Amazonが国内最大規模の再生可能エネルギー電力調達契約を締結。コーポレートPPAが国内でも活発に。

2021年09月17日

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

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企業が発電事業者との長期契約に基づき、再エネ由来の電力を直接調達する「コーポレートPPA」が世界で広がっています。これまで、アメリカの大手IT企業中心に導入が進み、再生エネ普及を後押ししてきました。2021年9月8日、その代表格であるAmazon社が日本で大規模な太陽光発電の直接契約を行いました。今回は、コーポレートPPAに注目して、世界そして国内の動向をまとめていきます。

世界で広がるコーポレートPPAとは

再生可能エネルギープラントの効率性向上による稼働時間が増大したことや、再エネ由来の電力コストが低下したことで、電力卸売市場の激しい価格変動に対するリスクヘッジとして、企業が固定価格のクリーンエネルギー長期購入契約を結ぶ、という方法が欧米を中心に広まりました。

調査会社ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス(BNEF)によると、全世界の企業による、再生可能エネルギー(クリーンエネルギー)の新規契約規模は、2018年の13.6GW、2019年の20.1GWからさらに伸び、2020年に23.7GWとなっています。これは2015年比の5倍の数字で、記録的な調達量です。(図参照)

世界のコーポレートPPA(オフサイト型)の導入容量推移 出典:BNEF

この流れを牽引してきたのは、アメリカのテック・ジャイアントと呼ばれる巨大IT企業です。その中でも現在、コーポレートPPAで世界最大の買い手となっているのが、米アマゾン・ドット・コムです。日本経済新聞によると、2020年に新たに500万キロワットの調達契約を結び、世界200カ所強、計960万キロワットの再エネ発電所からデータセンターなどに電力を買っている(2021年6月時点)ということです。というのも、アマゾンは使用する電力の全てを2025年までに再生可能エネルギーで賄うという目標を掲げており、その動きを加速させているためです。

そこで、日本での動きとして三菱商事と組み、コーポレートPPAを使って、今後、首都圏と東北のおよそ450カ所に太陽光発電所を整備します。発電容量は一般家庭5600世帯の年間使用量に相当するおよそ2万2000キロワットで、来年から順次稼働する見通しです。大量の電力を必要とするデータセンターなどに10年間にわたり供給します。

PPAとはパワー・パーチェス・アグリーメント=電力購入契約のことです。コーポレートPPAには、オンサイトとオフサイトという方法があります。「オンサイトPPA」は、現地で発電した電力を需要家に供給するというものです。需要家が発電事業者に建物の屋根などのスペースを提供し、発電事業者が発電設備の設置と運用・保守を実施します。初期費用や保守費用が不要な点がメリットです。

一方、「オフサイトPPA」は、企業などの敷地外に再生可能エネルギー発電設備を建設し、送配電ネットワークを経由して電力を供給することをいいます。設置スペースが自社にない企業や、使用電力の100%を再生可能エネルギー電力にするという目標を掲げる企業がさらなる再生可能エネルギー電力推進をするために利用されます。

オフサイトPPAとオンサイトPPAの比較 出典:セブン&アイ・ホールディングス プレスリリース

今回の発電事業者とは太陽光発電大手のウエストホールディングス(HD)のことを指します。実際に設備投資をするのは土地の持ち主で、ウエストHDに設置費用を払い、アマゾンへの10年間の売電料金でその投資費用を回収します。

三菱商事の役割は開発を主導し、変動電源である太陽光発電の発電量を天候予測も加えて予測しながら、電気を集約する全体の仕組みづくりを担います。子会社の電力小売事業 MCリテールエナジーを通じてアマゾンのデータセンターや物流拠点、オフィスなどに供給します。今回のプロジェクトは、コーポレートPPAを活用した集約型太陽光発電として、日本で最大規模となります。ちなみに三菱商事はアマゾン向け2件目のコーポレートPPAとなっており、子会社のENECO社(オランダ)を通じた洋上風力で欧州向け施設に電力を供給します。

コーポレートPPAのメリット

ここで、発電事業者、企業(需要家)それぞれのコーポレートPPAによるメリットを整理していきます。

まず、発電事業者は、長期顧客を確保した上で、発電設備に投資できるというメリットがあります。従来は、固定価格買取制度(FIT)制度を使って電力会社に再エネを販売するのが主流でしたが、FIT価格が低下して魅力が減った今、コーポレートPPAによる長期相対契約の魅力が高まっています。当初1キロワット時40円前後に設定された太陽光発電のFIT価格が、足元では10円程度まで低下しています。資源エネルギー庁の資料によると国内の太陽光発電コストは1キロワット時あたり13.1円(2019年実績)となっています。発電事業者にとってFITのうまみが薄れたことが、国内でコーポレートPPAの普及が見込まれる一因となっているといえます。

次に、企業(需要家)がコーポレートPPAを選択するメリットは、再生エネ発電の新設を直接促せるためです。既存の再生エネ電源に頼らず、新たにつくればより広く早く世界の脱炭素に貢献ことができます。アマゾンのような巨大企業が既存の再生エネを大量取得し、地域の再生エネを奪ってしまうという事態も避けることができます。

国内企業の導入の動きも活発に

このような動きを背景に、国内でもコーポレートPPAの動きが出始めています。

流通大手のセブン&アイ・ホールディングスが、太陽光の発電所を整備したNTTグループとの間で、20年間の電力供給の契約を結ぶことを発表しました。(2021年3月31日)千葉市にある「千葉若葉太陽光発電所」が今後20年間、首都圏にあるセブンイレブン40店舗に電力を供給します。

設置された太陽光パネルは約1900枚で、6月1日に稼働しました。一般家庭の200~300世帯分の使用量に相当する年間886メガワット時の発電を想定しています。これにより、年間2500トンの二酸化炭素(CO2)の排出を削減できるといいます。40店舗の電力をまかなえない場合は、NTTグループの他の再エネ発電所からの電力で補います。

事業概要イメージ 出典:セブン&アイホールディングス プレスリリース

他にも、スーパーマーケットやホームセンターなどを展開するバローホールディングス(HD)は、2021年度に系列のホームセンターを主体とする50施設に、屋根置きの太陽光発電システムを導入します。新電力であるアイ・グリッド・ソリューションズの子会社VPPジャパンが太陽光パネルを無償設置します。屋根に設けるパネルの出力は計1万5000キロワットで、対象となる施設の電力消費の約3割を賄う計画です。

また、搬送用機器製造のホクショーは主力の白山工場で電力使用量の3分の1を賄える太陽光発電システムの運転を始めました。オリックスが同工場の屋根にパネルを設置し、電力をホクショーに販売する形式を取ります。

最後に、食品トレー最大手のエフピコは、工場への太陽光発電設備の導入を本格的に進める。2023年3月末までに複数の製造拠点にパネルを設置し、国内のリサイクル工場で使用している電力相当量(年間約650万キロワット時)を太陽光発電で賄うということです。

さらに日本で導入をすすめていくためには

こうした動きが活発になった背景には、資源エネルギー庁が3月に「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」を開催し、需要家が直接、再生可能エネルギーを調達できる「オフサイト型コーポレートPPA」に関して、容認する方向性を示したことにあります。

これは、内閣府主導の「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」にてRE100参加企業などから「再エネ市場の活性化に向け、需要家が直接再エネ調達に参画できるオフサイト型コーポレートPPAを可能とする環境整備」を求められていたことを受けて、「需要家による再エネ活用推進のための環境整備」として論点をまとめたものをさらに検討した結論になります。

そこでは、「公平性・公正性・需要家保護を確保するため、自己託送制度に関し、以下の要件をいずれも満たすものについて、いわゆる「オフサイト型PPA」を可能とする方向性としてはどうか。」と定義されています。

① FIT又はFIP制度の適用を受けない電源による電気の取引であること
② 需要家の要請により、当該需要家の需要に応ずるための専用電源として新設する脱炭素電源による電気の取引であること
③ 組合の定款等により電気料金の決定方法が明らかになっているなど、需要家の利益を阻害するおそれがないことがないと認められる組合型の電気の取引であること

一方で、前頁の方向性で検討していくに当たり、更に下記のような課題への対応も必要とされています。

事業規律の確保

FIT/FIP制度の下では、柵塀等の設置や標識の提示、地域住民との適切なコミュニケーション努力、太陽光発電設備の廃棄等費用の確保などが求められている。新たな自己託送スキームの導入に当たり、こうした課題も含め、事業の適切性をどのように担保していくか。

小規模電源の全体像の把握

今後はFIT/FIP制度に依存しない小規模分散型電源の増加が見込まれるところ、こうした電源設置者は極めて多様な者となっていくことにも鑑みつつ、保安、セキュリティ、安定供給の確保、更には再生可能エネルギーの導入実態の把握の観点から、日本の電源構成の全体像や実態をどのように把握していくか。

また、賦課金の負担の在り方についても引き続き検討がされています。「再生可能エネルギー発電促進賦課金」とは、「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」によって電力会社等が買取りに要した費用を、電気の使用量に応じて、電気料金の一部として、電気の使用者に負担してもらうものです。しかし、自家消費や自己託送により使用された電気は、これに該当しないため、現行制度では賦課金を徴収する対象となっていません。

そこで、「需要家が電気の供給を受けるという点には差異がないにも関わらず、ある需要家は賦課金を負担し、別の需要家は賦課金を逃れる、というような不公平な状態を生じさせるようなことは避けるべきではないか。」という点で議論がされています。

そのため、「まずは、現行制度の下で、再エネ発電事業者による需要家への直接供給の取組みを進めつつ、こうした新たな形態による取引の広がりや実態、ニーズを把握しつつ、必要に応じ、賦課金の負担の在り方については、関係審議会で検討していく」としています。

さらに日本でコーポレートPPA導入を推し進めるためには、こうした検討を重ねていく必要がありそうです。

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