広範な分野において影響を与えるエネルギーデジタル化の将来予測、IEA発表(2)

2017年12月06日

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

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11月6日、国際エネルギー機関(IEA)は、デジタル化とエネルギーの相互作用に関する包括的なレポートを発表しました。このレポートは、IEAが、デジタル化がどのようにエネルギーシステムを変革していくかを分析したものです。

広範な分野において影響を与えるエネルギーデジタル化

デジタル技術は自律型自動車、インテリジェントな家庭用システム、3D印刷など、広範囲にわたって利用されています。そのため、輸送、建築物、産業分野といった、幅広い分野における最終エネルギー消費に影響を与えます。

これらのデジタル技術は、省エネなどによりエネルギー経済効率を向上させる可能性があります。また、一部はリバウンド効果により、全体のエネルギー使用量を増加させる可能性もあります。デジタル化するための難易度や潜在的な影響の大きさについては、分野によって大きく異なります(図1)。

輸送、建物、産業へのデジタル化の潜在的影響

図1 輸送、建物、産業へのデジタル化の潜在的影響 出典:IEA

輸送分野、物流のデジタル化でエネルギー使用量を20〜25%削減

輸送分野は現在、世界の最終エネルギー需要の28%、CO2排出量の23%を占めています。この輸送分野において、デジタル技術はエネルギー効率の向上とメンテナンスコストの削減に貢献します。最新の航空機には、数千ものセンサーが装備されており、平均的なフライトでほぼ1テラバイトのデータを生成します。大規模なデータ分析は、航空ルートを最適化するなど、燃料使用量を削減するのに役立ちます。大規模な船舶にはさらに多くのセンサーが装備されており、乗務員による航路の最適化をアシストします。

デジタル化による最も革新的な変化は、航空機や船舶ではなく、道路輸送に現れます。ユビキタスな接続性向上と自動化技術には、人々や物資の移動方法を根本的に変えるポテンシャルがあります。例えば、自動化される運転技術は、安全性および運転利便性を向上させることができます。

自動化や電動化が、最終的なエネルギー利用と廃棄物の総量に与える影響については、不確実な部分が多いです。輸送によるエネルギー利用量は、消費者行動、政策、技術進歩などの変化と複合的に関わるからです。幅広いシナリオが想定され、例えば自動化やライドシェアリングによる効率改善の最善のシナリオでは、現在と比較してエネルギー使用量が減少します。一方で、効率改善が実現せず、自動化により輸送機器の利用量が増えると、エネルギー使用量は増加します。IEAの中央シナリオでは、輸送分野における最終エネルギー消費は、2060年には全体消費の約半分となる165exa-joulesまで成長する見通しです。

2017年にIEAが発行した報告書「the Future of Trucks」によると、物流にデジタルソリューションを適用することで、エネルギー使用量を20〜25%削減することができます。リアルタイムな交通情報と結合されたGPS、エコ運転を向上させるモニタリングとフィードバック、データ連携による輸送ルートの効率化などにより、エネルギー削減が実現します。

建築物分野、デジタル化で建物の総エネルギー使用量が2040年に10%削減

建築物分野は、世界の最終エネルギー消費の約3分の1、世界の電力需要の約55%を占めています。建物の電力需要は過去25年間で急速に伸びており、中国やインドといった急速な経済成長を遂げている国では、建物の電力需要は過去10年間で平均8%以上増加しました。

IEAの中央シナリオでは、建物内の電力使用は、2040年に約20PWHとなり、2014年の11PWHからほぼ倍になると推定されています。また、スマートサーモスタットやスマート照明を含むデジタル化は、2017年から2040年にかけて、建物の総エネルギー使用量を10%削減できる可能性が示されています。この場合、2040年までの累積エネルギー節減量は65PWhで、20​​15年に非OECD諸国で消費される最終エネルギー総量に等しい規模となります。

産業分野、産業用ロボットや3D印刷などで効率化

産業分野は、世界の最終エネルギー消費量の約38%、総CO2排出量の24%を占めています。今後数十年にわたり、特に新興国で工業生産の継続的な拡大が予想される中、エネルギーや材料の使用効率を向上させるデジタル化の価値は高まると考えられます。

産業分野では、多くの企業がデジタル技術を使用して安全性を高め、生産増加を実現してきた長い歴史を持っています。今後は、高度なプロセス制御や、スマートセンサーとデータ解析を組み合わせることで、機器の故障などを予測しコスト効率の高い省エネルギーを実現します。

デジタル技術は、製品の製造方法にも影響を与えてきました。例えば、産業用ロボットや3D印刷などの技術は、特定の産業用途で標準的な手法になりつつあります。これらの技術は、精度の向上と産業廃棄物の削減に貢献します。産業用ロボットの仕入れについては、2015年末の約160万台から2019年末には260万台に増加していくと予想されます。

3D印刷はデジタルデータから直接レイヤーを取り込むことで、オンデマンドに製品を生産することができます。リードタイムの​​短縮、スクラップの削減、在庫コストの削減、複雑さの低減、床面積の削減、複雑な形状の製造部品の提供など、従来の製造方法と比較していくつかの利点があります。これらの利点は、適切な条件の下で、大幅なエネルギーと資源の節約をもたらします。

電力システムを根本的に変える4つの要素

エネルギーデジタル化による最も大きな変革要素の1つとして、システム全体の統合が挙げられます。それは、エネルギー部門間の境界をなくし、柔軟性を高めることで実現します。電力部門は変革の中心にあり、①デマンドレスポンス、②再生可能エネルギーの調整、③EV用スマートチャージ、④小規模分散電力といった4つの要素が相互に影響し、発展します。

①デマンドレスポンス、10億以上の家庭が電力システムに参加

デマンドレスポンスには、現在導入されているオーストラリアとイタリアの電力供給能力にほぼ等しい185GWものシステム柔軟性を提供する可能性があります。そのため、これまで必要とされていた、新しい電力インフラへの投資270億ドルを節約することができます。

居住分野では、スマートメーターと接続機器が普及することで、2040年までに10億以上の家庭が、110億以上のスマート機器が相互接続された電力システムに参加することができます(図2)。

2040年の居住分野におけるデマンドレスポンスと電力取引参加

図2 2040年の居住分野におけるデマンドレスポンスと電力取引参加 出典:IEA

②再エネ調整、発電施設の稼働率を向上

デジタル化は、再生可能エネルギーによる不安定な発電を制御することが可能です。欧州連合の場合、太陽光と風力発電の稼働停止による発電損失は、デジタル化により現在の7%から2040年には1.6%に削減されると推定されています。これにより、2040年には3000万トンの二酸化炭素排出が回避されます(図3)。

2040年における再エネ動向と発電電力抑制量

図3 2040年における再エネ動向と発電電力抑制量 出典:IEA

③EVのスマート充電、系統への負荷を軽減

電気自動車のスマート充電技術が進歩することで、系統への影響を最小限に抑えられます。例えば、電力需要が低く、供給が豊富にある時間帯に、大量の充電時間を割り当てることで、電力需要を増加させます(図4)。これにより、新たな電力インフラへの投資を削減することが期待され、2016年から2040年の間に280~1000億ドルを節約することが可能です。

EVのスマート充電技術

図4 EVのスマート充電技術 出典:IEA

④小規模分散電力、ブロックチェーン

デジタル化は、家庭用太陽光発電や蓄電池など、分散型エネルギー資源の開発を促進します。分散化によって、電力生産者は余剰電力をグリッドに容易に販売することができるようになります。この分散型電源において、ブロックチェーンといった新しい技術は、地元のエネルギーコミュニティ内におけるP2P電力取引を円滑にする役割を担います。

増加するデジタルデバイスの利用、2020年には200億台に

世界がますますデジタル化されるにつれて、情報通信技術(ICT)の需要も増加していきます。世界中のデータセンターは、2014年に約194TWhの電力を消費しました。これは、電力の総需要の約1%もの規模に達します。データセンターの作業負荷は2020年に3倍になると予測されていますが、関連するエネルギー需要は、継続的な効率向上のため3%の増加に留まると予想されています。

今後数年間で、数十億の新しいデバイスがインターネットに接続される予定です。スマートフォンの数は、2016年の38億台から2020年には60億台に増加すると予想されています。接続されたIoTデバイスの数については、2016年の約60億台から、2020年には200億台に倍増すると予測されています。電化製品のほか、衣服などの身近な製品でさえも、データを収集・処理するためエネルギーを利用するようになると考えられます。

デジタル化とサイバーセキュリティ

デジタル化は多くの利点をもたらしますが、サイバー攻撃に対して脆弱になる可能性もあります。現在までに報告されたサイバー攻撃によるエネルギーシステムの混乱は、比較的少ないです。ただ、いくつかの事例はあり、例えば2015年の西ウクライナ電力網へのサイバー攻撃があります。そのほか、2017年のランサムウェア「WannaCry」は、150カ国の何十万台ものコンピュータを攻撃しました。「WannaCry」の攻撃は、エネルギーインフラを対象としていませんでしたが、いくつかのエネルギー会社が問題を報告しています。

プライバシーについては、より詳細なデータが収集されるにつれて、消費者にとって大きな問題となります。例えば、スマートメーターで収集された家庭のエネルギー使用に関するデータを使用して、帰宅時間、お茶を作る時間などを知ることができます。一方、収集されたデータは有効活用されることで、新しいサービスの創出や、エネルギーコストの削減に寄与します。

デジタル化された機器やIoTの成長は、エネルギーシステムにおける潜在的な「サイバー攻撃」を増加させている一方で、サイバー攻撃自体は組織化が容易かつ安価になりつつあります。こうしたサイバー攻撃を完全に防止することは不可能ですが、国や企業が十分に準備することで、その影響は最小限に抑えることができます。

デジタル化と雇用

全体として、デジタル化はサプライチェーンに沿った形で、効率化につながる可能性があります。しかし、主要エンジニアリングや建設活動といった分野では、労働需要がデジタルに置き換わる可能性は低いです。一方で、反復的な身体活動や、データ収集・処理などの自動化可能な部分が多い仕事は、自動化に置き換わっていく可能性があります。

デジタル化の技術根幹を支える労働者は特殊なICTスキルが必要です。エネルギー部門全体では、多くの労働者がデジタルテクノロジーを操作するための一般的なICTスキルが必要になっていくと考えられます。また、リーダーシップ、コミュニケーション、チームワークスキルなどの補完的なスキルは、ICT対応の共同作業の機会が増えるにつれ、重要度が増していきます。

ただ、デジタル化とエネルギーシステムにおける雇用への影響は依然として不確実です。地域や部門の状況によって異なる、さまざまな要因に依存するからです。

政策と市場設計の重要性

効率的で安全かつ、デジタルで強化されたエネルギーシステムを運用するには、高度な政策と市場設計が不可欠です。例えば、衛星打ち上げは高価で、高度な技術も必要なため綿密な計画が必要ですが、温室効果ガスの排出量を確認・追跡するなどの価値を提供します。環境負荷の見える化は、例えば炭素市場などを運用する際に、炭素認証スキームの完全性を確保することが容易となり、新しい制度が運用できるポテンシャルを生み出します。温室効果ガスの排出量を確認することが可能な衛星については、2030年までにいくつか運用開始する予定があります。

そのほか、デジタル化はCCSのような、特定のクリーンエネルギー技術にも役立つ可能性があります。石油・ガス産業のデジタル化の多くは、CO2貯蔵の開発にも移行可能であると考えられます。

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