“脱炭素先行地域”に62地域が選定。地域のエネルギーマネジメント推進や課題解決のキーワードになるか

2023年08月31日

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

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2030年度目標のCO2排出量2013年度比46%減を実現するために、地方から脱炭素化の動きを加速させています。今回は、事例を交えて脱炭素先行地域の取り組みについて紹介をします。

すでに62地域が選定、脱炭素先行地域とは

脱炭素先行地域とは、民生部門(家庭部門及び業務その他部門)の電力消費に伴うCO2排出実質ゼロを実現するとともに、運輸部門や熱利用等も含めてそのほかの温室効果ガス排出削減についても、2030年度の全体目標である2013年度比46%減と整合する削減を地域特性に応じて実現する地域のことです。

出典:出典:環境省 大臣官房地域脱炭素事業推進課「環境省の地域脱炭素推進施策について」2023年 4月20日

地域が主役となる、地域の魅力と質を向上させる地方創生に資する地域脱炭素の実現を目指すために、2020 年12 月に国・地方脱炭素実現会議を設置。2021年6月に2030 年までに集中して行う取組・施策を中心に、工程と具体策を示す「地域脱炭素ロードマップ」が策定されました。

出典:環境省「地域脱炭素ロードマップ(概要) 」令和3年6月9日

今後5年間を集中期間として、少なくとも100ヵ所の脱短所選考地域を選定し、意欲と実現可能性が高いところからその他の地域に広がっていくドミノのような現象を起こしていくことを期待しています。さらに2030 年以降も全国へと地域脱炭素の取組を広げ、2050 年を待たずして多くの地域で脱炭素を達成し、「地域課題を解決した強靭で活力ある次の時代の地域社会へと移行することを目指す」としています。

脱炭素先行地域は、2022年4月に第1回として26地域が、同年11月に第2回として20地域2023年4月に第3回として16地域の合計62地域が選定されました。現在、8月28日まで第4回の募集が行われていました。(ご参考:https://policies.env.go.jp/policy/roadmap/preceding-region/boshu.html

環境省、計画立案に活用できるガイドブックを提供

環境省は脱炭素先行地域の選定の考え方として、「脱炭素先行地域に相応しい再エネ導入量や当該地域のある地方公共団体での再エネ発電量の割合等のほか、地域の課題解決と脱炭素を同時実現して地方創生にも貢献する点等から評価を行い、評価の高いものを選定」するとしています。

ではどのように計画を立てて、提出していけばよいのでしょうか。環境省は計画を立てるにあたり、参考となるガイドブックを作成し、かなり細かくステップを記載しています。例えば、脱炭素先行地域づくりを進める方法の一例を、以下の図のようにAct1~6 に分けて説明しています。Act1~3 では、地域の資源や課題を洗い出し、どのような場所を対象地域とするか検討します。Act4~6では、脱炭素を推進するために必要な実施体制・ステークホルダや、地域課題を解決する取組について検討するとともに、必要な資金の調達方法についても検討します。

出典:環境省 脱炭素先行地域づくりガイドブック(第4版)

また、再エネ電源導入に当たっては、関係省庁から公開されている各電源導入のガイドライン等を参考に、導入検討を進めることが重要とし、太陽光発電だけでなく、小水力やバイオマス、地熱などについても情報が整理されています。地域の特徴に合わせて再エネ電源の導入が検討できそうです。

脱炭素先行地域の取り組み事例3選

「地域課題を解決し、住民の暮らしの質の向上を実現しながら脱炭素に向かう取組の方向性を示す」というのがこの脱炭素先行地域の取り組みの重要なポイントです。また、全国津々浦々でという点も重要であり、観光地エリア、農山村エリア、地方都市エリアなど様々な場所ですでに選定されている地域の事例を「第3回計画提案の概要」より3つご紹介します。

事例1:観光地エリア/栃木県日光市、雲の上のサステナブルリゾート「奥日光」:多様な観光資源と脱炭素による地元アップデート

観光シーズンの交通渋滞や災害時のインフラ遮断が課題となっています。まずは太陽光発電・蓄電池や温泉熱を活用した熱利用等により脱炭素化を実現しながら、灯油やLPガスの利用コスト削減をはかります。

その結果、宿泊施設等の経営負担軽減や、新たに制定するゼロカーボン実現条例(仮称)やNIKKO MaaSと連携した公共交通シフトによる渋滞緩和、エネルギーの自給自足を通じたレジリエンス強化を実現します。“安心・安全で魅力的かつサステナブルなリゾート地”として発信をしていくことを目指します。

事例2:農山村エリア/長野県生坂村、つなぐ・まもる・めぐる 生坂~サステナブル農山村モデルの構築を目指して~

村の中心地である上生坂区において、ブドウ圃場や主要民間施設等を対象に民間裨益型自営線マイクログリッドを構築。オンサイトPPAにより太陽光発電・蓄電池を最大限導入するとともに、屋根や敷地が利用できない需要家には遊休地等を利用したオフサイトPPAにより電力を供給します。自立的な電力供給体制を確保するとともに、村全域の脱炭素化を目指します。

民間裨益型自営線マイクログリッドとは、地方公共団体や民間事業者が自ら敷設する電線(自営線)に、需要設備、再エネ設備、蓄電池等を接続することにより構築される、地域の小規模な面的エネルギーネットワークのことです。系統連系が困難な地域においても再エネの導入・利用が可能として、第3回脱炭素先行地域募集にて『重点選定モデル』の1つとして優先的に選定されました。

出典:環境省「民間裨益型自営線マイクログリッドのイメージ図」

また、生坂村では木質ペレット工場の建設や家庭等へのペレットストーブ導入により、村内の林業構築を図るとともに、古民家脱炭素リノベーションを通じて、移住・定住施策と過疎対策を推進していくことを目指します。

事例3:地方都市エリア/福島県会津若松市、デジタルを活用した「会津若松モデル」によるゼロカーボンシティ会津若松の実現

市の中核的エリアであり業務施設中心の「鶴ヶ城周辺エリア」、商業・物流施設の集積地である「会津アピオエリア」、住宅中心の「湊エリア」において、電力の需給データ等をAIで分析し、蓄電池の充放電によりエリア間で需給調整を効率的に行う体制を構築します。

さらに「デジタル田園都市国家構想推進交付金」(内閣府)で実装されたデジタル地域通貨等を活用して需要家の行動変容を促し、脱炭素化を推進。デジタル技術を活用した効率的なエネルギーマネジメントを行うと同時に、これまで進めてきたスマートシティ構想の取組をさらに発展させることを目指します。

まとめ

地域脱炭素の推進のための交付金が用意されています。こちらも「概ね5年程度にわたり継続的かつ包括的に支援する」とのことです。

出典:環境省

脱炭素先行地域づくりガイドブックの参考資料として、令和4年2月に、地方自治体やステークホルダの皆様が脱炭素先行地域の実現に向けた検討を行うため、「地域脱炭素の取組に対する関係府省庁の主な支援ツール・枠組み」を公表したり、地域脱炭素実現に向けた中核人材の確保・育成事業を開始するなど、国をあげての取り組みといえるでしょう。(ご参考:https://policies.env.go.jp/policy/roadmap/supports/

こうした取り組みを活用したいと自治体が思えるためのモチベーションとして、自治体や地域企業が地域脱炭素を実現するためにどの程度経済が動くのかをイメージできる試算データが環境省より公開されています。

脱炭素先行地域を想定した経済規模について以下のような試算(※人口1,000人の脱炭素先行地域を想定、民生部門の電力消費CO2ゼロを実現した場合)となり、インパクトの大きさが伺えます。

  1. 設備投資に伴い約40~100億円程度(雇用規模80~180人相当)
  2. 脱炭素実現後に年額約3~5億円程度

出典:環境省 大臣官房地域脱炭素事業推進課「環境省の地域脱炭素推進施策について」2023年 4月20日

「地方創生」というキーワードは以前より掲げられてきましたが、これをカーボンニュートラルというキーワードを掛け合わせることでさらに加速していこうという機運が高まっています。事例でも見た通り、地域のエネルギーマネジメント推進という観点だけでなく、その地域ならではの課題解決の糸口になりえるのではないでしょうか。

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