カーボンフットプリントの今後、炭素の「消費税」で製品に低炭素価値、経済同友会が提言

2018年01月23日

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

カーボンフットプリントの今後、炭素の「消費税」で製品に低炭素価値、経済同友会が提言の写真

1月18日、経済同友会はカーボンフットプリントのあり方などに関する提言を発表しました。温室効果ガス排出削減に向けた内容であり、発表ではカーボンフットプリントの活用など3つの提言が示されました。

経済同友会、カーボンフットプリントのあり方などに関する提言を発表

IPCC第5次評価報告書によると、20世紀半ば以降に観測された温暖化の支配的な原因は、人間活動であった可能性が95%以上と極めて高いです。1880年から2012年において、世界平均地上気温は0.85℃上昇しており、また1901年から2010年において世界平均海面水位は19cm上昇しました。

そのような中、2020年以降の温室効果ガス排出削減等のための新たな国際枠組みである、パリ協定が採択されました。パリ協定は、2017年6月に米国の脱退表明があったものの、米国の動きに追随する国はなく、2017年7月のG20でも、パリ協定を軸に対策を進めることが確認されています。

(左)世界平均地上気温偏差の変化 、(右)世界年平均海面水位の変化

図1 (左)世界平均地上気温偏差の変化 、(右)世界年平均海面水位の変化 出典:環境省

日本の将来におけるエネルギー事情について、環境省の長期低炭素ビジョンでは、2050年80%削減に向けた絵姿として、再エネなどの低炭素電源が9割以上を占めているとしています。また、あらゆる分野で電化・低炭素燃料への利用転換が進み、最終エネルギー消費の多くは電力によってまかなわれ、化石燃料は一部の産業や運輸等で使用されるのみといった未来を描いています。

現在、日本では2020年の「長期低排出発展戦略」提出に向けて検討が重ねられていますが、2030年の26%削減や 2050年の80%削減を達成するための具体的な戦略を策定することは容易ではありません。この長期低排出発展戦略に向けて、環境省は「長期低炭素ビジョン」を、経済産業省は「長期地球温暖化対策プラットフォーム報告書」を取りまとめています。その中でカーボンプライシングに関しては、環境省は積極的、経済産業省は慎重な意見を表明しています。

環境省「長期低炭素ビジョン」 経済産業省「長期地球温暖化対策プラットフォーム報告書」
長期大幅削減を実現するため、現行の地球温暖化対策計画に基づく着実な取組とともに、主要な施策の方向性としては、①世の中の全ての主体に排出削減のインセンティブを与え、市場の活力を最大限活用して、低炭素の技術、製品、サービス等の市場競争力を強化するカーボンプライシング(炭素の価格付け)や、②環境情報の整備・開示、技術開発、土地利用、人材育成、世界全体の排出削減への貢献等が考えられる。 我が国は、エネルギー本体価格・諸税、その他の暗示的価格等を合算したカーボンプライス全体について、既に国際的に高額な水準にある。国際比較や既存施策による措置等を考慮すると、現時点ではカーボンプライシング施策(排出量取引・炭素税)の追加措置は必要な状況にない。ただし、長期の様々な不確実性に鑑みても、カーボンプライシング施策は、政策オプションの1つとしては今後とも慎重な検討が必要である。

こうした中、経済同友会はカーボンフットプリントのあり方などに関する提言を発表しました。温室効果ガス排出削減に向けた内容であり、発表ではカーボンフットプリントの活用など3つの提言が示されました。

提言1、カーボンフットプリントを活用してイノベーションと行動変容を促す

温室効果ガスの排出削減策には、政府、企業、家計の各部門の主体的な取り組みが必要です。現状を認識し、目標を設定し、成果を評価し、さらなる高度化を図っていくための出発点は、CO2排出量の定量的な把握です。

定量把握の手法としては、カーボンフットプリントがあります。カーボンフットプリントとは、ライフサイクル全体の温室効果ガス排出量を把握することであり、①製品(サービス)レベルで把握する取り組みと、②各企業レベルで把握する取り組みがあります(図2)。

現状では、カーボンフットプリントは自主的開示に留まっています。しかし、今回の提言において、まずは各企業において、製品・サービスレベルでCO2排出量を定量的に把握する取り組みを推進すべきとされています。このCO2排出量の「見える化」によって、事業者のみならず個人を含む消費者も、CO2排出量が少ない製品の選択が可能となります。

また、今後、地球環境の持続可能性向上への企業の取り組みが、環境意識の高い消費者や投資家から一層重視されていくことが考えられます。例えば、GSIAによるとESG投資は、2016年に約23兆ドルとなっており、世界の運用資産の3割に迫っています。そのことを考慮すると、消費行動や投資行動によって、CO2排出削減に対する市場を通した企業への規律が強化される可能性があります。そのため、今回の発表ではカーボンフットプリントを事業活動のインフラとして早期に本格導入していくべきと提言されています。

カーボンフットプリントの概念図

図2 カーボンフットプリントの概念図 出典:経済同友会

提言2、国際貢献と経済成長との好循環を成長戦略として展開する

世界の温室効果ガス排出量に占める日本の割合は2.7%しかなく、仮に2050年の80%削減を国内のみで達成したとしても、地球レベルでの貢献は限定的になります。むしろ、新興国や途上国へ技術協力することで、地球規模の温暖化対策が実現します。同時に、これは新興国や途上国の産業の高度化にも寄与するため、国家間の信頼関係の構築の観点でも大きな意義があります。

また、日本企業には、各国企業へ広がるグローバル・サプライチェーンがあります。提言では、これに日本発のカーボンフットプリントを積極活用することで、新たな付加価値を創出できる可能性が高いとしています。

加えて、個別企業による取り組みを越えて、カーボンフットプリントに関する業界基準を整備することも必要としています。日本発のカーボンフットプリントが世界に浸透すれば、将来的に国際標準を獲得することも期待できます。

提言3、長期的視野に立脚し温暖化対策の負担の構造改革を目指す

カーボンプライシングには幾つかの類型があり、それぞれにメリット・デメリットあります(図3)。現在、日本ではカーボンプライシング導入の検討が行われていますが[関連記事]、提言では排出企業に直接課税するような制度設計ではなく、企業が自主的・積極的に対応していくことが望ましいとしています。

また、現状、日本の炭素価格は他国に比較して高い水準にあります。したがって、現行のエネルギー課税は地球温暖化対策税を含めて、縮小・廃止する方向で見直すことで、特に企業の負担を軽減し、投資を促していくべきとの提言が示されています。

排出削減策を実施すれば費用の発生は免れず、これを誰かが負担しなければなりません。しかし提言の中では、前述のように排出企業に直接課税すべきではないとされています。そのため、消費者に費用負担を求める税として、仮称「炭素消費税(Carbon Consumption Tax:CCT)」の概念が示されています。

この仕組みでは、温暖化対策の費用は、従量的で応益的な間接税として負担を求めるものとなります。従量性は、排出量の多寡に応じて負担するということです。応益性は、製品・サービスの便益を享受する消費者に負担を求めるということです。

この消費税をモデルとした炭素消費税(CCT)の導入によって、低炭素であるほど製品やサービスの税負担が少なくなるため、市場原理を通じ、CO2の排出総量が最小化していくことが期待できます。

ただし、炭素消費税についても、様々な欠点が指摘されています。例えば、サプライチェーンの最上流からの排出量の把握、製品・サービスごとに異なる税率設定、WTO協定など既存の貿易ルールとの整合性などです。

この続きを読むには会員登録(無料)が必要です。

無料会員になると閲覧することができる情報はこちらです
電力の補助金

補助金情報

再エネや省エネ、蓄電池に関する補助金情報を一覧できます

電力料金プラン

料金プラン(Excel含)

全国各地の料金プラン情報をExcelにてダウンロードできます

電力入札

入札情報

官公庁などが調達・売却する電力の入札情報を一覧できます

電力コラム

電力コラム

電力に関するコラムをすべて閲覧することができます

電力プレスリリース

プレスリリース掲載

電力・エネルギーに関するプレスリリースを掲載できます

電力資格

資格取得の支援

電験3種などの資格取得に関する経済支援制度を設けています

はてなブックマーク

執筆者情報

一般社団法人エネルギー情報センターの写真

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

EICは、①エネルギーに関する正しい情報を客観的にわかりやすく広くつたえること②ICTとエネルギーを融合させた新たなビジネスを創造すること、に関わる活動を通じて、安定したエネルギーの供給の一助になることを目的として設立された新電力ネットの運営団体。

企業・団体名 一般社団法人エネルギー情報センター
所在地 東京都新宿区新宿2丁目9−22 多摩川新宿ビル3F
電話番号 03-6411-0859
会社HP http://eic-jp.org/
サービス・メディア等 https://www.facebook.com/eicjp
https://twitter.com/EICNET

関連する記事はこちら

物流業界の脱炭素化と中堅・中小企業のGX事例の写真

一般社団法人エネルギー情報センター

2023年12月29日

新電力ネット運営事務局

物流業界の脱炭素化と中堅・中小企業のGX事例

持続可能な未来に向けて物流業界の脱炭素化は急務です。その中でも大手物流企業のGX事例は注目すべきアプローチを提供しています。今回は、脱炭素化の必要性と大手物流企業が果敢に進めるGX事例に焦点を当て、カーボンニュートラル実現へのヒントを紹介します。今回は中堅・中小企業のGX事例です。

スコープ3の開示義務化が決定、脱炭素企業がとるべき対応とはの写真

一般社団法人エネルギー情報センター

2023年11月02日

新電力ネット運営事務局

スコープ3の開示義務化が決定、脱炭素企業がとるべき対応とは

2023年6月にISSBはスコープ3の開示義務化を確定。これを受けて、日本や海外ではどのような対応を取っていくのか注目されています。最新の動向についてまとめました。

電力業界の最新動向について/新電力の撤退等はピークアウト、3割が値上げへの写真

一般社団法人エネルギー情報センター

2023年09月12日

新電力ネット運営事務局

電力業界の最新動向について/新電力の撤退等はピークアウト、3割が値上げへ

厳しい状況が続いた電力業界ですが、2023年に入り、託送料金引き上げと規制料金改定により、大手電力7社が値上げを実施。政府は電気・ガス価格の急激な上昇を軽減するための措置を実施しています。値上げを実施する新電力企業も3割ほどあり、契約停止、撤退・倒産等もピークアウトしています。

“脱炭素先行地域”に62地域が選定。地域のエネルギーマネジメント推進や課題解決のキーワードになるかの写真

一般社団法人エネルギー情報センター

2023年08月31日

新電力ネット運営事務局

“脱炭素先行地域”に62地域が選定。地域のエネルギーマネジメント推進や課題解決のキーワードになるか

2030年度目標のCO2排出量2013年度比46%減を実現するために、地方から脱炭素化の動きを加速させています。今回は、事例を交えて脱炭素先行地域の取り組みについて紹介をします。

水素エネルギーの可能性に目を向け、各国が巨額投資!?海外の最新動向についての写真

一般社団法人エネルギー情報センター

2023年07月11日

新電力ネット運営事務局

水素エネルギーの可能性に目を向け、各国が巨額投資!?海外の最新動向について

6年ぶりの改訂が注目を集めた「水素基本戦略」。同資料の中でも、各国の水素エネルギーに関する動向がまとめられていました。世界で開発競争が激化してきた水素エネルギーについて最新の海外動向をご紹介します。

 5日間でわかる 系統用蓄電池ビジネス ビジネス屋と技術屋が一緒に考える脱炭素