電力小売における競争環境の整備、これまでの取り組みと今後検討されること
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一般社団法人エネルギー情報センター

電力の競争環境整備については、国がこれまで検討が進めてきており、様々な取り組みがなされてきました。また、2017年10月からは「競争的な電力・ガス市場研究会」において議論が行われており、8月には中間論点をまとめた報告書が発表されました。この記事では、これら電力小売りの競争環境に関する議論を整理します。
これまで行われてきた電力市場の競争促進を図る取組
生活必需品である電力やガスについて、自由化の恩恵は、競争的な市場によって実現します(料金の最大限の抑制や需要家の選択肢の拡大、事業者の事業機会の拡大等)。そのため、大手企業による市場支配力が不当に行使され、競争に歪みが生じることによって、料金が高止まりしたり、関連するサービスの革新が遅滞したりするような事態は避ける必要があります。
電力市場の競争促進を図る取組については、これまで各種行われてきました。旧一般電気事業者は、常時バックアップ、余剰電源のJEPXスポット市場への全量供出(限界費用ベースでの売入札)、グロス・ビディング、小売部門の予備力削減(電源開発株式会社の電源(電発電源)等)を実施してきました(図1)。

図1 旧一般電気事業者による自主的取組の内容 出典:電力・ガス取引監視等委員会
また、2019年度に創設されるベースロード市場の創設等に向けた作業も進行しています。旧一般電気事業者は、ベースロード市場に対して、定められた量の電源を同市場に供出することとしています。
また、小売全面自由化以前は、30分単位での実需要と供給量の一致を行う実同時同量制度が採用されていましたが、2016年4月の小売全面自由化以降、計画値同時同量制度が導入されました。計画値同時同量制は旧一般電気事業者にも適用されるため、新規事業者とのイコールフッティングが確保される形となりました。
そのほか、電力広域的運営推進機関が「スイッチング支援システム」構築しました。このシステムを利用することで、例えば、スイッチング先の小売電気事業者が廃止取次を行うことが可能となり、消費者が自ら解約を行う必要がなくなりました。これにより、消費者等にとっては簡便にスイッチングを行うことができるようになりました。
また、国において、全国各地における消費者や事業者に対する説明会の開催、経産省ウェブサイト上や国民生活センター等と連携した情報提供といった広報活動が行われてきました。そのほか、消費者に対する相談窓口が経産省内に設置されています。
その結果、電力事業における新規参入者のシェア拡大は、自由化を経験した諸外国と比較しても概ね遜色のないペースで進行しています。2018年3月の実績において新規参入者のシェアは、販売量ベースで低圧が約8%、従高圧分野が約22%、特別高圧分野が7%となっています。
しかし最近は、一部のエリアにおいて、高圧・特高部門における新規参入者のシェア拡大が鈍化しているとの指摘があります。また、新電力からは、現在の競争環境について、下記のような指摘があります。
- 電源の保有構造が圧倒的に旧一般電気事業者に偏在している
- 新電力が参入可能な分野は負荷率の低い部門と事実上限定されている
- 旧一般電気事業者が、特定の顧客についてのみ、非常に安い小売供給を差別的に提案している
電力・ガス取引監視等委員会の研究会では、旧一般電気事業者が法定独占であったが故に取得・形成した有形資産や大量の顧客情報、そして無形資産(公営水力その他の電源アクセス)の保有が、新規参入者に対する競争上の優位となっている可能性があるとしています。
差別対価・マージンスクイーズ
現状、新電力はベースロード電源(大規模水力発電、石炭火力発電、原子力発電)へのアクセスについて、旧一般電気事業者と比べて、限定的であるといった不均衡があります。このように、電源アクセスに関するイコール・フッティングが確保されていない現状を踏まえると、当面の間、新電力が調達可能な価格水準は、旧一般電気事業者に比し、一定の限界があります。
このような状況において、旧一般電気事業者が、新電力にスイッチングしようとしている顧客など特定の顧客に対してのみ、差別的に、調達可能価格以下の水準による小売供給を提案・実施することは、競争を歪める可能性が高いとされています[関連記事][関連記事]。
また、このようなケースを念頭に置きつつ、旧一般電気事業者が差別的廉売を行う場合における適切な規制について検討する必要があると整理されています。
しかしながら、このような営業手法に関して、旧一般電気事業者が、発電所投資に伴う多額の固定費を負担している中で、その負担を少しでも回収するためには合理性があるのではないかとの指摘があります。
しかし固定費は、需要家から回収する以外に、新電力に卸供給を行うことによっても可能です。新電力にはそのようなニーズが大きい一方で、卸供給の実績は限定的です(電取委事務局のモニタリングレポートによれば、旧一般電気事業者のうち3社は現在まで、グループ外の事業者には卸供給実績がありません)。この点、新電力からは、卸供給の交渉を拒絶されたり、半年以上経過しても依然としても「検討中」とされるなど、実質的には取引の拒絶と思われる事例も存在するとの指摘があります。
そのため、固定費回収の指摘は成立しないのではないかとされています。また、経済学的観点からは、機会費用を下回る小売価格の設定には、合理性が乏しく、排除目的が疑われるのではないかとの指摘がありました。
関連して、旧一般電気事業者による「必ず、新電力より安い小売価格とする」といった、最低価格保証、もしくは実質的に類似する効果を持つ営業活動を行う事例があるとの指摘があります(新電力の実際の提案価格をそもそも考慮しないケース)。これについては、不当な参入阻止戦略等の典型的なケースではないかとの指摘があり、今後、対応が検討される必要があると整理されています。
また、差別的な廉売行為の目的が大口顧客の囲い込みにあるのであれば、独禁法上の差別対価だけでなく排他条件付取引にも相当する場合もあるのではないかとの指摘がありました。
なお、一般論としては、事業者がより安い価格を提示する努力をすることは、自由化の効果として望ましいものです。顧客によって価格が異なることも、直ちに否定されるものではありません。
つまり、安易な価格規制を行うことが顧客にとって不利益となる可能性があります。そのため、現実に生じている影響の程度など競争の実情等を考慮し、新規参入者への卸供給を一層促進する方策を検討する必要があるとされています。
セット割引
旧一般電気事業者は、電力とガスをセットで購入する顧客に対してのみ、大幅な割引を提供する事例があるとの指摘があります。一般論としては、セット割引は、需要家の利便や社会効率の観点から、一定の意義があり、競争政策の観点から特に問題となるものではありません。
しかしながら、電気又はガスに割り当てられる割引額を、電気又はガスの供給価額から控除した金額が可変費を下回る場合については、既にガイドライン上、問題となりうる行為であることが明確に記されています(電力の適正取引ガイドライン、ガスの適正取引ガイドライン、及び不当廉売ガイドライン)。
セット購入の場合にのみ、大幅な割引を行うことについて、正当な理由が存在しないときは、旧一般電気事業者又は旧一般ガス事業者が市場支配力を利用して競争者を排除しようとする不当な行為になりうるものとして、規制が検討される必要があるとされています。
電源調達
みなし小売電気事業者+旧卸電気事業者のる電源保有状況は、全体の83%と非常に高い割合となっています。また、電発電源(電源開発株式会社の電源)は、日本の発電能力の10%弱を占めています(図2)。
その多くは可変費の安い石炭又は水力発電所であって、小売電気事業者の競争上も重要な位置づけを占めています。これらの電源のうち、小売全面自由化以前に稼働したものについては、旧一般電気事業者との間で長期間にわたる基本契約が維持されています。
基本契約による電源開発への拘束の結果として、新電力の事業継続が困難になる一方で、旧一般電気事業者の独占的な地位が維持されることとなる場合には、独禁法上、私的独占(独禁法第3条)が成立する可能性があると考えられるとの指摘がありました。今後、新電力が電発電源を利用しうる方策について検討が必要となります。
また、 旧一般電気事業者と自治体が長期間の卸供給契約を締結している発電所(公営水力等)についても、その発電量や電源種等によっては、市場閉鎖などが生じる可能性があります。そのため、ガイドラインに基づく契約見直しや自治体による公募が促されているところです。この点、新規参入者に生じている影響の程度を踏まえて必要に応じて、さらなる対応を検討する必要があると整理されています。

図2 日本における電源保有の構造 出典:電力・ガス取引監視等委員会
長期契約
小売における長期契約が独占事業者等によって行われ、他の事業者へのスイッチングを妨げる結果、市場閉鎖を生じる場合は、消費者保護や競争政策上も、問題となることがあります。
したがって、電力市場において一部存在するとの指摘がある長期契約を、高額の違約金によって担保するような取引慣行は、経済合理性が乏しいものであり、その見直しが検討される必要があります(サンクコストになるような投資が必要といった事情により正当化しうる場合を除く)。
垂直統合、内部情報共有
垂直統合事業者の発電部門は、プライステイカーとしての立場で、機会費用を考慮した上で、利潤最大化を目的として、販売先を決定することが合理的です。そのため、垂直統合された事業者の上流部門(発電)から下流部門(小売)に内部補助が起きていれば、公正な競争を期待することができません。
取引所での売却や社内小売部門と同等の条件での新電力との相対取引といった行動を行い、結果として、電源アクセスに対するイコールフッティングにつながることが、競争政策の観点からの理想的な市場構造です。しかし現時点で、そのような理想的な市場構造にはなっていないと考えられる現状、行政においては、内部補助による競争歪曲等の監視をする必要があります。
規制料金の解除
電気料金については、現時点においては低圧分野についてのみ、需要家が自由料金だけでなく規制料金も当面選択可能となっています(経過措置料金)。
この規制料金の具体的な解除基準を検討するに当たっては、まず、消費者が費用面等でよりよいサービスを提供する事業者を選択する行動を行う可能性がどの程度見込まれるかが重要となります。その上で、競争圧力が十分に存在し、旧一般電気事業者に対して、値上げを十分に牽制することとなるかどうか、さらに競争の持続性があるか否かがポイントとなります。
諸外国(アイルランド、米国テキサス州)では、市場支配的事業者のシェアが40~60%以下となることが規制の解除条件とされた事例がみられるため、中長期的には、旧一般電気事業者のシェアが一定程度以下であることが望ましいです(図3)。
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執筆者情報

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