容量市場の真実 第1回入札の失敗を詳細分析

発売日:2020年12月18日
出版社:インプレスR&D

執筆者:山家公雄

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本書は、電力市場の新たな仕組みである容量市場の導入初期における課題とその影響を詳細に分析した書籍です。容量市場の導入が電力供給の安定性や再生可能エネルギーの普及に与える影響についても考察されており、エネルギー政策の今後の方向性を考える上での指針となる内容です。​

本書は、電力市場の新たな仕組みである容量市場の導入初期における課題とその影響を詳細に分析した書籍です。容量市場の導入が電力供給の安定性や再生可能エネルギーの普及に与える影響についても考察されており、エネルギー政策の今後の方向性を考える上での指針となる内容です。​

制度設計の改善点、参加者の思惑、市場の特性など、多角的な点から容量市場の価格が高騰した要因を解き明かしています。特に、現状の入札制度が参加者のリスク回避行動を助長し価格高騰を招いた点や、多様な参加者および政府側の多面的なニーズを組み込み、それらが最終的に需要家へのメリットおよび負担の両面に繋がる可能性を指摘している点は、非常に示唆に富んでいます。

電力における卸取引市場では、設備によっては固定費を回収しきれない場合があります。この回収不足となる固定費はミッシングコストとされ、容量市場の大きな基盤理論の一つとなっています。しかし、不足する固定費を全て回収できるようになると「総括原価方式」と変わらず、効率の悪い設備から良い設備への「新陳代謝」は阻害され、結果として「市場機能」は大きく歪んでしまう可能性を指摘しています。ただこの点に関して当方は、拠出金に係るkWあたりの利益幅は一定の市場原理に則って運用されるため、国側もその点に配慮した制度設計をしていると考えており、効率の良い発電所への転換は進んでいくものと考えています。

また「フリーライド」といった点も本書では随所で触れられており、感情論に則ったものとして、資本社会における商取引の基礎や国益に反した考えであるとしています。この点に関しては非常にシンプルかつ明確な回答がされております。容量市場の創設前を「フリーライド」と考える電力事業関係者は、本書の一読を推奨したく、本質的な公平性とはどういった性質のものであるかといった点や、エネルギー業界全体の将来や利益について改めて考えて頂けると、もしかすると新しい視点が見つかるかもしれません。

エネルギー産業は、他の産業と同様に、市場原理・価格機能により資源の最適な配分を行っています。例えばオイルショック後に、生産国独占連合であるOPEC(石油輸出国機構)に対抗して、消費国連合としてIEA(国際エネルギー機関)が創設されました。

消費国は、OPEC独占を切り崩すための有効な手段として、石油取引市場の整備を進めました。需要と供給で適正価格が決まる仕組みを構築したことで、大きな効果を発揮しました。電力に留まらず、あらゆる産業においてビジネスの自由化や市場機能は、安定供給の名分の下、供給側に偏っていた利益の一部を全体で均衡させるシステムとなります。この市場に恣意的な意思が介入すると、業界や社会全体が混乱することとなります。

なお本書では、第1回目入札の結果は諸外国と比較しても非常に高額であり、火力発電の固定費を考慮しても明らかに失敗であったとしています。ただ2回目以降は徐々に価格が下がっていきますが、本書の発行日より後となる2025年1月に電力広域的運営推進機関から発表された2028年度の入札価格は、本書が失敗とする第1回目を超える高額な水準となっています。2029年度以降の容量市場の動向は現状では不透明な部分も多いですが、潤沢な資金をベースに、ビジネスとして基本的な公平性を軸に電力業界がより良くなっていくことを期待したいと思います。

本ページの書評作成者

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一般社団法人エネルギー情報センター

主任研究員 森正旭

上智大学地球環境学研究科にて再エネ・電力について専攻、卒業後はRAUL株式会社に入社。エネルギーに係るITを中心としたコンサルティング業務に従事する。その後、エネルギー情報センター/主任研究員を兼任。情報発信のほか、エネルギー会社への事業サポート、また法人向けを中心としたエネルギー調達コスト削減・脱炭素化(RE100・CDP等)の支援業務を行う。メディア関連では、低圧向け「電気プラン乗換.com」の立ち上げ・運営のほか、新電力ネットのコンテンツ管理を兼務。

企業・団体名 一般社団法人エネルギー情報センター
所在地 東京都新宿区新宿2丁目9−22 多摩川新宿ビル3F
電話番号 03-6411-0859
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