水素エネルギーの可能性に目を向け、各国が巨額投資!?海外の最新動向について
| 政策/動向 | 再エネ | IT | モビリティ | 技術/サービス | 金融 |
一般社団法人エネルギー情報センター

6年ぶりの改訂が注目を集めた「水素基本戦略」。同資料の中でも、各国の水素エネルギーに関する動向がまとめられていました。世界で開発競争が激化してきた水素エネルギーについて最新の海外動向をご紹介します。
世界各国の動向として、前回の海外動向を取り上げた記事ではオーストラリアとドイツについてご紹介をしました(ご参考:https://pps-net.org/column/102271)。今回は、大規模投資を進めるアメリカ・オランダ・中国に注目してまいります。
アメリカ
バイデン政権下の水素への大胆投資
2021年6月にエネルギー省(DOE)は「エネルギー・アースショット・イニチアチブ(Energy Earthshots Initiative)」を立ち上げました。その中の「水素ショット(Hydrogen Shot)」では今後10 年以内に水素のコストを1キログラム当たり1ドルにすることを目指すと発表しました。当時1キログラム当たり5ドルだったため、これは80%の大幅な削減目標になります。
超党派インフラ法(2021年11月)では、クリーン水素関連プロジェクトに対し、5年間で95億ドル(約1.34兆円)を投資する等、大胆な先行投資を実施。そのうち最大70億ドル(約 9,800億円)は6~10拠点の地域水素ハブ「水素ハブプログラム」を支援するために使われるといいます。
さらに、2022年9月「クリーン水素戦略&ロードマップ」のドラフト版では、クリーン水素の生産量を2030年までに年間1000万トン、2050年までに年間5000万トンに増やす目標を掲げました。目標達成に向けて、2022年8月に成立したインフレ削減法により3,690 億ドル(約51.7 兆円)の気候変動対策を行います。また、クリーン水素の製造事業者に対して10年間の税額控除を行うなどして生産拡大を後押しします。
バイデン政権下の水素への大胆投資
米国エネルギー省の水素政策の基本原則には、「最終的に、地域に新たな経済機会を創出し、黎明期の産業でグローバルリーダーになることを追求」との記載があります。
「水素ハブプログラム」は、生産者、消費者、地域の接続インフラのネットワークを構築することで、クリーンな水素の利用を加速させることを目的としています。2022年末の時点で、20地点以上の水素ハブがコンセプトペーパーを提出しています。2023年秋にDOEによる採択が予定されています。

出典:経済産業省
「米国におけるクリーン水素政策と民間投資の動向」
現在、提案されているハブの多くは、石油精製、鉄鋼生産、化学用途、肥料向けアンモニアに焦点を当てています。産業部門が水素利用の最も期待される需要であり、現在の水素需要の大部分も占めています。大型トラックと長距離輸送車両など輸送部門は、産業部門に続きアメリカでは2番目に大きな最終需要と見なされています。発電部門では、水素の貯蔵の可能性に着目しています。アメリカでは現在のところ、バッテリー貯蔵よりも水素貯蔵の方が低コストであると見なされていることから、再エネ発電の出力抑制を避けるためのリソースとして期待しているハブもあります。
オランダ
特徴的な地形と歴史を持つ国
2020年4月に「国家水素戦略」を発表。北海の洋上風力発電を利用したグリーン水素の生産や貯蔵設備が進んでいます。
欧州の中央に位置するオランダは、欧州物流の中心地であり、イギリス、フランス、ドイツという欧州の三大経済圏に容易にアクセスすることが可能という地形的な特徴があります。ロッテルダム港は、従来は石油や天然ガスをオランダ国内や周辺国に供給し、化石燃料ハブとして発展してきました。
しかし近年、将来の水素需要を睨んで、「欧州の水素ハブ」へと転換が図られています。世界最大の200メガワットの製造プラントを建設。費用は1億ユーロ(約156億円)と見積もられており、2024年下半期に完工の予定です。2026年頃までに同じ規模のプラントが少なくとも4つ計画されています。同時に、既存パイプラインを水素向けに再利用するという試みを行っています。
ロッテルダム港の計画に世界が注目
2022年12月、オランダ国内で水素製造に関わるプロジェクトに、政府が総額7億8,350万ユーロ(約1,000億円)の補助金を投入すると発表しました。投資を呼び込む動きも活発で、先月開かれた水素ビジネスに関わる展示会には、128の国から去年の倍の5600にのぼる企業や団体が参加しました。5月には、オランダの水素ビジネスに関心を持つ日本企業が現地視察を行っています。
ロッテルダム港の計画で興味深いのは、パイプによってガスの種類や「純度」を変えることで、需要家の個別ニーズに対応できるということです。水素は製造工程の違いから「グリーン水素」、「ブルー水素」、「グレー水素」などと色分けされて呼ばれています。100%グリーン水素なのか、100%ブルー水素なのか、天然ガスなのかなど、需要が違うものに対応できる柔軟性をシステムに組み込んでいます。

出典:国土交通省「カーボンニュートラルポート(CNP)形成計画の趣旨について(2021年8月)」
中国
EVに続き、FCVも中国政府が普及を後押し
2022年3月に「水素エネルギー産業発展中長期規画」を策定しました。その中で、グリーン水素を年間10~20万トン製造する目標を掲げています。北京市など、自治体レベルでも水素産業の発展等に関する計画を発表しています。中国の産業連盟の予測によれば、中国の水素需要は、2050年で約1億トンに拡大するとのことです。
国をあげてEVの投資・支援にも積極的だった中国ですが、FCVの支援についても、モデル都市群を選定し、車両・基幹部材のサプライチェーン整備に応じて補助金を拠出する政策を発表しています。条件に基づき2025年までに年間最大17億元(約 340億円)を助成するとのことです。
2022年の北京冬季五輪では選手や関係者の移動手段として約1000台のFCVが使用されたことも話題になりました。以下の図からも車両用として乗用車は極めて少なく、大型トラックなどの物流者やバスへの普及が多くなっています。

出典:NEDO「中国における水素・燃料電池の動向(2022年3月)」
まとめ
日本では2017年12月に世界で初めて「水素基本戦略」が策定されました。3か国の動向を見ても、水素戦略が早くから打ち出されてきたことがわかります。6年ぶりの改訂によって、今後15年間で15兆円規模の投資をし、2040年に現在の6倍の1200万トンの導入量を目指す、という方向性も見えてきました。エネルギー自給率9%、資源大国ではない日本が、次世代エネルギーの水素で世界をリードするという目標に向けて、官民の今後の動きが期待されます。
Facebookいいね twitterでツイート はてなブックマーク執筆者情報

一般社団法人エネルギー情報センター
EICは、①エネルギーに関する正しい情報を客観的にわかりやすく広くつたえること②ICTとエネルギーを融合させた新たなビジネスを創造すること、に関わる活動を通じて、安定したエネルギーの供給の一助になることを目的として設立された新電力ネットの運営団体。
| 企業・団体名 | 一般社団法人エネルギー情報センター |
|---|---|
| 所在地 | 東京都新宿区新宿2丁目9−22 多摩川新宿ビル3F |
| 電話番号 | 03-6411-0859 |
| 会社HP | http://eic-jp.org/ |
| サービス・メディア等 | https://www.facebook.com/eicjp
https://twitter.com/EICNET |
関連する記事はこちら
一般社団法人エネルギー情報センター
2025年12月31日
電力小売全面自由化から10年、数字が語る制度と市場の現実【第1回】数字の区切りに惑わされず、いまの制度と市場を見直す
「自由化から10年」という言葉が、各所で頻繁に取り上げられるようになりました。 しかし、制度の導入や市場設計の見直しが今も続いており、電力を取り巻く環境は「完成」に近づくどころか、なお変化の途上にあります。 本稿では、数字がもたらす完了感と、制度・市場の実態との間にあるずれを整理し、“節目”という言葉の意味をあらためて考えます。
一般社団法人エネルギー情報センター
2025年12月27日
政府も注目する次世代エネルギー 核融合の仕組みと可能性 【第5回】社会実装と中長期シナリオ 2030年代のロードマップと日本の戦略
これまで4回にわたり、核融合という次世代エネルギーの可能性を、研究・技術・制度の観点からたどってきました。長らく“夢のエネルギー”と呼ばれてきた核融合は、いま確実に社会の現実へと歩みを進めています。 最終回となる今回は、社会実装に向けたロードマップと、日本が描くべき中長期戦略を考えます。 核融合が“希望の象徴”で終わらず、私たちの暮らしに息づくエネルギーとなるために、次の時代に向けた道筋を描きます。
一般社団法人エネルギー情報センター
2025年12月17日
政府も注目する次世代エネルギー 核融合の仕組みと可能性 【第4回】制度設計・安全規制・地域産業化 社会実装に向けた最新動向
第1回では核融合の基本、 第2回では国内研究基盤、 第3回では民間企業による産業化の動きを整理してきました。 こうした技術・ビジネス面の進展を踏まえ、2025年後半には「社会実装」に向けた制度づくりや安全規制の検討が政府内や国際機関で動き始めています。国際基準への日本の参画や、地域での研究・産業活動の広がりなど、核融合を社会に組み込むための枠組み形成が進みつつあります。 本稿では、制度・安全・産業の三つの観点から、この転換点の現在地を整理します。
一般社団法人エネルギー情報センター
2025年11月30日
政府も注目する次世代エネルギー 核融合の仕組みと可能性 【第3回】民間企業が牽引する核融合ビジネスの現在地 国内外で加速する産業化の動き
第1回では核融合の基本原理と方式を、第2回ではJT-60SAやLHDを中心に日本の研究基盤を整理してきました。近年は研究成果が民間へ移行し、実証炉開発や供給網整備が本格化しています。高温超伝導やAIなどの技術進展により小型化と効率化が進み、投資も拡大。本稿では国内外スタートアップの動向と商用化に向けた論点を整理します。
一般社団法人エネルギー情報センター
2025年11月24日
政府も注目する次世代エネルギー 核融合の仕組みと可能性 【第2回】国内研究最前線 JT-60SAとLHDが描く日本の核融合ロードマップ
地上に“小さな太陽”をつくるという挑戦が、いま日本の研究現場で確実に動き始めています。 第1回では、核融合がどのようにエネルギーを生み出すのか、その基本原理や世界的な動向について整理しました。今回はその続編として、日本が持つ二つの主要研究拠点、「JT-60SA(大規模トカマク型装置)」と「LHD(ヘリカル方式の大型装置)」に焦点を当て、国内で進む最前線の取り組みを詳しく解説します。 どちらも世界トップクラスの規模と技術を誇り、2030年代の発電実証を目指す日本の核融合開発に欠かせない“橋渡し役”として国際的にも注目されています。






















