギートランジションを実施している様子を紹介しながら日本への示唆を辿っています。また本書が示す目新しい概念として、日本ではおなじみとなる従来のエネルギー政策の基本理念であった「3E+S」に、第4の「E」として「産業競争力(Economic Competitiveness)」という新たな視点を提唱した点が挙げられます。
「産業競争力」を高めるためには民間の努力も重要でありますが、政策的な枠組みが事業改革を阻害せず、むしろ促進させていく内容となっていることも大切です。その点で各国の政策的な支援としては、米国ではIRA、EUではGDIP、日本ではGXの観点から実施されており、特にIRAは一定の成果を収めているとしています。日本についても米国などの状況をふまえ、GX経済移行債などファイナンスも含めて、資金が回る形でエネルギー転換を促進することで、産業競争力も併せた包括的な施策を立案していくことが肝要です。
全体としては、マッキンゼーの強みである豊富なデータと分析に基づき、日本の電力需給のシミュレーションなどを交えながら、説得力のある議論を展開しています。抽象論のみに終わらず、具体的な数字の裏付けがあるため、読者は現状と未来をリアルに体感できます。
また再エネ、水素、原子力、CCUS(二酸化炭素回収・利用・貯留)といった個別技術の議論に陥るのではなく、「電化」を軸とした社会全体の「エネルギーエコシステムの再構築」という全体最適の視点を打ち出しています。未来の勝者は、個別の技術で優位に立つ者のみではなく、むしろ複数の技術を組み合わせ、社会システム全体を戦略的に設計できる者にチャンスが訪れやすい構造になりつつあります。
これら全体感を知ることができる一方で、非常に幅広い分野を横断的に分析している一方、詳細なアクションプランやロードマップ、事業者あるいは自治体・地域レベルでの実践ステップ、資金調達・投資リスクの管理といった細かい戦術レベルの示唆はやや限定的といえます。
またエネルギー業界を取り巻く状況は変化が激しく、書籍を読むタイミングによっては、例えばエネルギー基本計画のような政策転換等の最新状況との乖離が発生します。これによって、出版時点と最新政策とのタイミング差が、読み手にとっては何らかの誤解を招く可能性もある点は留意が必要です。「タイミング差」はどの書籍でも発生しますが、本書は内容の特性上、特に「タイミング差」の影響が強いものと考えられます。
トフラー夫妻の書籍のように、世界全体の状況や将来像を俯瞰的に捉えられる内容となっており、より具体的な「実践フェーズ」に入っている方は、他の専門書や政策・技術レポート、業界データと併せて読むことで、未来の勝者の思考に近づくことができるものと考えます。
本ページの書評作成者

一般社団法人エネルギー情報センター
上智大学地球環境学研究科にて再エネ・電力について専攻、卒業後はRAUL株式会社に入社。エネルギーに係るITを中心としたコンサルティング業務に従事する。その後、エネルギー情報センター/主任研究員を兼任。情報発信のほか、エネルギー会社への事業サポート、また法人向けを中心としたエネルギー調達コスト削減・脱炭素化(RE100・CDP等)の支援業務を行う。新電力ネットの運営全般に係る統括責任者、また個人やご家庭の方への情報発信媒体として「電気プラン乗換.com」の立ち上げを行い、コンテンツ管理を兼務。
| 企業・団体名 | 一般社団法人エネルギー情報センター |
|---|---|
| 所在地 | 東京都新宿区新宿2丁目9−22 多摩川新宿ビル3F |
| 電話番号 | 03-6411-0859 |
| 社団HP | http://eic-jp.org/ |
| サービス・メディア等 | https://price-energy.com/ |
















