ガスの用途の現状と、今後導入が期待される分野について

執筆者:株式会社ガスエネルギー新聞 編集部デスク 大喜多輝雄氏

ガスエネルギー新聞 https://www.gas-enenews.co.jp/

本連載は書籍『かんたん解説!! 1時間でわかる ガス自由化入門』(2017年6月発行)より、コラム記事を再構成して掲載します。

ガス利用は「工業用」が5割強を占める

2016年度の全国都市ガス販売量は前年比3・4%増の377億101万立方メートルと2年ぶりに過去最高を更新しました。家庭用、商業用、工業用、その他用とすべての用途で需要が拡大しました。用途別に販売量を見ると、工業用が209億5699万立方メートルと一番多く、次いで家庭用が94億609万立方メートル、商業用が42億9239万立方メートル、その他用が30億4552万立方メートルでした。各用途の全販売量に占める割合は、工業用56%、家庭用25%、商業用11%、その他用8%となっています。それぞれの用途について簡単に紹介します。

工業用は、蒸気ボイラーや工業炉など主に熱源設備用燃料として、またガスタービンやガスエンジンなど発電機用燃料として使用されています。ガスエンジン発電機またはガスタービン発電機に排熱ボイラーを組み合わせて、発電時に生じる熱も有効活用するコージェネレーションシステムが主流です。

家庭用は、コンロ、給湯器、暖房機器などが代表的な用途ですが、最近はガスから電気とお湯が同時に作れる家庭用燃料電池「エネファーム」が話題です。エネファームはガスを燃焼させるのではなく、ガスから取り出した水素と空気中の酸素を化学反応させて発電し、発電時に発生する熱でお湯を沸かします。エネファームもコージェネレーションの一種です。

商業用は、レストランなどの業務用厨房の他、オフィスビルや商業施設などの冷暖房システムに使われます。気化熱を利用して冷水を作るナチュラルチラー(ガス吸収式冷温水機)、ガスエンジンで冷暖房を行うGHP(ガスヒートポンプ)などがあります。これらは東日本大震災の原発事故後、特にピーク電力の削減に寄与する点が評価されています。その他の用途は、商業用、工業用に当たらない官公庁、学校、試験研究機関、病院等の給湯、空調需要などがあります。

高まる分散型エネルギーのニーズ

都市ガスの販売量は過去30年間に3倍以上に増えました。用途別では、工業用が大幅に増えました。かつては公害対策、最近は地球温暖化対策の一環として、工場などで使用される石油・石炭が天然ガスに切り替えられてきました。また、東日本大震災以降、停止した原発を補うため発電用の需要が急増しました。一方、家庭用・商業用は近年、伸び悩んでいます。ガス消費機器の効率向上や、消費者の省エネ意識の高まり、少子高齢化などが背景にあります。

今後の需要も、燃料転換や分散型発電など工業用を中心に堅調な伸びが予想されます。中でも環境性、効率性に優れるガスコージェネレーションは、累積設置容量(2015年度は前年度比2%増の約514万kW)の拡大が続いており、導入先がさらに広がりそうです。

中長期的には、低炭素社会の実現に向け、地域レベルでエネルギー最適化を目指すスマートエネルギーネットワークの取り組みが進むと見られます。すなわち、再生可能・未利用エネルギーを大量導入し、情報通信技術(ICT)の活用と電力・熱の融通によってエネルギーの利用効率を高め、大幅な省エネ・省CO2を実現するシステムの構築です。  このシステムで重要な役割を担うのが、省エネ性だけでなく、エネルギーセキュリティーの向上にも寄与する、「ガスコージェネレーション」です。ガスコージェネレーションは、出力変動が大きな再生可能エネルギーの調整電源になるほか、非常用電源として、また、電力・熱を融通しあう地域のエネルギーセンターの要として活躍が期待されます。

燃料電池も存在感を増しそうです。家庭用燃料電池エネファームは現在約20万台まで普及してきました。2014年に閣議決定された「エネルギー基本計画」には、2020年に140万台、2030年に530万台の導入目標が示されています。2017年には業務用燃料電池も市場投入される見通しで、さまざまな分野で導入が進むと見られます。

国際的には、船舶用燃料も新たな用途として期待されています。国際海事機関(IMO)は2020年以降、一般海域において船舶から排出される硫黄酸化物の規制を強化する決定を下しました。それに伴って現行のC重油に替わる代替燃料の1つとしてLNG(液化天然ガス)の利用が検討されています。

さらに水素利用の広がりも注目されます。国はエネルギー基本計画で、水素を将来中心的な役割を担うことが期待される重要なエネルギーと位置付けました。政府は2020年の東京オリンピック・パラリンピックで日本の水素技術を世界にアピールする考えです。東京都はこのほど燃料電池バスの運行を開始しました。2020年までに燃料電池バス約100台を導入する方針を示しています。選手村にも燃料電池を設置する予定です。定置式燃料電池や燃料電池自動車用の普及に伴って、水素を作る原料となる都市ガスの需要も増えていくことになるでしょう。

執筆者:株式会社ガスエネルギー新聞 編集部デスク 大喜多輝雄氏

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