家庭向け蓄電池市場の広がり、海外勢やサブスク型とメーカー・販売方法も多様にvol.2

2021年09月06日

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

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2009年からはじまった余剰電力買取制度が10年を迎え、2019年には53万件、2023年までに計165万件が制度対象外になると資源エネルギー庁が公表しています。前回は、国内の蓄電池市場の状況を整理しました。今回は、家庭用蓄電池の今後について、価格、販売モデル、システムといった3つの観点から諸外国の事例や企業のサービス事例を参考にしながら考えていきます。

課題と今後の家庭用蓄電池の普及に向けたプラン①価格水準を下げる

現在は着実に成長を遂げてきた家庭用蓄電池市場ですが、中長期的な市場拡大が見通せないため、なかなか価格が下がらないといった現状もあります。資源エネルギー庁の資料によると、家庭用蓄電システムのメーカー側の課題として、「市場が成長するか、予見性が乏しいため新規投資に踏み切れない」、「現状の市場規模では製造原価を下げる余地が小さい」といった課題が上げられています。

vol.1でも述べた通り、家庭向け蓄電池の設置費用の相場は、本体プラス工事費で、約80〜200万円といわれています(容量などによっても異なる)。ユーザー側から見ても、15年前後の運用をしても、初期費用を償却できない可能性が高いとなると、費用対効果を考えざる得ません。

ちなみに、現在の価格面の国際比較は以下の通りとなっています。(図の赤枠参照)
アメリカのカリフォルニア州が7.9万円/kWhと最も安く、日本はドイツと同水準で国際的にみて高い水準と言えます。

定置用蓄電システム市場概要の国際比較 出典:資源エネルギー庁

そこで資源エネルギー庁では、太陽光の自家消費により得られる収益について様々な前提をおき試算したところ、2030年度を目標に、工事費も含めたエンドユーザー購入価格(税抜)を7万円/kWh以下とするとしています。(図参照)

家庭用蓄電システムのストレージパリティの達成に向けた価格水準の考え方 出典:資源エネルギー庁

現在(2019年度)は、18.7万円/kWhであることを考えると大幅なプライスダウンとなります。
この設定金額は、自家消費により得られる収益で投資回収できる価格水準である『ストレージパリティ』の達成に向けた価格水準ということです。つまり、蓄電池を導入しないよりも、蓄電池を導入したほうが、経済的メリットがある状態といえます。

メーカーへのアンケートでも、2030年度の目標価格として「7万円/kWhは達成し得る水準である」との回答もあったといいます。ストレージパリティの達成が行えれば、ユーザーにはメリットがわかりやすく、市場がさらに拡大していくことが予想されます。

一方、価格面の施策として補助金制度の活用も考えられます。

例えば東京都では、家庭用蓄電池の導入に関する補助金について、2021年度分の受付を4月1日から開始しました。補助率は機器費の2分の1、補助上限額は蓄電容量1kWhにつき7万円で、1戸につき上限は42万円となっています。条件としては、以下の3点をあげています。

  1. 未使用の蓄電システムを、都内の住宅に新規設置すること
  2. 太陽光発電システムを同時設置するか既に設置していること
  3. 家庭の太陽光発電等の電力データ、再エネ電力の自家消費に伴う環境価値等が提供可能であること

ここで、ドイツの事例を参考にしてみます。補助金の条件として、以下をあげています。

  1. 系統への逆潮流(余剰電力が送電網へ流れること)率の上限
  2. 最低自家消費率
  3. 導入した蓄電システムに充放電制御機能を持つこと(を要求する)

例えば、ザクセン・アンハルト州の「PV新設又は拡張に伴う蓄電システム導入に対する補助金の概要」は以下の通りです。

  1. 補助金額:導入費用の30%(最大5,000EUR)
  2. 条件:1年間の自家消費率最低50%
  3. 保証:10年
  4. PVと蓄電システムの容量比率=1.2kWp:1kWh、最大30kWp

東京都が「再エネ電力の自家消費に伴う環境価値等が提供可能であること」という
条件に対して、ドイツは、「1年間の自家消費率」に数値基準を設けており、自家消費率の最大化を促す工夫といえます。

課題と今後の家庭用蓄電池の普及に向けたプラン②販売方法を多様化する

家庭に導入する際の蓄電システムの認知度がまだ低く、高額商品でもあるため、日本では、一般的に訪問販売等の対面販売が基本となっています。ただ、それでは営業コストがかかってしまうことや、訪問販売ではマジョリティ層や、若い世代へのリーチが出来ていないという課題があります。そこで、テスラのようなEコマースの活用や、PPA/TPOモデルの活用等、新たな販売方法の確立が検討されています。

PPA (Power Purchase Agreement)とは、需要家と発電事業者の間で締結する、電力購入契約のことです。 需要家の屋根の上に第三者が太陽光発電設備を設置し、電力を供給することから第三者所有モデル(TPO :Third Party Ownership)とも呼ばれます。需要家のイニシャル負担なく太陽光発電ならびに蓄電システムの導入が可能です。これまでのローン調達による売切りモデルではリーチできなかったユーザーへの普及も期待されています。

PPA/TPOモデルは、2010年代前半に米ソーラーシティ社が活用し、住宅の太陽光発電普及を牽引しました。「初期費用なし、電気料金の削減」を売りにシェアを伸ばしました。太陽光発電からの電力を、従来の電力会社の電気料金単価より低い価格で提供することで、必ずしも環境問題に関心の高くない一般的な住宅居住者に対しも、太陽光発電の導入を促しました。

国内の家庭向け蓄電池でも、すでにPPA/TPOモデルがサービス化されています。例えば、2021年5月16日、シャープエネルギーソリューションは新しいPPAサービス「COCORO POWER(ココロパワー)」を発表しました。新築住宅に無償で太陽光発電や蓄電池を設置し、初期費用ゼロで太陽光発電システムと蓄電池をセットで設置し、これらを全国一律で月額税込1万3860円で使用できます。契約は14年で、その間ずっと定額です。期間終了後、システムは家庭に無償譲渡します。

蓄電池の充放電の制御は、シャープのクラウドHEMSサービス「COCORO ENERGY」で行います。AIが季節や天気予報などから予測した余剰電力量に応じて、夜間の系統電力からの充電量を制御し、効率よく自家消費することが可能です。さらに、台風などの気象警報が発令された際に、自動で満充電にする機能もあり、停電時に使用できる機器の合計の負荷容量は最大で2kVAということです。

他にも、8月12日に伊藤忠と東京センチュリーが出資して設立した新会社、株式会社IBeeT(アイビート)では、伊藤忠が独自ブランドで販売している家庭用蓄電池「スマートスター」をサブスクリプション型で使えるにようにします。初期費用のハードルを下げ、導入を後押しする狙いです。

こちらもAIで家庭の電気の利用状況を分析して蓄電や放電を効率化することが可能です。小型の「スマートスターL」は通常購入すると税別293万円(希望小売価格)ということですが、サブスクの場合は初期費用が無料で、利用料金は月1万円台後半になる見通しです。保守サービスや製品保証、AIのソフトウエアなどもまとめて提供します。契約は15年で、期間終了後、蓄電池は家庭に無償譲渡します。アイビートは、6月末時点で累計4万5000台を販売しており、2025年頃にサブスク型も含めて年間6万台規模の販売を目指すということです。

売り切りではなく、サブスク型のため企業が機器の所有権を持ちます。企業としてはユーザーの電力使用量などデータを利用しやすくなるというメリットもあります。伊藤忠では、利用者の同意を得た上で、データをもとに相互に電力を融通するなど新たな仕組みをつくるということです。

課題と今後の家庭用蓄電池の普及に向けたプラン③蓄電システムとしての利用促進方法の開発

前述の価格の部分でも触れましたが、ユーザーに自家消費を促すための工夫には、まだまだ余地がありそうです。電力需給状況のシグナルを需要家に提供する仕組みや、DRと組み合わせた販売、TOU(時間帯別料金)プランの開発など、蓄電システムとしての利用促進方法の開発とその事例を増やしていくことが必要です。

海外事例を見ると、オーストラリアの多くの小売事業者は、kWhあたり定額プランとTOU料金プランの両方を提供しており、需要家はどちらかを選択することが可能となっています。ピーク、オフピーク時の価格差は約11AUcent/kWh(約8.3円)程度です。オーストラリアはまだ蓄電池のストレージパリティを達成してはいないため、現在は補助金が主な導入ドライバーとなっていますが、FIT買取価格が急激に低下していることから、今後TOU料金を利用した電気代削減目的での蓄電システム導入も加速する見込みです。

他方、ドイツのSonnen社は、蓄電システムユーザーに対しては通常の電気料金よりも大幅に低い定額料金で電力供給を行う 「Sonnen Flat」というサービスを展開しています。また、ユーザー保有の蓄電システムを束ねたVPPを構築し、需給調整市場にて一次周波数調整力も提供しています。

同社の主力製品であるSonnen Batterie eco(10kWh)の価格は、設置費なしで12,759EUR(約15.7万円/ kWh)と決して安価ではないが、ユーザーは「Sonnen Flat」に加入することで、従来の電気料金を大幅に抑えることができるといいます。その他、同社製品を持つ他のユーザーと余剰電力を融通して自家消費率を高めるサービスなどもあり、多方面での導入メリットを訴求することによりユーザーの関心を引き付けています。

このような仕組み化をすでにしている国内企業事例もあります。例えば、東芝エネルギーシステムズ(神奈川県川崎市)の「低圧VPP(バーチャルパワープラント)プラットフォーム」があります。7月26日に小売電気事業者向けに、サービスの提供を開始しました。

同サービスでは、太陽光発電システムなどを保有する複数の一般家庭に配置された数多くの蓄電池を束ねて、高度な「群制御」を行うことが可能です。複数のHEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)ベンダーに対応しているため、小売電気事業者に広い選択肢を提供できる点が特徴です。さらに、環境価値取引や、容量市場対応等のオプションサービスを追加することが可能だといいます。

最後に、「定置用蓄電システム普及拡大検討会」による資料を参照すると、家庭用蓄電池システムを活用してビジネスを実施する事業の2030年に要求する価格水準はエンドユーザー購入価格(税抜)で約3万円/kWhとのことで、より一層の低価格化が期待されています。今後は、蓄電池単体の単価を下げるだけではなく、発電と蓄電・自家消費といったシステム全体として、より一層ユーザーがコストメリットを感じられる仕組みが必要と言えるのはないでしょうか。

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