顧客を増やしたいガス会社、それでもやってはいけないルールがある

執筆者:一般社団法人エネルギー情報センター 主任研究員 森正旭氏

一般社団法人エネルギー情報センター http://eic-jp.org/

本連載は書籍『かんたん解説!! 1時間でわかる ガス自由化入門』(2017年6月発行)より、コラム記事を再構成して掲載します。

新たに市場が開かれたガス小売ビジネスですが、新規に参入した企業は顧客ゼロから始めることになるため、様々な営業活動を展開すると想定されます。ただ、自由化されたガス小売市場は、まだ業界的な細かいルールが整備されていない環境です。「顧客を増やすためには何をやってもいい」、ということでは、悪徳な業者がはびこる可能性も高まります。そこで、国から営業に関するルール、例えば「〇〇はやってはダメ」というような指針が出されていますので、ここではその内容をご紹介します。

5つの項目を元に、ガス小売営業に関する指針が制定される

経済産業省は2017年1月26日、「ガスの小売営業に関する指針」を制定しました。この指針には、次の5つの項目について、問題となる行為や、逆に望ましい行為が示されています。

  1. 需要家への適切な情報提供
  2. 営業・契約形態の適正化
  3. 契約内容の適正化
  4. 苦情・問合せへの対応の適正化
  5. 契約の解除手続等の適正化の各項目について

この5つを元に様々なルールが示されているのですが、今回はその中でも特徴的な要素をピックアップしてお伝えします。

セット割引等におけるガス料金、配分額の明示は必要なし

まず前提として、ガスを利用する需要家が、ガス会社から提示された金額が正当なものであるのかどうか、それを判断できるようにする必要があります。そうすることで、ガス会社による不正を防ぐこともできます。

例えば、金額のみが示された請求書だけでは、何を根拠にガス料金が決まったのか分からないので、それはNGとなります。ガス会社による対処法としては、例えば請求書へ料金請求の根拠となるガス使用量等の情報を記載することや、もしくはウェブサイトでの閲覧を可能とする方法が挙げられます。

こうした対応は、ガス料金だけならば難しい話ではないのですが、ここで問題となるのは他サービスとのセット販売です。セット販売においても料金の根拠を明確に示す必要があるならば、特にユニークなセット内容の場合は難しい場合があります。そこで、セット販売の場合は、セット割引等のガス料金への配分金額については明記する必要はない、ということになっています。それを常に明示するとすれば、料金メニューの設定が困難となる場合もあり、自由なガス料金プラン開発の妨げになると考えられるためです。このように、国はむやみに規制を強化することで料金プランの多様性が阻まれることを避けようとしているのです。

セット販売、違約金期間のズレが生じる場合などは適切な説明が望ましい

皆さんがガス会社(ガス料金プラン)を変更する場合、気になるのが違約金ではないでしょうか。特にお試しでガス会社を変えてみたい場合は、最初に違約金を確認しておく必要があります。 違約金は、ガス単体であれば大変分かりやすいケースが多いと想定されますが、ここでも難しいのが、セット販売です。セット商品に係る各契約の契約期間が個別に設定されていると、複数の契約の更新時期がズレる可能性が出てきます。例えば、「ガス」の部分と「セット」の部分で、異なる違約金発生期間が設定されると、勘違いを生む可能性が高まります。

そのためガス小売事業者等は、セット販売の解約で、例えば「ガス」部分と「セット」部分といった各々に違約金が発生する場合は、適切に説明することが望ましいとされています。また、そもそもの各契約期間を同じ期間に設定することが推奨されています。そのほか、セット販売の各契約のうち、最も長期の契約期間の満了時には、違約金等の負担なく同時に解除できるようにすることが望ましいとされています。

小売ライセンスを所有していない事業者の指針

企業がガスを販売したい場合には、基本的には国によって小売登録される必要があります。ただ、小売登録されていなくても販売できるケースもあり、それは「媒介」、「取次ぎ」または「代理」といったビジネス形態となります。携帯電話などでは一般的な「代理店」ですが、ガスも代理販売などがガス事業法上許容されており、今後はこうした形でのビジネス参入も増えていくと予想されます。

営業活動の際には、媒介等であることなどの説明が必要

ガス小売の全面自由化後、媒介・取次・代理業者による様々な営業活動(テレビCM、ウェブ広告、チラシ等)が予想されます。しかし、実際に小売供給を行うのはガス小売事業者です。代理店等は、あくまで営業などのお手伝いをしているのであって、小売供給の部分は国からの資格を持つガス会社となります。

ただ、代理店の営業方法によっては、代理店がガスを販売していると需要家が勘違いする可能性もあります。そのため、媒介・取次・代理業者は、大本のガス小売事業者の名称を示すほか、媒介等であること等について説明する義務が課されています。

これはつまり、例えば代理業者によるテレビCMで「自社のガスを供給している」旨の表示等を行うことはタブーということです。代理業者は「○○ガス会社のガスを提供している代理店」という説明とともに、大本のガスを供給しているのは、国に登録されたガス会社である、という事実をきちんと明示する必要があります。

ガス会社は業務委託契約が可能、協力しながらビジネス推進

ガス会社は全て自社のみのリソースで事業を運営しているわけではなく、他の企業と協力しながら日々の業務を行っています。それは例えば、前述のように営業部分を代理店に任せるという方法もありますし、他にも専門的な部分を外注する場合もあります(供給能力の確保や需要家からの苦情・問合せへの対応、新たな同時同量制度への対応、消費機器に関する保安業務など)。

特に新規参入のガス会社は、一部の業務を他社に業務委託することで効率化するケースが考えられます。ただ、あまりにもいろいろな部分を外部に委託する場合、ガス会社として実態があるのか、ガス会社と名乗ってよいのか、といった疑問も出てくると思います。しかしガス事業法上、1.ガス小売事業者が自ら需要家に対してガスの供給(小売供給)を行うこと、2.ガス小売事業者または卸売事業者が自らガス導管事業者と託送供給契約を締結する等の、「コアとなる部分」を守ることで、外部企業に業務の多くを委託していても、ガス会社として名乗ることができます。

経済産業省が公表した営業ルールは、様々な事業者がガス事業に参入することを踏まえ、関係事業者がガス事業法およびその関係法令を遵守するための指針を示すものです。また、関係事業者による自主的な取り組みを促す指針を示すものであります。これによって、ガス需要家保護の充実を図り、需要家が安心してガスの供給を受けられるようにするとともに、ガス事業の健全な発達に資することを目的としています。ガス会社はこうしたルールに則ったうえで、自由市場の中で競争することで、新しい価値を生み出していくこととなります。

執筆者:一般社団法人エネルギー情報センター 主任研究員 森正旭氏

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