物流業界の脱炭素化と大手物流企業のGX事例

2023年11月28日

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持続可能な未来に向けて物流業界の脱炭素化は急務です。その中でも大手物流企業のGX事例は注目すべきアプローチを提供しています。今回は、脱炭素化の必要性と大手物流企業が果敢に進めるGX事例に焦点を当て、カーボンニュートラル実現へのヒントを紹介します。

物流業界の脱炭素化の動き

運輸部門のCO2(二酸化炭素)排出量は、約1.8億トンで日本全体の排出量の17.4%を占めています。政府は2030年度において二酸化炭素排出量対2013年度比35%削減を目標としており、一層の取り組み推進が求められています。

出典:国土交通省

物流の脱炭素化の施策としては主に以下のような項目があげられます。

  1. EVなどの次世代自動車の導入
  2. モーダルシフト
  3. 配送の効率化(適正化)
  4. 倉庫へのグリーンエネルギー導入
  5. 次世代燃料の活用

では物流業界の企業は実際にどのような取り組みをしているのか、大企業のGX事例をご紹介します。

物流業界の大企業の脱炭素化事例

佐川急便のモーダルシフト推進

国土交通省によると、1tの貨物を1km輸送する際のCO2排出量は、トラックと比較して列車が10分の1、船が5分の1程度とされています。トラックによる長距離貨物輸送を、大量輸送が可能でCO2排出量が少ない列車や船の輸送などに切り替えることをモーダルシフトといいます。

佐川急便では、日本貨物鉄道と共同開発した電車型特急コンテナ列車による貨物輸送に2004年から取り組んでいます。また、トヨタ輸送が運行する専用貨物列車の一部を使用した異業種合同によるモーダルシフトも実施しています。

や船の輸送などに切り替えることをモーダルシフトといいます。

中でも「飛脚JR貨物コンテナ便」は、今年2月に同社とJP貨物が開始したサービスで、輸送の一部を鉄道に切り替えることで、一運行におけるCO2排出量を80%以上削減。11月22日、日本物流団体連合会が主催する「令和5年度モーダルシフト取り組み優良事業者公表・表彰制度」において、「モーダルシフト最優良事業者賞(大賞)」を受賞しました。

出典:佐川急便

また同社では鉄道やバス、乗合タクシーなど地域の輸送事業者と連携し、営業運行中の列車やタクシーで貨物と人を同時に運ぶ貨客混載の取り組みも行っています。

三菱倉庫、輸配送単位毎のCO2排出量を可視化

三菱倉庫は、9月27日、脱炭素社会の実現に貢献するため、2050年度までに同社及び国内外各グループ会社の事業から排出されるCO2排出量を実質ゼロとする、ネットゼロを目指すことを宣言しました。

太陽光発電設備、LED照明、高効率空調機器を採用するなど倉庫設備の省エネ化や、EV小型トラックの導入といった車両を始めとする物流設備の徹底的な低炭素化を促進しています。

また、2022年6月に輸配送にともなうスコープ3の CO2排出量可視化に向けた実証実験を開始しました。脱炭素化のファーストステップとしてCO2排出量の可視化が重要ですが、物流業界の輸配送業務は物流会社や発荷主、着荷主など多くの企業が関わっているため、CO2排出量の可視化が難しい領域です。

そこで、Hacobu社が提供するオープンシステム「MOVO」を利用して、輸配送単位毎のCO2排出量の可視化に取り組んでいます。こうしたノウハウを活かして、輸送から発生するCO2排出量をシミュレーションするサービスや、自社サービスを利用することで発生するCO2排出量の実績をレポートするサービスも提供しています。

出典:三菱倉庫

次世代燃料を活用する日本郵船や日本航空

日本郵船は船舶の燃料転換に次世代燃料を活用した取り組みを行っています。次世代燃料とは、アンモニアや水素などのCO2を排出しないクリーンなエネルギーを活用した燃料のことです。

まずは低炭素化としてLNG(液化天然ガス)への燃料転換が行われています。これまで船舶では重油が燃料として使用されてきましたが、LNG(液化天然ガス)へ燃料転換することで、重油使用時と比較してCO2や、NOx(窒素酸化物)、SOx(硫黄酸化物)を大幅に削減します。2017年には世界初のLNG燃料供給船「Green Zeebrugge」を運行開始しています。

次のステップとして、アンモニア燃料の活用です。2023年5月に世界で初めて4ストロークアンモニア燃料エンジン実機で、混焼率80%の燃料アンモニアの安定燃焼に成功しました。2030年度までに船舶の低・脱炭素化に4500億円を投じる方針を掲げる同社では、2026年度にはアンモニア輸送船が竣工する計画となっています。

日本航空はSAF燃料を活用した取り組みを行っています。SAF(Sustainable Aviation Fuel)燃料とは、持続可能な航空燃料のことです。従来の石油を元にするではなく、主に植物などの有機物を原料として人工的に作り出すという取り組みです。

同社では「2030年に全燃料搭載量の10%をSAFに置き換える」という目標を掲げ、官民で連携し、国内外のステークホルダーと 協働してSAFの商業化に取り組んでいます。

出典:日本郵船

まとめ

運輸・物流部門の脱炭素化は、関わるプレイヤーが多いため、CO2排出量の可視化というステップにおいても複雑であり、それを解決するためのDXの取り組みが重要です。また、次世代自動車や次世代燃料の普及促進やモーダルシフトなどを含めた総合的な取組みが不可欠です。

国際航空・外航海運などにおいては、国別目標によらない国際的な動向を踏まえた国際的な視点での取組みも重要といえるのではないでしょうか。次回は物流業界の中小企業の取り組みについてご紹介します。

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