中間選挙終えたアメリカ、気候変動対策やエネルギー政策の行方は?
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2022年11月29日
一般社団法人エネルギー情報センター

発足から約2年、バイデン政権が掲げた気候変動対策は今どうなっているのか。今回は、中間選挙を終えたアメリカのエネルギー政策の動向や、民間企業の動向をご紹介します。
インフレ抑制法、COP27での表明などはどうなるのか
アメリカ政府の報告書では2021年、気候災害で688人が死亡、1450億ドル(約16兆5000億円)以上の被害が出たことが分かりました。今年も9月に、カリフォルニア州に熱波が襲来し、電力危機が発生しました。少なくとも2万軒の停電が発生。電力網の運営機関は連日の節電要請をしており、計画停電に陥る恐れも出ていたほどです。
こうした背景から2021年1月に発足したバイデン政権は、気候変動対策を大きな政策看板に掲げていました。以下のコラムでも紹介していますのでご参考になさってください。「米・バイデン政権の気候変動対策とは?世界、そして日本への影響は?【前編】 https://pps-net.org/column/85853/【後編】 https://pps-net.org/column/85851」
2022年8月には「インフレ抑制法(IRA)」が可決。3690億ドル(約54兆円)規模の気候変動対策が含まれ、アメリカの歴史で過去最大の温暖化対策の実施によって、2030年までに排出量40%削減を目指します。
当法案には、エネルギー再生技術の促進のため、270億ドル規模の「クリーンエネルギー技術促進」措置が新設されるなど、環境負荷の少ないクリーンエネルギー開発に取り組む企業への税控除措置などが盛り込まれています。一般家庭に対しては、電気自動車(EV)の新車購入に最大7500ドル(約101万円)の税控除が適用されます(中古車の場合は最大4000ドル)。そして、災害による被害が大きい地域には、600億ドル(約8兆2000億円)の助成金が支払われるということです。
直近では、11月に開催されたCOP27で、バイデン大統領はアフリカ諸国の気候変動対策支援に1.5億ドル拠出表明しました。このように、積極的な動きを見せていますが、中間選挙を終えて、共和党が下院で議席を上回ったことで、これらの政策がスムーズに進行するかわからなくなっています。
アメリカは政権によって気候変動への施策が大きく異なる特徴があり、政府主導の気候変動対策は、現時点ではなんとも言い難い状況です。
しかし、アメリカでは、GAFAMをはじめとして、政府と同じような大きな影響力を持っている巨大テック企業が存在しています。EV市場でもテスラをはじめとしてたくさんの新興企業が生まれています。そういった民間の動きから起こす脱炭素へのムーブメントもあるでしょう。今回は2つの事例を紹介していきます。
気候変動ファンドと、アンモニアでゼロエミッションを目指すスタートアップ
例えば、Amazonの創業者であるジェフ・ベゾス氏は、2020年2月にベゾス・アースファンドを創設しています。同ファンドは、気候危機に取り組む科学者、活動家、非政府組織(NGO)などに資金を提供し、自然保全や保護に役立つ可能性のある取り組みを支援することを目的にしています。最初の資金提供先として、16の組織に合計7.91億ドル寄付することを発表。2030年までに100億ドルを拠出することにコミットしています。
また、マサチューセッツ工科大学の卒業生4人が2020年に設立したスタートアップAmogyは、Amazonの気候変動ファンド「Climate Pledge Fund」などによる出資を受けて急成長を遂げています。アンモニアを高効率で電力に変換する技術を開発し、アンモニアベースの出力100kWの燃料電池トラクターを公開しました。(以下写真参照)

出典:Amogy
このトラクターは、従来のディーゼルエンジンのように短時間で簡単に燃料補給ができ、1回の補給で数時間分の電力を供給できるため、農業分野をはじめ、トラック輸送部門の脱炭素化につながると期待されています。
元々アンモニアは肥料として使用されており、農業分野では身近な化学物質です。アメリカは世界第3位と生産量が多く、南部ルイジアナ州には東京ドーム約120個分という広大な敷地の世界最大のアンモニア工場があります。アンモニアは燃焼する際にCO₂を排出しないため、日本でもゼロエミッション燃料としても有望視されています。
Amogy CEOのSeonghoon Woo氏は、「車両向けの優れた燃料として、ゼロカーボンアンモニアを確立しようと、最前線で取り組んでいる。アンモニアはエネルギー密度が高く、パイプライン、ターミナル、貯蔵方法など、エネルギー転換を支えるためのインフラが、アメリカそして世界には既に多く存在する」と語っています。来年には出力を1MWまで拡張するほか、クラス8(重量15トン超)の大型トラックや輸送船の実証実験も予定しているということです。
Appleがサプライヤーを巻き込んで行うカーボンニュートラル
アメリカのApple社では、事業全体、製造サプライチェーン、製品ライフサイクルのすべてを通じて、2030年までに気候への影響をネットゼロにすることを目指しています。CEOのティム・クック氏は「気候変動に対するAppleの取り組みをAppleだけで終わらせず、より大きな変化を起こすための波及効果を生む決意をしています」と述べています。
Appleはサプライヤーの再生可能エネルギー利用を推進するために、サプライヤー各社向けに無料のEラーニングやライブトレーニングを提供しています。現時点で、Appleの主要な製造パートナーのうち213社が、25カ国でApple製品の製造をすべて再生可能電力で賄う取り組みに参加をしています。これらによって、年間300万台の自動車が道路から消えてなくなることに相当する温室効果ガス削減効果があるということです。
また製品上の取り組みとしては、アメリカでは、iOS16.1の公開にあわせて「クリーンエネルギー充電」が利用できるようになりました。この機能はiPhoneが、充電が予想される時間帯の電力源を調べて、太陽光や風力などのクリーンエネルギーが使用される時間帯に充電するよう、充電パターンが自動で最適化されるというものです。

出典:Apple
2021年4月には森林の保護により二酸化炭素を除去しつつ、金銭的なリターンを生む「Restore Fund(再生基金)」の設立を発表。Restore Fundは、環境保護団体コンサベーション・インターナショナルと投資銀行Goldman Sachsと提携し、ブラジルとパラグアイの3つの質の高い森林管理に投資し、10万エーカー(東京ドーム約0.9個分)の天然林、草地、湿地を保護しています。Appleは、炭素除去の影響を正確に監視、報告、検証するために衛生画像の分析やリモートセンサーテクノロジーの配備に取り組むとしています。これらのプロジェクトにより、2025年には大気から100万トンの二酸化炭素が除去される見込みとのことです。
CO2排出量が第2位のアメリカ。バイデン政権下で進められたインフレ法案の行方も注目しながら、政府に頼らない民間の積極的な動きにも引き続き注目していきたいと思います。
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