スマートメーター普及で広がる、エネルギーデータ活用戦略を考えるvol.2

2021年07月22日

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

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2014年から設置がはじまり、2024年までに全国に取り付けられる予定となっているスマートメーター。通称「スマメ」が普及することで、電力データの活用が国内でも本格化してきました。前回は、次世代スマートメーターについて、多様な業種・業態に広がる電力データの活用の国内企業事例についてご紹介しました。今回は、アメリカの事例をご紹介し、さらにエネルギーデータ活用戦略について考えます。

アメリカでは2008年のリーマンショック後の景気刺激策として制定された「2009年米国再生再投資法」に基づくスマートグリッド支援策を契機に、エネルギー省が全米各地でスマートメーター導入プログラムを推進しました。これによりスマートメーターやスマートグリッド設備から集められる大量のデータの活用を促進する事業が活発になりました。

そのうちの1つが、テキサス州オースティン市の中心地から数キロメートルの距離にある空港跡地を対象地域とする「ピーカンストリート・スマートグリッド実証プロジェクト」です。

スマートメーター及びHEMSの活用で、低炭素で効率的な電気利用が実現したピーカン・ストリート・プロジェクトとは?

ピーカン・ストリート・プロジェクトは、オースティン市(オースティン・エネルギー)、テキサス大学オースティン校および民間企業(Dell、Intel、LG、ソニーなど)の産官学連携をコーディネートする非営利組織「ピーカン・ストリート(Pecan Street Inc.)」が、プログラムの運営主体となっています。

ピーカン・ストリートがこれまで手がけた事業には、ソーラーパネルの方向を変化させてピーク時間帯の負荷に合わせる方法の研究や、個人住宅および集合住宅を対象としたエネルギー監視および管理実験、さらにゼネラル・モーターの電気自動車「ボルト」とスマート充電APIに準拠した住宅の統合実験などがあります。

「ピーカンストリート・スマートグリッド実証プロジェクト」は、一般住宅1000戸と小規模商業施設25カ所、公立学校3校を対象に実証実験を行いました。2010年~2015年に実施された実験では電力、ガス、水道を包括的に管理する「Energy Internet」の構築と、地域コミュニティ「Mueller」の住民による積極的な参加がテーマとなりました。

対象地域の全住宅にスマートメーターと高度メーターインフラストラクチャを設置し、生成されるエネルギーデータを集約・蓄積します。HEMS(家庭用エネルギー管理システム)でエネルギー使用状況を把握し、高度分析ツールで需要を予測・可視化する仕組みが導入されました。スマートメーターは、太陽光発電システムやEVおよび蓄電機能と統合されており、余剰電力の売買も可能です。

実証実験の結果、エアコン機能に関しては、オースティン市内の一般的な既設住宅と比較して、38%の電力使用量が削減され、低炭素で効率的な電気利用が実現されました。その後2016年のピーカンストリート・プロジェクトは米国内17州、住民1300人の規模まで拡大し、2000以上のセンサー/モニタリング機器から生成されるビッグデータを日々収集・分析しています。

ピーカン・ストリートは、2010年の設立以来、これらのスマートグリッドから集めた数十億というデータを含むプラットフォーム「ウィキエネルギー(WikiEnergy)」を開放しています。データストアーとなるウィキエネルギーの非営利目的の研究利用を模索しています。ウィキエネルギーの参加者には、「データを検証し、データに意義をもたらす」義務が課せられています。プラットフォームは無料で提供されますが、開示対象は大学や非営利研究機関の職員または学生に限定されています。

ピーカンストリート・スマートグリッド実証プロジェクトの全体イメージ 出典:Pecan Street Project「Introducing Pecan Street Project」

では、次に連邦政府主体で取り組まれた「グリーン・ボタン」についてご紹介します。

アメリカのオープンガバメント/オープンデータ施策「グリーンボタン」とは

米エネルギー省は、先述の景気刺激策と同時並行で、オープンガバメント/オープンデータ施策を推進してきました。2011年9月に発表された「第1次オープンガバメント国家行動計画」で、エネルギー分野が重点領域に掲げられたのを受けてエネルギー省は、「グリーンボタン」を開発しました。

「グリーンボタン」とはエネルギー等の使用量や請求書のデータを共通のフォーマットで消費者に提供するものです。一般市民が電力消費データを簡単・安全にダウンロードでき、そのデータを活用することが可能なインタフェースです。

北米エネルギー規格委員会(NAESB)の規格をベースに業界標準のデータ形式が策定され、2012年1月にはカリフォルニア州の大手2社により最初のグリーンボタンの提供が始まりました。

グリーンボタンの導入により、ユーザーは各社のサイトから自分のエネルギーや水道の使用量等のデータをダウンロードできるようになりました。これによりデータを得られることに加えて、データを活かしたアプリケーションやサービスが開発されることが期待されています。サードパーティが提供するエネルギー使用の可視化や家庭内の機器の状況の監視、太陽光パネルの検討と推奨サービスなどを通じて、消費者の省エネへの取り組みが強化され、グリーンエネルギー導入の機会拡大が進んでいくとされています。

エネルギー省によれば、これまでに150を超える事業者がグリーンボタン・イニシアチブに参加し、6,000万を超える世帯や企業がデータにアクセスして利用が可能となっています。(2019年時点)

こうしたエネルギーデータの利活用による電気事業のサービス内容や効率性向上のニーズが出る一方で、需要家のプライバシーを阻害しないための安全なデータ保護の仕組みの必要性がいわれていました。そこで、「グリーンボタン」にはデータの利活用を行うサードパーティが、需要家と合意形成を行う「オプトイン」という方法がとられています。データは需要家に属するものであり、データの利活用は、需要家の利益が最大化されることを前提としています。つまり「グリーンボタン」は、需要家自身が電力データのアクセスとサードパーティとの共有を行うプラットフォームであるといえます。

アメリカでは、このようなエネルギー省主体の施策が引き続き中核プロジェクトに位置付けられつつ、さらに長期エネルギー予測データ、エネルギー生産データなどの拡充を図るとともに、各地域のデータ利活用・産業振興・雇用創出支援施策へとステップを進めています。

そして、各地域のデータ利活用・産業振興・雇用創出支援施策へ

エネルギー省は2014年1月、クリーンエネルギー関連技術の事業化をめざす中小企業や起業家を支援する投資プログラム「クリーンエネルギーのための国家インキュベーター戦略(NIIC)を公表しました。

NIICEの助成対象プログラムに選定された1つが、テキサス大学オースティン校のオースティン・テクノロジー・インキュベーター(ATI)をコーディネーター役とする「サウスウエスト地域クリーンエネルギー・インキュベーション・イニシアティブ」(SRCEII)です。

SRCEIIは、テキサス州やニューメキシコ州のクリーンエネルギー関連スタートアップ企業向けに、テキサス大学オースティン校が有するインキュベーターネットワークを提供するとともに、テスティング及びプロトタイピングの場として、前述のピーカンストリート・プロジェクトなどの既存設備・リソースを提供します。

ATIは設立以来250社を輩出し、それらの企業の調達総額を日本円に換算すると1000億円を上回る規模です。また大学の研究成果の商用化も活発で、年間収入は世界のトップクラスと肩を並べるほどになっています。

その他に、テネシー州チャタヌーガの自治体が運営する公益事業体「EPB」では、新興企業の立ち上げや事業開発を促進するインキュベーター事業「ギグタンク(GIGTANK)」を開始しました。スマートメーターから取得できる電力使用量データや、配電自動化システムおよび電圧最適化システムから入ってくる電圧や資産管理に関するデータといったEPBの保有する巨大なデータの活用方法の開発を目指す地元の起業家を支援するものです。

提供するデータは顧客のプライバシーを守るため匿名化できるものに限られています。ギグタンク・プロジェクトは、エネルギー省から1億1100万ドルの補助金を受け、当初は賞金10万ドルのコンテストとして始まりました。そして3億ドルを投じて同市に導入されたギガビット級の光ファイバー網を使って、過去3年ほどにわたって進められてきました。

さて、今回はリーマンショック以降の経済政策にエネルギー分野を重点施策とし、国家的な戦略としてスマートメーター導入や産官学連携でのエネルギーデータの活用を進めてきたアメリカの事例をご紹介しました。エネルギーデータの活用を広げるためには需要家のプライバシーを阻害しないための安全なデータ保護の仕組みの確立が必要だと改めて認識します。国内では、改正電気事業法が施行される2022年4月に需要家本人から同意を得た電力データのみをデータ利用者へ提供するプラットフォームとして「認定電気使用者情報利用者等協会」の認定を行うことが目指されています。

平時の電力データ活用 出典:資源エネルギー庁

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