ガス事業の歴史を振り返る、ガス自由化までの流れと変遷(2)
政策/動向 | 再エネ | IT | モビリティ | 技術/サービス | 金融 |
2017年02月02日
一般社団法人エネルギー情報センター

前回から引き続き、「電力とガスの違いについて~それぞれの特徴から考察する~」といったテーマにて連載コラムを掲載いたします。第2回目となる今回は、段階的に進められてきたガス自由化の変遷や、そもそものガス自由化の目的について概要を見ていきます。
ガスの自由化とはいったい何?
今までは、都市ガスを使うには「その地域の都市ガス会社」と契約をするほかなく、企業選択の自由がありませんでした。例えば、東京であれば東京ガス、大阪であれば大阪ガス、といった具合に、その地域のガス供給を独占しているガス会社以外の選択肢がなかったのですね。これは国民にガスを安定かつ安全に届けるために、前回のコラムでも触れた「ガス事業法」という法律によって定められていたことなのですが、これが自由化によって大きく変わります。自由化される2017年4月以降は、電力の自由化と同様、どんな企業でもガスを販売できるようになります。ガスという、ある意味では閉鎖されたビジネス領域が解放され、あらゆるサービスへと展開していく可能性が広まります。ちなみに、ガス自由化におけるガスとは、基本的には都市ガスを指します。
ガスにおいても、電気と同様に段階的に自由化が進められてきました。いきなり全ての販売対象が自由化されたわけではなく、大口から徐々に広がっていきました。ガスにおいて最初の自由化といえるのが、1995年に実施された200万立方メートル以上の大口部分の自由化です。これは、産業及び業務用といった大口需要家を中心とするニーズが高まって実施された自由化でした。
その後、1999年に100万立方メートル以上、2004年に50万立法メートル以上、2007年には10万立法メートル以上へと自由化範囲が拡大していきました。2017年4月に実施する自由化は、第5回目ということになります(表1)。これにて、ガスを利用している全ての需要家がガス会社を選択できるようになります。もう少し掘り下げると、2017年4月の自由化により年間契約料が10万m3未満の市場が解放されることとなります。大体の数値とはなりますが、年間でガス利用料が1000万円以下の需要家を対象としたものです。つまり、小規模な法人や家庭を中心とした自由化といえます。
都市ガスのほかにも、規模は小さいのですが簡易ガスについても自由化が実施される予定です。これにより、都市ガスやLPガスの地域に簡易ガスが参入することが考えられます。例えば、過去に都市ガスが提供されていない地域にも関わらず、簡易ガス事業さえも開始が許可されないケースがありました。つまり、人口密度がある程度確保されているにも関わらず、都市ガスと簡易ガスのいずれも提供されない事態が生じたということです。そうした地域は、必然的にLPガスが利用される形となりました。ただ、自由化後はそうした地域において簡易ガスが参入しやすくなりますので、簡易ガスが新たに利用できる地域が増えていくことも考えられます。
1995年3月 | 年間契約数量200万m3以上 |
---|---|
1999年11月 | 年間契約数量100万m3以上 |
2004年4月 | 年間契約数量50万m3以上 |
2007年4月 | 年間契約数量10万m3以上 |
2017年4月 | 全ての需要家に対する自由化(年間契約料10万m3未満) |
表1 ガス自由化の歴史
そもそも、なぜ今までガスは自由化されてこなかったのでしょうか。それは、1社が独占していた方が効率が良いと考えられていたからです。そうした状態を、自然独占といいます。これは何もしなくても、勝手に1社の独占状態へと自然に移行していくような市場のことです。インフラを整備するための設備投資コストは大変巨額なので、たくさん作るほど安くなる「規模の経済」が働きやすく、1社が独占した方が安上がりになるといった具合です。また、競争がない構造が結果的に、安心・安定したガス供給を下支えしていると考えられます。例えば、技術やノウハウが成熟していない段階で複数社がビジネスを始めると、他社に価格で負けないために安全性を疎かにすることが、どうしても発生しがちです。もしくは、ガス供給が頻繁に止まるような事態になっていたかもしれません。
自由化を実施するということは、このようなリスクを背負う懸念があるということです。ただ、最近は技術的な成熟も進み、かつインフラ整備もある程度安定してきております。そもそも、安全面や安定性のコアな部分に関しては、既存の事業者が継続して担当するので、これまでと全く変わりません。つまり、政策的な枠組みでセーフティネットを構築することで、むしろ多くの企業が自由に参入することのメリットが相対的に大きくなってきているといえます。
そうしたこともあり、2017年4月からガス小売りの全面自由化が始まります。この自由化により、家庭や中小企業もガスを供給してもらう会社を選べるようになります。ガス自由化が実施された目的としては、大まかに4つに大別することができます。
① 天然ガスの安定供給の確保
ガス導管網の新規整備や相互接続により、災害時供給の強靱化を含め、天然ガスを安定的に供給する体制を整えます。
② ガス料金を最大限抑制
天然ガスの調達や小売サービスの競争を通じ、ガス料金を最大限抑制し、国民生活を改善します。
③ 利用メニューの多様化と事業機会拡大
利用者が、都市ガス会社や料金メニューを多様な選択肢から選べるようにし、他業種からの参入、都市ガス会社の他エリアへの事業拡大等を通じ、イノベーションを起こします。
④ 天然ガス利用方法の拡大
この続きを読むには会員登録(無料)が必要です。
無料会員になると閲覧することができる情報はこちらです
次の記事:ガス事業の歴史を振り返る、ガス自由化までの流れと変遷(3)
前の記事:ガス事業の歴史を振り返る、ガス自由化までの流れと変遷(1)
Facebookいいね twitterでツイート はてなブックマークGoogle+でシェア執筆者情報

一般社団法人エネルギー情報センター
EICは、①エネルギーに関する正しい情報を客観的にわかりやすく広くつたえること②ICTとエネルギーを融合させた新たなビジネスを創造すること、に関わる活動を通じて、安定したエネルギーの供給の一助になることを目的として設立された新電力ネットの運営団体。
企業・団体名 | 一般社団法人エネルギー情報センター |
---|---|
所在地 | 東京都新宿区新宿2丁目9−22 多摩川新宿ビル3F |
電話番号 | 03-6411-0859 |
会社HP | http://eic-jp.org/ |
サービス・メディア等 | https://www.facebook.com/eicjp
https://twitter.com/EICNET |
関連する記事はこちら
一般社団法人エネルギー情報センター
2018年12月18日
東京都キャップ&トレード制度、2020年度より第3期に突入、高まる低炭素電力への期待
キャップ&トレード制度は、都内CO2排出量の削減を目指し、オフィスビル等のエネルギー需要側にCO2排出削減を義務付ける制度です。同制度は現在、第2計画期間(2015年度~2019年度)に入っており、2020年度~2024年には第3期に突入します。本コラムでは、制度概要や、今後の動きについて見ていきます。
一般社団法人エネルギー情報センター
2018年11月08日
経産省とNEDO、世界初となる「水素閣僚会議」を東京で開催、Tokyo Statement(東京宣言)発表
10月23日、経済産業省及びNEDOの主催の下、世界で初めて閣僚レベルが水素社会の実現をメインテーマとして議論を交わす「水素閣僚会議」が東京において開催されました。その成果として「Tokyo Statement(東京宣言)」が示されました。
一般社団法人エネルギー情報センター
2018年10月25日
2019年11月以降のFIT満了に向けた取り組み、経産省が売電事業者の受付開始
余剰電力買取制度が始まった直後である2009年11月に適用を受けた住宅用太陽光発電設備は、買取期間が10年間のため、2019年11月以降順次、買取期間が満了を迎えます。経済産業省は、こうした電源を買い取る「売電事業者」の登録受付を開始しています。
一般社団法人エネルギー情報センター
2018年10月18日
FIT適用の太陽光パネルに蓄電池を増設するビジネス、今後は可能となる見込み
10月15日、再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会が開催されました。その中で、既認定案件による国民負担 の抑制に向けた対応について議論が行われました。
一般社団法人エネルギー情報センター
2018年10月16日
一般送配電事業者が開発を進める需給調整市場、事業者側で必要な対応とは
現在、2021年4月の需給調整市場開設に向けて、一般送配電事業者を代表して東京電力PGおよび中部電力が共同で「需給調整市場システム」の開発を進めています。今回の記事では、「需給調整市場」について概要を整理します。