ガスパイプラインの社会資本論

発行年月日:2016年11月25日
発行所:エネルギーフォーラム

執筆者:上田絵理

ガスパイプラインの社会資本論の写真

本書は、海外ではどのようにガスパイプラインが整備されてきたのか、あるいは今後どのように進められようとしているのか、ガスパイプラインが整備されたことによる効果はどのようなものなのかを紹介するものです。ドイツ、イタリア、韓国の事例をもとに、日本のガスパイプライン整備の問題について考察が加えられています。

著者インタビュー

著者情報

上田絵理の顔写真

日本政策投資銀行 産業調査部調査役

上田絵理氏

慶応義塾大学経済学部卒業後、2004年日本政策投資銀行に入行。電力やガス、石油業界への投融資業務を経て、2014年より産業調査部調査役、現職。国内外を問わずエネルギー全般の調査業務に従事。

ーー本書を書いたきっかけは?

日本の都市ガスの供給範囲は、国土全体の数%にとどまります。私が、この問題を初めて知ったのは10年ほど前になります。ガスパイプラインを全国的に整備するべきかどうか、整備の目的は何であるのか、誰が整備するのか、これまでいろいろな方のご意見を伺ってきましたが、その答えは十人十色でした。

この問題は、常にガス業界の重要な課題として取り上げられますが、明確な解は出ていないように思います。そのため、海外の事例から日本が参考にできることはないか考え、本書を執筆しました。

ーー本書で特に伝えたいことは?

ガスは全面自由化しただけでは、料金抑制やガス利用の拡大を実現していくことは難しいでしょう。本書では、ガスパイプラインの整備が国内ガス調達の選択肢拡大、需要家の選択肢拡大のみならず、ガスの輸入価格抑制にも効果的であることを、ドイツ、イタリアを例に紹介しています。

全国的なガスパイプラインが整備されると、ガスの取引市場が有効に機能し始め、ガス輸入価格の抑制につながります。ドイツ、イタリアと日本では事業環境が異なりますが、日本でも同様の効果が得られる可能性は十分にあると考えます。

ーー今後のガスパイプライン整備について

ガスパイプラインの整備を進めるにあたり、まず日本に不足しているのは需要の開拓です。ガスパイプライン整備と需要開拓をセットで進める方法を検討する必要があります。そのうえで、需要のリスクが大きい投資については、公益性とのバランスを踏まえ、公的に整備をしていく必要があるでしょう。

耐用年数の長いガスパイプラインは、費用対効果が十分に認められるはずです。本書で紹介するイタリアのように、将来的には、年金やインフラファンドなどの民間資金を活用していくことも検討に値すると思います。また、全国的なガスパイプラインが整備されると、メタンハイドレートの活用や、ロシアからの国際パイプラインによるガスの輸入なども視野に入れることができるようになります。