いよいよ来年4月スタート!FIP制度とアグリゲーションビジネスの広がり
政策/動向 | 再エネ | IT | モビリティ | 技術/サービス | 金融 |
2021年12月30日
一般社団法人エネルギー情報センター
2021年も年の瀬となりましたが、来年の電力業界の大きな動きとして、2022年4月からFIP制度及び、アグリゲーターライセンス制度のスタートがあります。そこで今回は、FIP制度の概要や期待されるアグリゲーションビジネスの事例、新しい動きについてご紹介します。
FIP制度導入の背景と制度概要
日本では、再生可能エネルギー(再エネ)は、2012年に「固定価格買取(FIT)制度」が導入されてから、加速度的に導入が進んできました。一方で、FIT制度導入によりさまざまな課題も出てきました。ひとつは電気を国民(需要家)が負担する「賦課金」です。資源エネルギー庁によると2021年度の見込みでは総額2.7兆円におよんでいます。今後も再エネの導入を促進しつつ、費用は抑制する必要があるとして、FIT制度の見直しに政府が着手しました。
そして、2020年6月に成立した「エネルギー供給強靭化法」に改正FIT法が盛り込まれました。「再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法(再エネ促進法)」に法令名が改題されました。
法改正のポイントは以下の通りです。(ご参考:https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/FIP_index.html)
- 市場連動型(FIP制度)の導入
- 再生可能エネルギーポテンシャルを活かす系統増強
- 再生可能エネルギー発電設備の適切な廃棄
- 認定失効制度
- アグリゲーターライセンス導入
中でも注目すべきは、「市場連動型(FIP制度)の導入」です。
FIT制度は、固定価格買取制度であり、電力市場からは切り離された制度です。そのため再エネ発電事業者はいつ発電しても同じ金額で買い取ってもらえるため、電気の需要と供給のバランスをあまり意識する必要はありませんでした。
対して、FIP制度とは「フィードインプレミアム(Feed-in Premium)」の略称です。卸市場などにおいて市場価格で売電したとき、その価格に対して一定のプレミアム(補助額)を上乗せする制度です。再エネの導入が進む欧州などでは、すでに取り入れられています。
FIP制度においては、再エネ発電事業者はプレミアムをもらうことによって再エネへ投資するインセンティブが確保されます。さらに、電力の需要と供給のバランスに応じて変動する市場価格を意識しながら発電し、蓄電池の活用などにより市場価格が高いときに売電する工夫をすることで、より収益を拡大できるというメリットがあります。
ちなみに、以下のように今後はFITとFIPの2つの制度が併存することになります。
既存FIT
新規認定FIP
太陽光や中小水力などの電源種別によって、一定規模以上については、新規認定でFIP制度のみが認められます。
新規認定FIT
新規認定でFIT制度が認められる対象についても、50kW以上は事業者が希望する場合、FIP制度による新規認定を選択できます。
既存FITからFIPへの移行
すでにFIT認定を受けている電源についても、50kW以上は事業者が希望する場合、FIP制度に移行が可能です。
地域活用電源
一定規模未満の電源については、FIT制度の骨格を維持した地域活用電源が適用されます。
将来的には今回のような移行のステップを経て、再エネを自立的な電源にし、電力市場に統合していくと考えられています。
FIP制度導入で注目されるアグリゲーションビジネス
さて、再エネの自立化へのステップとして、FIP制度には、プレミアムの上乗せやバランシングコストなどの手当ても考慮されています。これらをインセンティブにして、再エネ発電事業者にとどまらず、新たなビジネスの創出やさらなる再エネ導入が進むことが期待されています。その一つとして「アグリゲーションビジネス」があげられます。
政府の打ち出した『グリーン成長戦略』の12番目の項目にあります「次世代電力マネジメント産業」では、「再エネ大量導入や系統混雑問題等への効果的な対応には、デジタル技術を活用した、高度な電力マネジメントの予測・運用・制御手法のビジネス活用・展開を後押しすることが重要。特に、データ利活用技術の高度化により、変動再エネ、蓄電や需要側リソース等の分散型エネルギーリソースの価値を集約し、デジタル制御と市場取引等で活用するアグリゲーションビジネスを推進。」という記載があります。(ご参考:https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210618005/20210618005-4.pdf)
矢野経済研究所のマーケットレポート『2019 エネルギーリソースアグリゲーションビジネスの現状と将来展望』によると、エネルギーリソースアグリゲーション事業の市場規模は現在の約44億円から、2030年には約730億円まで拡大すると予想されています。
では、アグリゲーションビジネスとはどういったイメージなのかもう少し詳しくみていきます。
FIP制度を活用すると、電力市場取引では、再エネ発電事業者が発電量の変動によるインバランスリスクと市場での価格変動などのマーケットリスクを管理して、収益を確保するといったニーズが顕在化します。
インバランスリスクとは、計画値と実績値の差(インバランス)が出た場合には、再エネ発電事業者は、その差を埋めるための費用を払うペナルティがあり、そのリスクの総称です。
実際の収益確保のためには、複数の小規模再エネ発電事業者による再エネ電源を束ね、電力市場における最適な売電計画を実行する「再エネアグリゲーター」の役割が不可欠となります。
しかしアグリゲーターにとって、天候に左右されやすい再エネ発電量と電力需給バランスに左右される市場価格の双方を考慮した上で、インバランスを回避し収益を確保する複雑な市場取引を直感や経験に基づき行うことは非常に困難と言われています。そこで、再エネ発電量の高精度な予測技術とインバランスを回避し収益を確保するための最適な戦略的取引を実現するAI技術が必要とされています。
そのサービスとして例えば、12月15日に東芝は、再エネアグリゲーション向けに電力市場取引における事業者の戦略的取引を支援する「電力市場取引戦略AI」を開発したと発表しました。
本AIは、太陽光や風力などの再エネ電源を束ねて電力市場で取り引きする再エネアグリゲーターに対して、電力の需要量と供給量の差分であるインバランスの発生を回避し、併せて市場取引による収益確保を目指した戦略的取引の意思決定を支援するというものです。東芝によると、「従来は困難だったリスクを考慮した取引戦略の提⽰に成功」したということです。
また、本AIは、経済産業省の再エネアグリゲーション実証事業において、12月1日から開始した実証実験で活用されているということです。ではここで、経済産業省の最新の実証事業の内容をさらに2つご紹介します。
実証事業の事例紹介
①分散型エネルギーリソースの更なる活用に向けた実証事業
エナリスは、今後さらなる普及拡大が見込まれる家庭用蓄電池をはじめとする低圧リソース(家庭用蓄電池約4,400台、エネファーム約3,600台や電気自動車(EV)約80台など)を中心とした実証事業を16社と協力して実施しています。
昨年度の実証から、以下のような課題が見えていました。
- 太陽光発電併設により負荷が変動しやすくこれを予測することが難しいこ
- 通信機器・通信コストの比重が大きいこと
- 経済的メリットを出すためのさらなる工夫が必要であること
そこで今年度は、これらの課題を解消し、実サービスにつなげるために必要な予測技術や制御技術の向上、仕組みの見直しなどに取り組むとしています。また、上記課題解決のための独自実証の1つとして、次世代技術である「5G+MEC (Multi-access Edge Computing)」を用いた高速フィードバック制御の検証も行っています。
②ダイナミックプライシングによる電動車の充電シフト実証事業
三菱自動車とMCリテールエナジーは、9月に「ダイナミックプライシングによる電動車の充電シフト実証事業」のモニター募集を開始しました。
当実証事業は、将来のEV普及拡大による充電時間の集中に起因する電力への負荷増大回避を目的としたものです。実証事業では、日本卸電力取引所(JEPX)の電力量単価で最も安い時間帯の連続する4時間をEV等への充電無料時間として設定し、モニターへ通知。モニターは案内を受けてEV等への充電を開始します。一定期間経過後、アンケート調査を実施するという内容です。
この続きを読むには会員登録(無料)が必要です。
無料会員になると閲覧することができる情報はこちらです
執筆者情報
一般社団法人エネルギー情報センター
EICは、①エネルギーに関する正しい情報を客観的にわかりやすく広くつたえること②ICTとエネルギーを融合させた新たなビジネスを創造すること、に関わる活動を通じて、安定したエネルギーの供給の一助になることを目的として設立された新電力ネットの運営団体。
企業・団体名 | 一般社団法人エネルギー情報センター |
---|---|
所在地 | 東京都新宿区新宿2丁目9−22 多摩川新宿ビル3F |
電話番号 | 03-6411-0859 |
会社HP | http://eic-jp.org/ |
サービス・メディア等 | https://www.facebook.com/eicjp
https://twitter.com/EICNET |
関連する記事はこちら
一般社団法人エネルギー情報センター
2024年09月27日
太陽光発電は、再生可能エネルギーの代表的な存在として世界中で注目を集めています。その中でも、シリコン太陽電池に次ぐ次世代のエネルギー技術として「ペロブスカイト太陽電池」が大きな注目を集めています。ペロブスカイト太陽電池は、軽量で柔軟性があり、従来の太陽電池では難しかった場所での活用が期待されていることから、多様な分野での普及が期待されています。 2024年度には福島県内での実証実験が予定され、日本国内でも本格的な導入に向けた動きが始まっています。注目が集まるペロブスカイト太陽電池について、2回に渡りお伝えします。第1回目では、ペロブスカイト太陽電池の基本的な特徴やメリット、そしてシリコン太陽電池との違いについて、詳しく解説していきます。
一般社団法人エネルギー情報センター
2024年08月28日
2024年度の出力制御②優先給電ルールにおける新たな施策について
再生可能エネルギー(再エネ)の導入拡大が進み、導入量が増えた結果、 電力需要が低い時期には「発電量過多」になり、全国的に 出力制御 が行われるようになってきました。この出力制御について、2回に渡りお伝えしています。 1回目はそもそも出力制御とは何か、増加している要因、過去の事例についてお伝えしました。今回は、経済産業省・資源エネルギー庁が優先給電ルールに基づく新たな施策を公表したので、その内容をご紹介します。
一般社団法人エネルギー情報センター
2024年07月18日
太陽光ケーブル窃盗が再エネ普及を脅かす②ー盗難対策の重要性と太陽光ケーブル盗難から事業者を守るサービスや商品についてー
太陽光発電施設から銅線が盗まれる事件が後を絶ちません。銅相場が高止まりし、売却狙いの犯罪が再生可能エネルギーの産業を脅かしています。1回目は太陽光発電設備が狙われる理由と自衛についてをお伝えしました。2回目は盗難対策の重要性と太陽光ケーブル盗難から事業者を守るサービスや商品についてお届けします。
一般社団法人エネルギー情報センター
2024年06月13日
太陽光ケーブル窃盗が再エネ普及を脅かす①ー犯罪が増え続ける背景と自衛についてー
太陽光発電施設から銅線が盗まれる事件が後を絶ちません。銅相場が高止まりし、売却狙いの犯罪が再生可能エネルギーの産業を脅かしています。第2回にわたり銅窃盗の再生エネルギー戦略への影響と各企業の防止策についてご紹介します。1回目は太陽光発電設備が狙われる理由と自衛について、2回目は太陽光ケーブル盗難から事業者を守るサービスや商品についてお届けします。
一般社団法人エネルギー情報センター
2024年04月06日
次世代太陽光発電「ペロブスカイト太陽電池」、国内外の最新動向と日本の戦略
今回は、ペロブスカイト太陽電池市場の規模拡大や国内の導入事例、海外の動向、そして今後の日本の戦略について紹介します。