価格と需要から見るガスと電力、これまでの需要推移と特徴を見る(10)
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2017年04月04日
一般社団法人エネルギー情報センター

前回から引き続き、「電力とガスの違いについて~それぞれの特徴から考察する~」といったテーマにて連載コラムを掲載いたします。第10回目となる今回は、ガスや電気における需要の推移と特徴について見ていきたいと思います。
リーマンショックまで伸びていた電力需要
日本における電力消費は、第一次石油危機が起こった1973年度以降も着実に増加しています。例えば、1973年度には3280億kWhであったのが、2007年度には9600億kWhと2.6倍に拡大しました。
ただし、2008年度からはリーマンショックの影響で生産が低迷し、企業向けを中心に電力消費が減少に転じました。その後、東京電力福島第一原子力発電所事故を発端に、電力需給がひっ迫する中で電力使用制限令の発令や節電目標が設定されました。その結果、2011年度は前年度より5.1%減の8840億kWh、2012年度は1.0%減の8750億kWhとなりました。
2013年度(8760億kWh)は東日本大震災後に初めて増加に転じたものの、節電意識の浸透と省エネ家電の普及等により、0.1%の微増に留まりました。しかし、2014年度(8550億kWh)は、冷夏、消費増税後の景気低迷により、再び2.4%の減少となりました(図1)。
図1 電灯電力使用電力量の推移 出典:資源エネルギー庁
「民生用」「産業用」「運輸用」から電力需要を見る
リーマンショックが始まる前まで、電力消費は逓増してきましたが、どういったセグメントの需要が増加してきたのでしょうか。まず電力については、国によるエネルギー関連の政策検討・目標設定等において、「民生用」、「産業用」、「運輸用」とカテゴライズされることも多く、それに則って消費の内訳を見ていきます。
6割以上の需要が民生用
まず、長期にわたり電力需要を強く牽引してきたのは民生用消費でした。2014年度においては、この民生部門の需要が電力最終消費の65%を占めるに至っています。これは、産業用の33%や運輸の2%と比較すると、大きな数字だということが分かります。
民生用は、家庭部門と業務部門に分けることができます。家庭部門は「自家用自動車等の運輸関係を除く家庭消費部門でのエネルギー消費」、業務部門は「事務所・ビル、デパート、卸小売業、飲食店、学校、ホテル・旅館、病院、劇場・娯楽場、その他サービス(福祉施設等)の 9 業種」が対象となります。民生用と聞くと、家庭のみが対象になっている感じもしますが、そうではありません。
民生用の電力需要増加は、家庭部門では生活水準の向上などにより、エアコンや電気カーペットなど冷暖房用途や他の家電機器が急速に普及したことが一因です。業務部門に関しましては、事務所ビルの増加、経済の情報化・サービス化の進展を反映したオフィスビルにおけるOA機器の急速な普及等が需要増加を後押ししています。
産業部門の需要、1990年代をピークに減少傾向
次に、産業部門(製造業、農林水産業、鉱業、建設業の合計)について見ていきます。産業部門においては、1970 年代の二度にわたる石油危機を契機に、省エネルギー化が進みました。そのため、省エネルギー型製品の開発も盛んになり、エネルギー消費をある程度抑制しつつ経済成長を果たすことができました。
産業部門において、第2次石油危機が始まるまでは電力需要が増加し、1965年には1120億kWhであったのが、1979年には3004億kWhとなりました。しかしその後、石油危機を契機とした省エネ等の努力により、1986年までは経済成長を達成しながら、電力消費は横ばいでした。その後の1987年からは経済の拡大と共に電力消費が増加、1990年には4320億kWhと急増しました。しかし1990年をピークに、その後は徐々に電力消費量が減少し、2014年には3200億kWhとなりました。
運輸部門、鉄道の電化が需要を牽引
運輸部門(乗用車やバス、陸運や海運、航空貨物など)については、電力はあまり使わないセグメントですので、全体に占める割合も1~2%程度です。ただ、鉄道の電化の進展がけん引し、1965年には80億kWhであったのが、1989年には190億kWhと徐々に増加してきています。1989年以降はインフラも整っておりますので、ほぼ横ばいで消費量も推移しております(図2)。
図2 部門別電力最終消費の推移 出典:資源エネルギー庁
都市ガス需要、2011年度までは急増、工業用が伸びを牽引
次に、都市ガスの需要について見ていきます。都市ガス事業における消費は、1965年から2011年度まで、家庭用・工業用・商業用消費のいずれも着実に増加してきました。しかし、2011年度以降は消費の伸びも落ち着き、横ばいで推移しています。
消費増加の要因を見ると、例えば需要家件数においては9割強を占める家庭用では、供給区域の拡大によって需要家件数を増加させてきました。その結果、1965年には66(10^15J)であったのが、2005年には416(10^15J)と40年間で6倍以上になりました。ただし2005年以降は、横ばいにて推移しております。
工業用の消費増加の要因は、大手都市ガス事業者による大規模・高負荷需要を顕在化させる料金制度の導入が挙げられます。そのほか、近年のガス利用設備に係る技術革新の進展や地球環境問題への対応の要請などにより、需要家当たりの消費量が急激に伸びたことも一因です。その結果、1965年には14(10^15J)であったのが、2005年には952( 10^15J)と40年間で24倍近くになりました。
この工業用セグメントに関しては、1965年以降から着実に需要量が増加してきていますが、2005年以降は伸びが鈍化しています。近年は、この工業用の需要が最も多く、2014年度においては全体需要の半分以上(56.6%)の割合となっています(図3)。
図3 用途別都市ガス販売量の推移 出典:資源エネルギー庁
LPガス需要、 1996年度をピークに減少傾向
最後に、LPガスについて見ていきます。LPガス需要は、 1996年度(19703千トン)をピークに、2015年度(14309千トン)も引き続き減少しています。電気や都市ガスに代替されており、消費者に選択されるための新しい取り組みが特に必要となるセグメントであると考えられます。
2015年度のLPガスの消費は、用途別に見ると、家庭業務用の消費が最も多く、全体の約44%(6388千トン)を占めました。次いで工業用のシェア(全体需要の約21%、3039千トン)が大きく、化学原料(約19%、2669千トン)、自動車用(約7%、1064千トン)、都市ガス用(約7%、1058千トン)、電力用(約1%、172千トン)と続きます(図4)。
図4 LPガス需要の推移 出典:日本LPガス協会
LPガス、需要増加を実現するための様々な施策
日本LPガス協会の資料によると、今後「家庭」「業務」「産業」「運輸」部門において普及に向けた取り組みを実施していきます。例えば、LPガス普及施策の一つとして、FRP容器の利用が挙げられます。FRP容器は、繊維強化プラスチック製の容器です。重量が鋼製容器の半分程度と軽く可搬性に優れていること、火事にあっても爆発せず安全性が高いこと、またカラフルで美観性もよく、室内に置いても違和感がない、容器が透明でガスの残量が目視確認できるなど、多くのメリットを持つ新しいLPガス容器です。
こうした取り組みにより、2030年にはLPガス1970万トンの総需要量を目指しています(図5)。2015年は1439万トンだったので、15年間で35%以上増加させる目標値となります。
図5 LPガス産業の中長期展望 出典:日本LPガス協会
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