世界最大の蓄電システム、1年間の稼働で45億円の節約、設置費用は75億円
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2019年01月09日
一般社団法人エネルギー情報センター
世界最大の蓄電池を管理するAureconが、そのパフォーマンスと市場への影響などを記したレポートを発表しました。一年間の運用により、約4000万ドルの節約につながったほか、電力インフラの信頼性の向上にも寄与したとしています。
世界最大の蓄電システム、価格面だけではなく電力インフラの信頼性向上にも寄与
オーストラリアは、石炭、液化天然ガス(LNG)、ウランなど複数のエネルギー資源を輸出する世界有数の資源国です。そのため、火力発電を比較的安価に運営しやすいメリットを持ちますが、その一方で2000年に再エネ法が制定され、再エネ証書取引などを通じて再エネ拡大が進みました。
結果として、2000年から2016年までに、発電電力量に占める再エネの割合は8%から15%に上昇しました。このように、再生可能エネルギーの拡大が進む中、より一層の普及を目指すためには、グリッドの信頼性と安定性の問題に取り組むことが重要です。
近年、再エネの普及と技術向上に伴い、蓄電池を系統安定化に活用するという取り組みに注目が集まっています。現在、世界最大といわれる蓄電施設は、再生可能エネルギー事業者であるNeoenが所有し、Teslaが提供する「Hornsdale Power Reserve(HPR)」であり、出力は100MW、容量は129MWhを誇ります[関連記事]。ピーク出力で発送する場合、バッテリーは3万戸に相当する電力を供給可能な出力を発揮します。
NeoenはHPRを通じて、オーストラリア政府およびオーストラリアのエネルギー市場運営者(AEMO)と協力することで、電力消費者にメリットを提供しています。
2017年12月より本格稼働を開始したHPRですが、運営から一年が経過したところ、アドバイザー・管理会社であるAureconが、そのパフォーマンスと市場への影響などを記したレポートを発表しました。このレポートでは、高速応答が可能な蓄電システムにより、価格面のメリットだけではなく、電力インフラシステムの信頼性の向上にも寄与することを明らかになっています。
一年間の稼働で約45億円の節約
HPRは、Neoenが運営する風力発電「Hornsdale Wind Farm」から得られたエネルギーを蓄電することで、バックアップ電源である「調整電源」としての機能を有します。Neoenによると、HPRの完成は100日以内に完了し、約6600万ドル(約75億円)の費用に抑えられたしています。なお、HPRを1年間運営することで、約4000万ドル(約45億円)の節約に繋がったとしており、2年間の運用にて初期費用を上回るメリット獲得が見込まれています。
HPRによる節約効果の大きな要因は、緊急対応用の高価な電源稼働を排除したことにあります。オーストラリアの電力網で問題が発生したりメンテナンスが必要になったりすると、AEMOは、電力の損失を補うために、高価なガスジェネレータと蒸気タービンで構成されるFCAS(周波数制御・補助サービス)を要求します。
AEMOはセキュリティの観点から、歴史的に、南オーストラリア州のFCASにおいて、35MW分の電力の現地調達を要求してきました。この間、現地での限られた供給元からの電力調達となるため、FCAS価格は非常に高くなります。
しかし、100MWもの規模があるHPRの導入により、35MWの制約は実質的に廃止され、約4000万ドルの節約につながりました(図1)。FCASの価格が75%引き下がったほか、南オーストラリア州が全国電力市場から分離されるのを防ぐことにも寄与しました。加えて、南オーストラリア以外の、他の地域にも同様の効果を提供することが可能です。
約100ミリ秒の高速応答時間が可能
2018年8月25日、オーストラリアの電力市場(NEM)は落雷によりQLD-NSW送電網が故障したことで、重大なシステムセキュリティイベントが発生しました。これにより、NEMの機能が著しく低下、その後、南アフリカ州がNEMから分離されました。
危機を察知したHPRは、すべての接続地域に対して大規模な周波数サポートを開始、システムの正常化を試みました。その後、南アフリカ州は、通常の周波数範囲に、20秒以内に復元しました。
HPRの信頼性については、AEMOが2018年4月に発表したレポートの中でも、従来の蒸気タービンよりはるかに早く正確に対応可能であり、価格メリットもあると報告されています。
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執筆者情報
一般社団法人エネルギー情報センター
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