微細藻類から燃料を作る、世界初の事業確立を目指した挑戦、ユーグレナとデンソーが包括的提携

2019年02月22日

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

微細藻類から燃料を作る、世界初の事業確立を目指した挑戦、ユーグレナとデンソーが包括的提携の写真

ユーグレナと、自動車部品サプライヤー最大手のデンソーは、双方の微細藻類に関する知見を持ち寄り、さまざまな事業の実用化に向けた包括的な提携をすることで基本合意したと発表しました。

バイオ燃料の導入が遅れている日本

バイオ燃料は、既存の化石燃料と比べると理論上CO2排出量が少ない再生可能な液体燃料であり、欧米を中心に世界中で普及が進んでいます。国際的な枠組みの中でも徐々に存在感を増しており、例えば2016年の国際民間航空機関(ICAO)総会において、温室効果ガス排出削減制度(GMBM)を導入することで合意が行われました。これにより、各航空会社は2021年以降、2020年実績を上回るCO2排出量を排出権として購入する必要が発生します。

つまり、各航空会社は、2020年実績を上回る量に関して排出権を購入しなければならなくなり、その対策として有望視されているバイオジェット燃料の導入は、米国、EU主要国、カナダやオーストラリアのほか、シンガポール、タイ、中国やインドといったアジアの国々でも進んでいます。

ICAOには日本も加盟しておりますが、バイオジェット燃料を使用した有償飛行はいまだ実現しておらず、世界主要国に対してバイオジェット燃料の導入が遅れているのが現状です。

ただし日本も着実に歩を進めており、バイオベンチャーのユーグレナ社が日本初のバイオジェット・ディーゼル燃料製造実証プラントを、2018年10月31日に竣工し注目を集めました[関連記事]。

燃料を多く使うカテゴリとしては、航空の他に自動車がありますが、この自動車用バイオ燃料について、EU各国では2020年までに10%(再生可能エネルギー指令(RED))、米国では2020年までに20%(再生可能燃料使用基準(RFS2))とすることが目標として掲げられています。

しかしながら、資源エネルギー庁の資料によると、日本ではガソリンとディーゼル代替のバイオ燃料の導入目標は2022年までで年間数%程度であり、欧米と比較すると低い目標水準に留まっています。

こうした中、ユーグレナと、自動車部品サプライヤー最大手のデンソーは、双方の微細藻類に関する知見を持ち寄り、さまざまな事業の実用化に向けた包括的な提携をすることで基本合意したと発表しました。

包括的提携の項目
  1. バイオ燃料事業の開発
  2. 微細藻類培養技術の研究開発
  3. 藻類の食品・化粧品等への利用
  4. 微細藻類による物質生産

バイオ燃料事業の開発

ユーグレナ社は2005年に世界で初めて石垣島で微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の食用屋外大量培養技術の確立に成功した企業です。一方でデンソーは、2008年から微細藻類コッコミクサKJ(旧名シュードコリシスチス)を活用したバイオ燃料の研究に取り組み、藻体に占める油脂分の蓄積効率向上の研究および屋外大量培養技術の確立に向けた実証実験を行っています(図1)。

両社によると、今回の提携により、複数の微細藻類を原料としたバイオ燃料の製造を実現することで、将来的な原料調達の多様化と安定的なバイオジェット・ディーゼル燃料供給に向けた研究を加速するとしています。

微細藻類の利点として、食料問題との競合が起きにくい点が挙げられます。従来型のバイオ燃料の欠点として、トウモロコシやサトウキビ、大豆、パームといった作物を主な原料とするため、食料との競合や、森林破壊にともなう温室効果ガスの増加といった問題などが指摘されています。

一方で、微細藻類は、耕地(田畑)を必要とせず、工業的な生産が可能です。穀物などの陸上や高等植物と比較して、単位面積当たりの生産性が非常に高く、安定した生産が期待できるため、食料生産と競合しないことから注目されています。

その培養には、水が供給可能であれば、耕地として利用できない砂漠などの荒廃地の利用も可能であり、海水で培養できる藻類株も多種存在します。しかしながら、現状では製造原価が極めて高く、「微細藻類から燃料を作る」という事業の確立は、世界でまだ誰も成し得ていない大きな挑戦となります。

両社のバイオ燃料事業の開発は世界に先駆けた取り組みと考えられ、具体的に両社は、ユーグレナ社のバイオ燃料製造実証プラントにおける原料の一部として、微細藻類ユーグレナの油脂に加えてコッコミクサKJから抽出される油脂を使用し、バイオ燃料を製造・供給することを目指しています。また、デンソーは製造されたバイオディーゼル燃料の一部を社内運行バスに使用することも検討しています。

左:微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)、右:微細藻類コッコミクサKJ

図1 左:微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)、右:微細藻類コッコミクサKJ

微細藻類培養技術の研究開発

大規模かつ安定的に、そして従来と比較してより安価に微細藻類を生産することは、両社共通の課題です。この点、ユーグレナ社は、沖縄県石垣市での微細藻類ユーグレナやクロレラの大量培養生産に加え、三重県多気町の藻類エネルギー研究所において、燃料用ユーグレナの屋外大量培養技術に関する研究開発を行っています。

この続きを読むには会員登録(無料)が必要です。

無料会員になると閲覧することができる情報はこちらです
電力の補助金

補助金情報

再エネや省エネ、蓄電池に関する補助金情報を一覧できます

電力料金プラン

料金プラン(Excel含)

全国各地の料金プラン情報をExcelにてダウンロードできます

電力入札

入札情報

官公庁などが調達・売却する電力の入札情報を一覧できます

電力コラム

電力コラム

電力に関するコラムをすべて閲覧することができます

電力プレスリリース

プレスリリース掲載

電力・エネルギーに関するプレスリリースを掲載できます

電力資格

資格取得の支援

電験3種などの資格取得に関する経済支援制度を設けています

はてなブックマーク

執筆者情報

一般社団法人エネルギー情報センターの写真

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

EICは、①エネルギーに関する正しい情報を客観的にわかりやすく広くつたえること②ICTとエネルギーを融合させた新たなビジネスを創造すること、に関わる活動を通じて、安定したエネルギーの供給の一助になることを目的として設立された新電力ネットの運営団体。

企業・団体名 一般社団法人エネルギー情報センター
所在地 東京都新宿区新宿2丁目9−22 多摩川新宿ビル3F
電話番号 03-6411-0859
会社HP http://eic-jp.org/
サービス・メディア等 https://www.facebook.com/eicjp
https://twitter.com/EICNET

関連する記事はこちら

ペロブスカイト太陽電池の課題解決と今後の展望の写真

一般社団法人エネルギー情報センター

2024年11月01日

新電力ネット運営事務局

ペロブスカイト太陽電池の課題解決と今後の展望

前編では、ペロブスカイト太陽電池の基本的な特徴やそのメリットについて紹介しました。今回は、性能の安定性や材料に含まれる鉛の問題、エネルギー変換効率などの課題に対する最新の解決策や企業の取り組みを交えて解説します。

ペロブスカイト太陽電池の特徴とメリットの写真

一般社団法人エネルギー情報センター

2024年09月27日

新電力ネット運営事務局

ペロブスカイト太陽電池の特徴とメリット

太陽光発電は、再生可能エネルギーの代表的な存在として世界中で注目を集めています。その中でも、シリコン太陽電池に次ぐ次世代のエネルギー技術として「ペロブスカイト太陽電池」が大きな注目を集めています。ペロブスカイト太陽電池は、軽量で柔軟性があり、従来の太陽電池では難しかった場所での活用が期待されていることから、多様な分野での普及が期待されています。 2024年度には福島県内での実証実験が予定され、日本国内でも本格的な導入に向けた動きが始まっています。注目が集まるペロブスカイト太陽電池について、2回に渡りお伝えします。第1回目では、ペロブスカイト太陽電池の基本的な特徴やメリット、そしてシリコン太陽電池との違いについて、詳しく解説していきます。

2024年度の出力制御②優先給電ルールにおける新たな施策についての写真

一般社団法人エネルギー情報センター

2024年08月28日

新電力ネット運営事務局

2024年度の出力制御②優先給電ルールにおける新たな施策について

再生可能エネルギー(再エネ)の導入拡大が進み、導入量が増えた結果、 電力需要が低い時期には「発電量過多」になり、全国的に 出力制御 が行われるようになってきました。この出力制御について、2回に渡りお伝えしています。 1回目はそもそも出力制御とは何か、増加している要因、過去の事例についてお伝えしました。今回は、経済産業省・資源エネルギー庁が優先給電ルールに基づく新たな施策を公表したので、その内容をご紹介します。

太陽光ケーブル窃盗が再エネ普及を脅かす②ー盗難対策の重要性と太陽光ケーブル盗難から事業者を守るサービスや商品についてーの写真

一般社団法人エネルギー情報センター

2024年07月18日

新電力ネット運営事務局

太陽光ケーブル窃盗が再エネ普及を脅かす②ー盗難対策の重要性と太陽光ケーブル盗難から事業者を守るサービスや商品についてー

太陽光発電施設から銅線が盗まれる事件が後を絶ちません。銅相場が高止まりし、売却狙いの犯罪が再生可能エネルギーの産業を脅かしています。1回目は太陽光発電設備が狙われる理由と自衛についてをお伝えしました。2回目は盗難対策の重要性と太陽光ケーブル盗難から事業者を守るサービスや商品についてお届けします。

太陽光ケーブル窃盗が再エネ普及を脅かす①ー犯罪が増え続ける背景と自衛についてーの写真

一般社団法人エネルギー情報センター

2024年06月13日

新電力ネット運営事務局

太陽光ケーブル窃盗が再エネ普及を脅かす①ー犯罪が増え続ける背景と自衛についてー

太陽光発電施設から銅線が盗まれる事件が後を絶ちません。銅相場が高止まりし、売却狙いの犯罪が再生可能エネルギーの産業を脅かしています。第2回にわたり銅窃盗の再生エネルギー戦略への影響と各企業の防止策についてご紹介します。1回目は太陽光発電設備が狙われる理由と自衛について、2回目は太陽光ケーブル盗難から事業者を守るサービスや商品についてお届けします。

 5日間でわかる 系統用蓄電池ビジネス