物流業界の脱炭素化と中堅・中小企業のGX事例

2023年12月29日

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

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持続可能な未来に向けて物流業界の脱炭素化は急務です。その中でも大手物流企業のGX事例は注目すべきアプローチを提供しています。今回は、脱炭素化の必要性と大手物流企業が果敢に進めるGX事例に焦点を当て、カーボンニュートラル実現へのヒントを紹介します。今回は中堅・中小企業のGX事例です。

物流業界における課題や現状

前回(https://pps-net.org/column/113175)に続いて、物流業界の企業は実際にどのような取り組みをしているのか、今回は中堅・中小企業のGX事例をご紹介します。

まずは改めて、物流業界における課題や現状について整理していきたいと思います。

近年のECの利用拡大により宅配便の取扱個数が増加しています。2008年度は約32.1億個でしたが、2021年度には約49.5億個と、5割以上増加。その内の約11.8%が再配達になっています(国土交通省調べ)。再配達はトラックなどを使って行われる場合がほとんどのため、CO2排出量が、地球環境に対しても負荷を与えていると言わざる得ません。

国土交通省では、こうした実態に関しての情報提供や各種取り組みを行っています。

例えば、「モーダルシフト等推進事業」では、路線バスや鉄道等を活用した貨客混載、複数の宅配事業者の荷物を拠点で集約し、共同配送を行う取り組みや、荷物の保管場所から荷さばき場までの無人搬送車での移動・ピッキングロボットや無人フォークリフトを使用したパレット、コンテナ等への荷物の積み付けの導入も支援しています。

「二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(社会変革と物流脱炭素化を同時実現する先進技術導入促進事業)」では、過疎地域等における無人航空機を活用した物流実用化事業など過疎地域のラストワンマイル配送への実証なども盛んにおこなわれております。これらは物流業界の脱炭素だけでなく、労働人口の減少への対応も含まれていることがほとんどです。

物流業界の中堅・中小企業の脱炭素化事例

グリーンサービス、愛知県にてドローンを活用した医薬品配送の実証実験に成功

グリーンサービスは愛知県の物流会社です。2023年2月、愛知県新城市にてドローンを活用した医薬品配送の実証実験を実施しました。

検証をおこなった地区では、川を隔てて地域が分かれていることにより、配送においても自動車では遠回りになってしまうことが課題でした。そこで同社、およびユタカコーポレーションは、河川上空をドローンの空路として活かした物流の可能性を検討し、今回の実証実験の実施を行いました。

新城市の医師とオンライン診療を行い、医師から処方された 医薬品をグリーンサービスが自動車で乗本地区のドローン離着陸場まで搬送。その後医薬品をドローンの専用ボックスに格納し、大野地区までドローンにて空輸し、大野地区の患者の駐車場までお届けするというものでした。

今回の実証実験で、ドローンと自動車を組み合わせて配送を行うことにより物流配送網の可能性を広げることができました。また、CO2排出量削減を目指すとともに、住民への説明で理解を得るなど、ドローン配送の社会受容性を検証することができた事例となりました。物流業における人材不足の解消にも繋がることが期待されます。

大昇物流、トラック輸送の高効率化支援事業に採択

CO2排出量の削減のためには、トラック輸送の高効率化が重要です。しかし高効率なトラックに係る高額な初期コストや利便性低下への懸念等が障壁となって導入が進んでいません。

通常の大型トラック約2台分まで輸送できる連結トラックは、大型化により貨物1トン当たりのCO2排出量を4割程度低減できるとともに、ドライバー1人での輸送が可能となります。政府も21m級連結トラックについて、補助を通じて導入を後押ししています。

また、スワップボディコンテナ車両は、車体と荷台を簡易に分離することが可能であることから、積載率の向上や、中継輸送の促進等に効果的です。加えて2024年問題も叫ばれている中、トラック輸送のCO2排出量を削減できるとともに、労働環境の改善にも貢献することが期待されています。

以上のような車両の導入の補助事業を利用しているが、宮城県の大昇物流です。実際に導入された車両が以下です。大型トラック(最大積載量13tの場合)と連結トラック(最大積載量24tの場合)を比較するとCO2排出量が36.8%も削減可能ということです。

出典:大昇物流

ライフサポート・エガワなど12社による発地集約型共配

物流分野のCO2排出削減に向けて、業種業態の域を超えて互いに協働していこうと荷主企業(発荷主・着荷主)と物流事業者が広く連携を深める場として「グリーン物流パートナーシップ会議」が平成17年に発足。物流分野における環境負荷の低減や生産性の向上等、持続可能な物流体系の構築に関し顕著な功績があった取り組みに対して、毎年、大臣表彰・局長級表彰を行っています。12月18日には令和5年度の優良事業者表彰受賞者が決定しました。

その中で、株式会社ライフサポート・エガワなど12社による受賞事例をご紹介します。

中小メーカーを中心に150社が利用するコンビニエンス向け全国共同配送です。牛乳メーカーが原料となる生乳を調達するために、各牧場を巡回して集荷することから名付けられた輸送方式(ミルクラン方式)で集荷した商品をハブ拠点に集約し、全国57箇所のセンターと小型物流拠点(デポ)に直接納品する「発地集約型共配」を実現しました。

その結果、メーカーは集荷効率の向上、卸企業は物流企業とのデータ連携による荷量平準化、小売企業は専用バースの確保などサプライチェーン全体でCO2排出量の削減を実現しました。

出典:グリーン物流パートナーシップ会議

さらに2023年5月からは、ZeroBoard社の可視化サービスと、ライフサポート・エガワ独自の可視化ツールを組合せ、CO2の削減効果を可視化し、各メーカーに排出量をフィードバックするサービスを実用化しており、更なる環境負荷低減を目指しています。

まとめ

このように物流業界の脱炭素には、高効率な車両の導入など企業独自で実現できるものもありますが、多くは様々な関連各社との連携が必要なことがわかります。人々の生活の利便性を支えながら、労働人口の減少という課題をチャンスに変えて、工夫をこらしながらCO2の排出量の削減をしている各社の取り組みに引き続き注目していきます。

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