石油文明の終焉と再エネ立国としての日本の未来

執筆者:サステナジー株式会社 代表取締役 三木浩

サステナジー株式会社 http://sustainergy.co.jp/

本連載は書籍『かんたん解説!! 1時間でわかる 太陽光発電ビジネス入門』(2018年5月発行)より、コラム記事を再構成して掲載しています。

2017年12月に放映されたNHKスペシャル激変する世界ビジネス“脱炭素革命”の衝撃では、これまで温室効果ガスの排出規制に消極的だと思われていたアメリカと中国が、実は一気に再エネに舵を切っていることが報道され衝撃を受けた方も多いのではないだろうか。

しかしながらこのことは、約2年前には中央省庁では認識され、遅れた日本の再エネ政策をいかにテコ入れするかの議論が始まっていた。本稿執筆時点(2018年1月)では、日本版コネクト&マネージの議論はされているものの、これまでに抜本的な政策は打ち出されず、日本の再エネは諸外国から周回遅れと批判されるまでになってしまった。

このような状況に陥った背景には、エネルギーの本質に立ち返って未来を見通すという姿勢が欠けている事があるのではないだろうか?本コラムでは、日本のエネルギー事情をあらためて見つめ直すととともに、今後の日本のエネルギー政策のあり方について考えたい。

現在世界のエネルギーの主流である石油について、IEA(国際エネルギー機関)は2010年に「世界の石油生産は2006年がピークだった(過去形)」と発表している(World Energy Outlook 2010)。誤解を招きがちだが、「石油が枯渇する」とは、ある日突然世界中の油田の石油が掘り尽くされて取れなくなる、ということではなく、採掘にかかるコストが上がってしまい、その結果掘れなくなるのである。

まずサウジアラビアにあるような地表近くで自噴する油田と、海底から掘り出す北海油田、地下深くから高圧の水で岩盤を破壊しながら採掘するシェールオイルとでは、それぞれ採掘コストは違う。近年は採掘コストが高い油田しか見つからなくなっており、やがて採掘に要した費用が利用で得られる利益を上回るということなのである。

また、石油は地域的に偏在するエネルギーであり、ホルムズ海峡の奥の石油は常に地政学的なリスクを抱えている。日本ではむしろこちらのほうが、ある日突然石油が使えなくなるリスクが大きいと言っても良いかもしれない。

一方で再エネは、安定性、エネルギー密度などの面では石油には遠く及ばないものの、石油ほどの地域偏在性はなく、またコストは年々低下する一方で、太陽光や風力など燃料代が要らないものは、将来的に極めて安い電源になることが期待できる。

さらに環境インパクトが化石燃料よりも少ないことは敢えて説明するまでもないだろう。このような構造から米中両国が、再エネを積極的に取り込んでいこうとする姿勢は驚くに当たらないのである。再エネに舵を切る動機は、エネルギーの本質を見極めてのことと思うが、実行についても特に中国は政府の強力な後押しがある。

日本で再エネが普及しない大きな要因は、2つあり、1つは発電設備の建設に要する工事費が高いことである。これは、東日本大震災や東京オリンピックの影響も大きいが、そもそも土木工事は公共事業系が多く、利益率の高い工事が政府から発注され、工事価格の相場が高止まりしてしまうために、民間の利益率の低い工事が避けられてしまうということがある。使いもしない箱物を建てるために税金を出すよりも、地域での拡大再生産に繋がるような工事が優遇される政策が実行されることを期待したい。

もう1つの再エネ普及阻害要因は、電力系統への接続がスムーズに進まないというものである。従来の日本の電力系統は、大まかに言えば集中型電源から末端までの一方通行で考えられており、系統を維持している電力会社は、分散型電源が系統の途中に入ってくるなど想定していなかったはずである。

それについても一足飛びに解決する問題ではないだろう。というのも、これまで莫大なインフラ投資をして整備してきた現在の系統システムを刷新することは現実的ではなく、そこは新たな技術や使い方の工夫で乗り切るべきであるからだ。

再エネが系統に大量に入れられない理由は、太陽光や風力などの不安定電源を接続すると、電力の需給バランスを調整するために電力会社の設備に負荷がかかったり、最悪の場合は大規模停電に繋がったりするリスクがあるとされているからである。

電力の安定供給責任のある電力会社からしてみれば、そのようなリスクはなるべく避けたいというのはその通りかもしれない。しかし、ここ最近の議論でも明らかになってきたように、系統の空き容量の計算の仕方にも問題があるように感じられる。

2020年には、発送電分離がなされ、系統はそれこそ公の資産となるため、稀頻度事象のために再エネの系統への受入を拒絶するよりも、リスクマネージメントを適切な方法で行いながらなるべく効率的な活用を推進するほうが、国民全体にとってのメリットになるはずである。

またこのリスクを軽減・解消するためには、電力の需給予測を詳細かつ正確にできるようになり、再エネ電源を抑制するなどの措置を講じるか、または供給電力を需要側、例えば家庭用ではエコキュートや商業用では、冷凍冷蔵庫や動力機械の稼働を制御してその変動を吸収できるような仕組みづくりが求められる。

さらに蓄電池を用いた制御も考えられるが本稿執筆時点では、経済性成立のためには、もう一歩というところだろうか。但し、近くストレージパリティ(太陽光発電・蓄電池のコストダウンが進むことで、この組み合わせでの発電コストが購入電力価格を下回る状態)に到達すると考えられるし、EVが普及すれば、平均稼働率5%程度である車の約95%の動いていない時間にその蓄電池を借りて需要を制御するというシェアードサービスができるかも知れない。

制御技術の発達も重要な要素の1つであり、目的の場所へ発電のタイミングと合わせて送電する技術や気象条件と合わせた再エネ電源の正確な発電予想、需要を束ねて制御できるプレイヤー、加えてそれらをビジネスとして成立するように支援する法制度などが噛み合って始めて成立可能となり、世の中に普及する。

既にそのことを睨んで各方面で準備が進みつつあるようだが、早期に実現して再エネに舵を切っている世界に対して売り込めるプラットフォームに仕上げることを、国を挙げて目指しても良いのではないだろうか。

ここ1、2年では、AI、ブロックチェーン、ビッグデータなど、今まで不可能だったことを可能にするニューテクノロジーとして注目されており、これらを駆使することによる新しいイノベーションが期待されている。

一方で、これらは電力を大量に消費する技術でもある。今後はこれらの技術発達よりも、むしろ使えるエネルギーの制約によって、これらの技術の利用そのものが制約を受ける可能性も否定できない。系統に安い再エネ電源が大量に接続されていれば、これらの電源消費の大きな技術開発の下支えとなり、人類の進化に貢献するようなイノベーションが日本から生まれる可能性が高まることも考えられる。

石油文明が確実に収束に向かっている今、日本がさらなる再エネの普及と活用方法の開発を、国を挙げての取り組みとして加速させ、人類を次のステージへ導く先導者となれることを期待したい。

執筆者:サステナジー株式会社 代表取締役 三木浩

サステナジー株式会社 http://sustainergy.co.jp/