国内における太陽光発電所のO&Mに関する動向

執筆者:株式会社エネテク 関東支社長 野口貴司

株式会社エネテク https://www.enetech.co.jp/

本連載は書籍『かんたん解説!! 1時間でわかる 太陽光発電ビジネス入門』(2018年5月発行)より、コラム記事を再構成して掲載しています。

太陽発電所O&Mの概況

FIT(自然エネルギーの固定価格買取制度)により、急激な建設ラッシュをみた太陽光発電所ですが、ここ数年の買取価格下落によって、太陽光発電所は「建設」から「安定運用」へとシフトする流れに変わりつつあります。

2017年4月に改正FIT法で太陽光発電所のメンテナンスが義務化されたことにより、メンテナンス※への注目度は更に高まっております。※メンテナンスは保安管理(電気主任技術者によるキュービクルを中心とした法定点検)と、パワコン以下の直流側の保守点検に分かれますが、本章では後者のメンテナンスについて主に述べます

FIT当初は希望的憶測も含め「太陽光発電所はメンテナンスフリー」だという“神話”がありました。しかし、今回のメンテナンス義務化の背景には、ずさんな施工により、問題のある発電所が多いことや、台風などによるパネルの飛散の問題、FITでの急激な需要増により、パネルメーカーの大量生産に起因した品質低下が疑われる不良パネル(モジュール)による発電低下の問題など、場合によっては地域の社会的な問題となったり、訴訟に発展するようなケースも発生しております。このような状況を踏まえ、定期的に適切なメンテナンスを行うことがより重要度を増していると言えます。

しかしながら、太陽光発電事業自体まだ歴史が浅く、さらにメンテナンスもここ数年で徐々に注目されてきたという状況に加え、特に投資目的で発電事業に参入したケースが多いことから、まだメンテナンスも何をどうしたら良いのかわからないという発電事業者が多いのが現状です。

また、メンテナンスも義務化されたとはいうものの、現行では実施内容や頻度について、一部は抽象的な内容にとどまっております。このような状況の中で、改正FIT法をビジネスチャンスととらえてメンテナンス事業に新規参入する会社も多かったのですが、1年もたたないうちに事業から撤退している会社があるのが現状です。

理由の一つは、太陽光発電所点検の業界スタンダードが確立されておらず、手探り状況で事業化したものの、計画通りに進められなかったというケースが散見されます。

もちろん、一方では新しい点検機材や点検手法・技術も開発されてきておりますので、適切なメンテナンスには、太陽光発電設備を熟知した信頼できるメンテナンス会社を選ぶことが重要だと言えます。

実はメンテナンス難易度が高い太陽光発電

過去には前述の「メンテナンスフリー」という言葉があったように、可動部分が無い太陽光発電所のメンテナンスは容易だと思われがちでした。しかしながら、何か問題が発生した時には、原因が特定しにくいのも太陽光発電所の特徴でもあります。

理由は、太陽光発電が直流の電気であることと、発電量が天気(日射量)に左右されるため、発電量が下がった場合、天気が悪いのが原因か故障なのか判断がつきにくい点にあります。

直流電気で起きやすいトラブル

太陽光発電は、直流で発電し、パワーコンディショナーで交流に変換して系統側(電力側)に送っています。同じように直流電気で動いている電車(電気鉄道)も、トラブルが発生した時に原因の特定が難航したり、復旧に時間がかかったりするのがニュースで良く取り上げられます。

太陽光発電所ではどのようなトラブルが発生しているかご存知でしょうか?直流の電気の大きな特性として、アーク(放電)が起きやすいということあります。電車のケーブル事故でも、比較的新しいケーブルがアークで損傷するということが良くあります。

これは直流電気の特性で、交流よりもアークが起こりやすいからです。直流では、常にプラス方向に電圧が印加され、電圧ゼロの瞬間がないため、ケーブルと接続端子部の緩みなどからアークが発生し、放電が引き起こす熱により焼損が起こります。ケーブル間をつなぐコネクタの焼損、ケーブルを集約する接続箱の延焼事故などは、点検で相当数確認されております。

この焼損・延焼は数があまりにも多いため、特に山間部に設置した太陽光発電所で草が伸び放題で放置されている現場をよく見かけますが、太陽光発電所に起因する山火事が起きないか非常に危惧しています。

実際に延焼事故が起きた発電所を点検すると、まだ燃えていない接続箱でも、多くの端子が緩んでいでることが報告される傾向にあります。このような発電所では、端子の緩み確認と増し締め作業という基本的な点検を行っていただけで未然に防げた事故もあったはずです。こういった事故の後ほど、定期的なメンテナンスの必要性を痛感します。

発電量低下の調査で多い原因

メンテナンスの依頼で一番多いのは、「発電量が低下したが原因がわからない」というケースです。点検して原因が簡単にわかるケースもありますが、何日も調査してやっとわかるようなケースもあります。

発電量低下の一番多い原因は、樹木や電柱の影がパネルにかかってしまうケースです。これは現地に行けばすぐにわかるのですが、夏場は太陽の位置が高いので影がかかっていなかったのが、秋を過ぎた頃から急に影がかかってしまうようなケースです。逆に夏場に多いのは雑草がパネルの上まで伸びてきて、影を作ってしまうケースです。

次に多いのはパネルの劣化による発電量低下です。これは見た目では判断できませんので、専用の点検機材で点検しないと検出できません。前にも触れましたが、大量生産された際の質の悪いパネルが混在しているようなケースが考えられます。

発電所で不良品が検出された場合、同じ発電所にあるパネルは同じ生産ラインで作られている場合が多いので、点検をするたび不具合パネルが連続して検出される傾向があります。

尚、パネルが一定の出力を下回った場合は、メーカー補償を受けられるケースが多いですので、パネルに起因した発電量低下の場合には、専門業者又はパネルメーカーの点検・確認が必須となります。

また、除草時の草刈り機によるケーブル損傷が原因の発電量低下もかなり確認されております。ケーブルが切断された場合は見つけやすいのですが、ケーブルの被覆が剥がれる程度の損傷の場合、雨天などの時だけ回路の発電量が不安定になるなどの場合もあります。そのため、晴天時に点検するとなかなか損傷場所を見つけられないようなケースも多いのです。

このように、太陽光発電所は特有のトラブルや不具合が多いのが特徴ですが、一般的に交流電気を主に扱っている電気業界においては、高圧の直流電気を扱うのは電車(鉄道)と太陽光発電所くらいなので、点検および対処には、太陽光発電所のメンテナンスには最低限の専門的な知識が不可欠となります。

メンテナンス手法

太陽光発電所の点検手法としては、IV特性測定(電流電圧の測定)、絶縁抵抗測定などの基本的な点検から、高度な点検としてEL検査(パネル内部の発電状況をレントゲンのように撮影する検査)などがあります。

また、最近注目される検査手法としては、ドローンを使った高精度IR検査(表面温度測定)などがあります。点検ごとに確認できる内容が異なりますので、発電所の仕様に応じた適切な点検方法を組み合わせた点検をすることが望ましいと言えます。

JPEA(太陽光発電協会)が太陽光発電システム保守点検ガイドラインを制定しておりますので、メンテナンス会社がそのガイドラインに準拠した点検ができるかどうかもメンテナンス会社選びの参考にすることもお勧めです。

まとめ

FITの主旨は、自然エネルギーの普及促進ということにありましたが、実際は投資案件としての事業という側面があり、実際はそちらの方が側面ではなく前面に出ている事業者が多いのが現実です。

しかしながら、発電事業者には、国の電源構成の一端を担う役割を負っているという当事者意識をもって、メンテナンスのことを積極的に熟慮・検討して頂きたいと思います。20年の長期にわたる運営事業ということを考えると、太陽光メンテナンスの黎明期から関わってきた立場から言えるのは、結果的にはその方が売電収入においても良い結果をもたらすものと確信しております。

執筆者:株式会社エネテク 関東支社長 野口貴司

株式会社エネテク https://www.enetech.co.jp/