サーキュラーデザイン 持続可能な社会をつくる製品・サービス・ビジネス
発売日:2022年2月1日
出版社:学芸出版社

個人・企業・組織が行動に移るための手引書 地球環境の持続可能性が危機にある現在、経済活動のあらゆる段階でモノやエネルギー消費を低減する「新しい物質循環」の構築が急がれる。本書は1)サーキュラーデザイン理論に至る歴史的変遷2)衣食住が抱える課題と取組み・認証・基準3)実践例4)実践の為のガイドとツールを紹介する。
著者情報①

京都工芸繊維大学KYOTO Design Lab 特任教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授
1979年生まれ。ロイヤルカレッジ・オブ・アート博士課程後期修了、芸術博士(ファッションデザイン)。現在は、京都工芸繊維大学KYOTO Design Lab 特任教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授を務める。デザインと社会を架橋する実践的研究と批評を行う。監訳に『クリティカル・デザインとはなにか? 問いと物語を構築するためのデザイン理論入門』、著書に『インクルーシブデザイン』(共著)『リアル・アノニマスデザイン』(共著)、編著に『vanitas』等
著者情報②

京都工芸繊維大学デザイン・建築学系講師、山口情報芸術センター専門委員 主任研究員
1981年生まれ。千葉大学大学院自然科学研究科多様性科学専攻博士後期課程修了、博士(工学)。現在は、京都工芸繊維大学デザイン・建築学系講師、山口情報芸術センター[YCAM] 専門委員(主任研究員)を務める。工学設計や適正技術の教育プログラム、資源循環やサステイナビリティに関する研究に取り組む。共著に『FAB に何が可能か「つくりながら生きる」21世紀の野生の思考』、監訳に『バイオビルダー 合成生物学をはじめよう』、編著に『SPECULATIONS 人間中心主義のデザインをこえて』等
解説
サーキュラーデザインは、サーキュラーエコノミーを実現するためのデザインであり、地球環境を維持しつつ経済活動を発展させ、社会をより豊かにしていくためにある。
環境、社会、経済のバランスをとりもちながら、持続可能な生態系を実現するサーキュラーデザインとは何なのか。どのような研究事例や実践例、手法やガイドラインがあるのか。それを解説、紹介するのが本書である。
なぜ、サーキュラーデザインが今、必要なのか。それは地球環境の持続可能性が危機的状況に陥ったためである。
地球や資源の有限性に着目して文明の危機に対する警鐘を鳴らした報告書として、1972年にローマクラブが発表した「成長の限界(The Limits toGrowth)」が挙げられる。この報告書は同年に世界113か国の代表が参加して開催された「国連人間環境会議(ストックホルム会議)」にあわせて発表されたものであり、以降、地球環境問題に対する国際的な取組みが始まっている。
その後、国連に設置された「環境と開発に関する世界委員会」が1987年に公表した報告書「我ら共通の未来(Our Common Future)、通称:ブルントラント報告」から、その中心的な考え方であった「持続可能な開発(Sustainable Development)」が広く認知されるようになった。現在、各国は国連主導の国際目標として、2030年に向けた持続可能な開発目標(SDGs)に取り組んでいる。
一方で、世界全体の動向としては持続可能な方向に向かっているとは言い難く、依然として私達は環境危機に直面している。「成長の限界」から半世紀経ち、40以上の報告書を出してきたローマクラブが最近出版した書籍『ローマクラブ『成長の限界』から半世紀 Come On! 目を覚まそう! ――環境危機を迎えた「人新世」をどう生きるか?』(2019)では、この危機を分析し、世界には「新たな啓蒙」や、よりシステマティックなアプローチが必要であると結論付けられている。そして、この書籍でも注目されている動きの1つが、後述するサーキュラーエコノミーである。
出典:本書「まえがき」より
本書の内容
- プロローグ サーキュラーエコノミーとサーキュラーデザイン
- 1章|サーキュラーデザインとは何か 1.1 科学としてのデザイン研究の胎動期:1940、50年代
- 2章|サーキュラーデザインから見る、衣食住が抱える課題 2.1 衣に関わる課題
- 3章|サーキュラーデザインの現在--萌芽的事例 3.1 衣のサーキュラーデザイン
- 4章|サーキュラーデザインを実践するためのガイドとツール 4.1 広く、サーキュラーデザインを理解したい人に向けた包括的ガイド
- 参考資料リスト:オンライン講座、ツール、ガイド
- おわりに──本書の内容と限界、展望
1.2 デザインリサーチ第1世代:1960年代
1.3 デザインリサーチ第2世代とデザイン・アクティヴィズム:1970年代
1.4 インタラクションデザインの台頭とエコデザイン:1980年代
1.5 デザインを通した研究の台頭とサステナブルデザイン:1990年代
1.6 サービスデザインの台頭:2000年代
1.7 持続可能な未来を思索するデザインとエコロジー:2010年代
1.8 サーキュラーデザインのフレームワーク:2010年代から現在
1.9 サーキュラー「製品」デザインとデルフト工科大学:2021年現在
1.10 サーキュラーデザインの包括的ガイドラインに向けて
2.2 食に関わる課題
2.3 住に関わる課題
微生物で服をつくる── 微生物の遺伝子を組み替え、発酵技術を応用すると、タンパク質で服はつくれる
キノコで服をつくる── 培養環境を整備すれば、キノコから服がつくれる
捨てられるはずだったもので服をつくる── 適切に再資源化できれば、廃棄物は素材となり服がつくれる
ゴミを出さないように服をつくる── ジグソーパズルをコンピュータに解かせると、ゴミを出さずに服がつくれる
使い終わった服を回収しやすくつくる── 回収のルートとゴールを複数整備すれば、服はいつまでも服でいられる
3.2 食のサーキュラーデザイン
多様な植物を育てる── 多様な植物を作付けして、生態系をつくりながら、作物を育てる
魚と野菜を一緒に育てる── 養殖と水耕栽培を組み合わせる
堆肥や飼料をつくる── 有機廃棄物の堆肥化や飼料化に取り組む
代替肉をつくる── 昆虫、植物、細胞培養で、代替の食品をつくる
生物由来の容器や食器をつくる── プラスチックの代替材料を開発する
3.3 住のサーキュラーデザイン
修理方法を開発する── 電気電子機器の長寿命化や修理方法を提供する
地域資源でつくる── 森林資源を適切に管理して、木工製品をつくると、雇用が生まれる
分散型の産業でつくる── デジタル工作機械をつかって、自分達でつくる
都市の経済モデルをつくる── 都市スケールのイニシアチブや施策で、あたらしい都市をつくる
3.4 超域的なサーキュラーデザイン
シェアリング前提の暮らしをつくる── シェアリング・プラットフォームを活用した暮らしに移行する
バイオマスエネルギー・デザイン
ライフサイクルデザインと評価
透明性のための情報デザイン── 世界の状態を理解し、人々の行動を助長・抑制するための情報のデザイン
「議論や批評」のためのスペキュラティヴ・デザイン── ありうる未来や世界観を思索し、「今、ここ」 と異なる社会をつくるためのデザイン
4.2 サーキュラーデザインを実践してみたい人に向けた包括的ガイド
4.3 ファッション、製品デザインにおけるサーキュラーデザインを実践したい人に向けた、実務経験者向けガイド
4.4 露地作物をサーキュラーデザインの対象として育てたい人向けの実践的ガイド
4.5 身の回りのプラスチック製品を収集、再資源化、再利用したい人向けの実践的ガイド
4.6 製品デザインのサーキュラービジネスやデザイン戦略を考えたい人向けのガイド
4.7 行政×デザインの領域に関心があり、サーキュラーエコノミーを行政施策としてデザインしたい人向けのガイド
著者メッセージ
正確な情報を伝え、理解を広め、できることからすぐに、より多くの人が実践していくことが、サーキュラーデザインにとって極めて重要な課題である。
そこで、本書は実際にサーキュラーエコノミーを実現するために製品やサービス、システムなどのデザインをする、あるいはしたいと考える人が、過去の理論的展開について理解すること、現在直面する課題や具体的な実践例を把握すること、未来の活動に向けて具体的手法を応用し実践できるようになること、の3つを目的に、4章に分けてサーキュラーデザインについて紹介する。
まず、1章「サーキュラーデザインとは何か」においては、学術論文を多数参照しながらデザインリサーチにおけるサーキュラーデザインの位置付けを試みる。デザイン手法や理論の歴史的変遷を捉え「意地悪な問題」としての持続可能性に関する課題を認識し、その対応策として今日注目される広義のデザイン領域について理解することで、サーキュラーデザインに関する現況の複雑さを把握することを目的とする。
続いて2章「サーキュラーデザインから見る、衣食住が抱える課題」においては、衣食住の3点に分けて2021年現在認知されている社会技術的課題に対する国際的取組みや認証、基準制度についての理解を深める。
3章「サーキュラーデザインの現在-萌芽的事例」においては、サーキュラーデザインを包括的に、あるいは局所的に実践する個人や企業、組織の開発事例などを中心に紹介し、図解総研の図と共に活動内容を把握する。
そして4章「サーキュラーデザインを実践するためのガイドとツール」では、読者の皆様がデザインを実践するにあたって、有益となる具体的なガイドやツールを紹介する。
本書は、奇抜で斬新な姿形をつくりだすこと、と一般的に認知されてきた旧来のデザインに関する本ではない。かといってポストイットばかりで実際に何もしない、デザイン行為の矮小化も奨励しない。デザインの対象や手法は拡張を遂げており、新たなデザインの解釈とそれに伴う実践が必要である。このことを前提に、持続可能な未来に移行するための創造的手段として「広義のデザイン」というキーワードを本書では用いている。20世紀に確立した領域に専門的に従事するデザイナーのみならず、横断的デザイン(Crossdisciplinary Design)、あるいは学際的デザイン(InterdisciplinaryDesign)も包含するのが超域的、広義のデザイン(Transdisciplinary Design)としてのサーキュラーデザインである。
広義のデザインとしてのサーキュラーデザインの中には、素材、製品、サービス、利害関係者のエコシステム、利用者の行動変容、ビジネスモデル、未来社会など多数のデザイン対象が絡み合い共存している。1人で全てを担うのは現実的には難しいかもしれない。だが、包括的な理解に基づき局所的なデザインを複数担い、不足箇所はコラボレーションすることで補完し、全体をデザインすることは可能だ。この本は、そんな取組みをしたいと考える人のためにこそ存在する。
本書が、読者の皆様にとって持続可能な未来の暮らしをデザインするための手がかりとなってくれれば嬉しい。
2021年12月 水野大二郎
出典:本書「まえがき」より