電力&ガス自由化の今後

執筆者:株式会社グッドフェローズ 長尾泰広氏

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本連載は書籍『かんたん解説!! 1時間でわかる ガス自由化入門』(2017年6月発行)より、コラム記事を再構成して掲載します。

電力自由化でガス会社が優勢だった理由

一般家庭が電力会社を自由に選べるようになった2016年の電力小売完全自由化からちょうど1年。自由化以前から激戦区と予想され、実際の乗り換え数がトップだった首都圏において、最も多く顧客を集めたのは、都市ガス最大手の東京ガスでした。

同社はガスと電気のセット割ならびにインターネットプロバイダとのトリプルセット割を提供し、主にファミリー層の家計に大きなメリットを与えて東京電力の顧客を引き込むことに成功しました。しかし、契約者数を伸ばした理由は節約額だけではありません。東京ガスの強みは対面営業で顧客に電力自由化について説明し、不安や疑問を直接解消できること。すでに広い販売網をもつガス会社は電力自由化開始直後から営業面で優位に立っていました。

そして2017年4月、ついに都市ガス完全自由化がスタートしました。電力会社の地域独占が崩れてから1年遅れで、今度は都市ガスの独占も失われることになります。

都市ガス自由化で起こる変化

都市ガス小売自由化の主な目的は、都市ガス料金の値下げとサービスの向上です。電力自由化と同様に企業間での価格競争が起こることが期待され、特に他商材のセット割による節約効果に注目が集まっています。

例えば大阪ガスは、都市ガス自由化に向けては、従来の「エコジョーズ(省エネ給湯器)」「ガス温水床暖房」「エネファーム」等を使う家庭専用の割引プランに加え、ガス使用量が多い家庭向けの「もっと割料金」という新プランをリリースするなどの動きを見せています。 「もっと割料金」には「電気セット割引」というオプションが設定されており、「大阪ガスの電気」をセットで契約するとさらにガス料金が割り引かれます。また、ガスで発電・給湯を行う家庭用燃料電池コージェネレーションシステム「エネファーム」の最新モデル所有者向けには、他のガス会社に先駆け、発電した電気の買取りサービスを開始しています。

ガス会社選びの焦点は料金面のメリット

電力自由化では電気の原料、すなわち発電方法を主体的に選びたいというニーズもあり、地方の再生可能エネルギーで発電した電気を供給することをアピールする地域新電力が各地に登場しました。しかし都市ガスの組成についてこだわる向きはほとんど見られません。消費者の選択に多様化をもたらした電力自由化と異なり、都市ガス自由化は純粋な価格競争・サービス競争になる可能性が高いでしょう。

そして、今度は大手電力会社数社が都市ガス事業への参入を予定しており、電力自由化で流出した顧客を取り返しにかかることでしょう。企業同士の多面的な競争が進むことで節約志向の都市ガス世帯にとって、さらなるチャンスが巡ってくる可能性は大きいです。

都市ガス自由化の恩恵を受けられない世帯が約半数

現在の日本におけるガス利用者の56%が都市ガス利用者であり、残りの44%はLPガスを利用しています。2017年の都市ガス自由化はLPガスを使う44%の世帯にとっては縁のない話でしょう。LPガスは都市ガスの供給に必要な導管が通っていない地域で利用されますので、都市ガスからLPガスへの切り替えは可能ではありますが、逆の乗り換えは非常に難しいといえます。

一方で、都市ガスからLPガスに切り替えるメリットが消費者にあるかというと、現時点ではあまりないと言わざるをえません。災害時に復旧が早い、火力が強いなどLPガスは都市ガスより優れた特性をもつエネルギーではあるのですが、料金の高さ・不透明さについては多くの課題が残されたままなのです。

LPガスの料金面における課題

実のところ、LPガスは1996年から消費者主体でガス会社を自由に選択することが可能です。現在LPガスを販売している会社は全国に2万1000社以上あり、制度上はいつでも切り替えが可能です。その事実はあまり知られていないのが実情で、消費者はLPガス料金が高いと文句を言いつつも乗り換えなどの行動を起こすこともなく、それを当然のこととして受け入れてしまっているのです。

では、なぜLPガスの料金が高額になってしまうのか。都市ガスが規制料金であるのに対し、LPガスは自由料金であることが大きく影響しています。 自由料金であれば原油価格の高騰が起こればLPガス料金はすぐに値上げを敢行できます。そのスピード感は事業の安定性に貢献できるため消費者へのデメリットとは言い切れませんが、その後、原油価格が下落してもガス料金価格を適切に値下げしない事業者の存在も少なくありません。LPガス価格には公表の義務がなく、適正価格よりも高い価格設定だったとしても消費者は大抵の場合気が付きません。世帯によって料金表が異なり、その数が100を超える事業者もあるそうです。

LPガスの適正料金を知らないことだけが切り替えの少ない理由ではありません。住宅を新築する際にプロパンガス設備の導入費用を事業者が立て替えておき、代わりに長期契約で囲い込む例も多く発生しています。この場合は建築費用を軽減できるメリットと引き換えに適正価格でない価格のLPガス利用を強いられるリスクを負います。そしてガス会社に対して値下げを交渉し、事業者の乗り換えというカードを切ろうとすれば高額な違約金を請求される場合もあるのです。

ガス・電気を乗り換えて豊かな生活を送るために

消費者が主体となってサービスを選択できない環境は事業者への圧力が機能せず、消費者に一方的な不利益を強制しやすいといえます。これまで居住地により強制的に契約先を決められてきた電気・都市ガス市場は自由化により大きく動きつつありますが、LPガスにも改めて変化が求められることでしょう。

ガス会社が電力小売事業を始めたように、今度は東京電力をはじめとする大手電力会社が都市ガス供給事業に乗り出します。電力自由化で流出した顧客をどのように取り返すか。消費者に選ばれるためにどのようなメリットを提示してくるのか。あふれる情報の中で消費者が惑わされず利益を追求できるように、公正で精密な情報提供が必要です。

弊社が運用している電気・ガス料金の比較サイト「タイナビスイッチ」は、家庭の電気・都市ガス・LPガスを最適化できるツールや情報共有を怠りません。将来的にあらゆるサービスの比較を容易にし、消費者の暮らしをより豊かにするために日々成長していきます。

執筆者:株式会社グッドフェローズ 長尾泰広氏

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