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世界的な半導体不足の中で、『次世代パワー半導体・先端半導体』は日本の脱炭素×成長戦略のキーワードとなるか

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5月19日、トヨタ自動車は「世界的な半導体不足で国内の2つの工場の稼働を一時停止する」と発表しました。約2万台の生産に影響が出るといいます。加藤官房長官は「半導体は産業のコメともいわれ、経済社会を支える極めて重要な基盤の部品」と述べた上で、「代替装置の調達支援など経済産業省でしっかり対応していく」としました。しかし、31日、米インテルCEOは「半導体不足解消はあと数年かかる」という見方を発表しています。 では今回は、いつから、どうしてこのような半導体不足という事態が起こったのか、またそこから見えてきた課題とは。そしてそれを克服し、脱炭素社会実現と経済成長の原動力とするための日本の取り組みについてご紹介していきます。

世界的な半導体不足はなぜ起こったのか

今回は、3つの要因を挙げてみました。

①2月、米国の車載半導体工場が寒波で操業停止。寒波で閉鎖されたサムスン電子などの州内の半導体工場に生産再開に数週間必要というニュースがありました。工場の一時停止により、5カ月後に自動車メーカーに影響が及ぶと指摘していました。
一方で、「影響はほとんどすぐに出る。半導体在庫は低水準であり、顧客はできるだけ早期に必要とするためだ」ともいわれていました。サムスンは電気自動車(EV)大手テスラなどに半導体を供給しています。NXPとインフィニオンも自動車向け半導体サプライヤーです。テスラは、カリフォルニア州フリーモント工場で2日間生産を停止。中国の新興EVメーカーの蔚来汽車(NIO)は3月26日、半導体不足のため安徽省合肥市の工場での生産を5日間停止していました。

②3月半導体大手ルネサスエレクトロニクスの工場火災が起き工場が停止。その影響により出荷量が元の水準に戻るには数か月かかると見込まれていました。車載半導体は安全が最優先なため、厳しい品質が要求される割に、単価が安いといわれています。半導体会社の業績が低迷し、工場に巨額の投資を続ける余力が無くなっていくためルネサスをはじめとする車載半導体会社は、自前での生産から、台湾積体電路製造(TSMC)や聯華電子(UMC)への委託生産に切り替えてきました。
しかし台湾勢の主要顧客は電機メーカーで、自動車向けの優先順位は高くないこともあり、これが今回の半導体不足に拍車をかけています。今回は、日本政府の要請で、半導体の受託生産で世界最大手の台湾TSMCは、ルネサス向けの増産に応じています。

③コロナ禍による巣ごもり消費でゲーム機や家電などの需要が急増。また同じくコロナ禍により急速なデジタル革新でテレワークといった仕事やオンライン学習で使用するPCなどの電子機器向けの需要が急増したことです。例えば、ソニーのプレイステーション5に使われているAMD製半導体チップは、台湾TSMCの7ナノメートルプロセスを用いた生産設備で作られています。この生産プロセスは、世界中のさまざまなテクノロジー製品に使われており、ソニーだけが欲しがっているわけではないため、奪い合いになっています。
最先端の論理回路系半導体チップの生産はTSMCがとても強い状況です。今回のような事態だけは将来的にも続く可能性が高いです。プレイステーション5のチップを改良していった場合もアップルやクアルコムなどのスマホ勢をはじめ、最先端の半導体を必要とするあらゆる企業と、限られた生産キャパシティーを奪い合うことになるといわれています。

半導体生産は台湾の独壇場!?日本の成長戦略とは

このような要因をみていくと、半導体生産は特定の国や地域への依存の状態が強くなっていることが浮き彫りになってきました。世界の受託生産売上高は台湾TSMCが50%、サムスン18%といわれています。今回の事態を受け、供給網を安定させるため、主要国は巨額の予算をつけて半導体生産拠点の誘致合戦を繰り広げています。また、研究開発や製造基盤の強化に米国は4兆円、中国は10兆円規模の支援策を打つといいます。

日本は6月にも閣議決定される予定の政府の成長戦略の骨子案で、半導体を最重要とするとしていることがわかりました。米中には規模感が劣るものの、日本も支援策として総額2000億円の基金があり、「集中投資」するために活用されることになります。特に注目されるのは、新素材を使った次世代パワー半導体、省エネ性能の高い先端半導体です。

具体的にこのような動きも出ています。3月、キヤノン、東京エレクトロン、SCREENセミコンダクターソリューションズ3社と産業技術総合研究所が、次世代半導体の開発で連携すると発表しました。台湾TSMCや米インテルなど海外勢とも協力体制を築き、経済産業省も基金から約420億円を投じて研究開発を支援するということです。

また、最新のニュース(5月31日現在)では、日本政府が誘致をし、台湾TSMCが茨城県つくば市に研究開発拠点を新設し、最先端半導体の開発を進めることを発表。総事業費は約370億円で、日本政府が約半分の190億円を補助する方針ということです。

それでは、ここからは今後期待されている半導体がどういうもので、どのような分野で活用されるのかみていきたいと思います。現在、半導体に広く用いられているシリコンですが、ワイドギャップ半導体としてSiC(シリコンカーバイド)やGaN(窒化ガリウム)が注目されています。

新素材を使った次世代パワー半導体とは

例えば、SiCは、シリコンの半分を炭素に置き換えた化合物です。炭素とシリコンが強固に結合していることにより、従来のシリコンデバイスよりも、耐圧が10倍もあり、200度を超える高温にも耐えられます。SiCデバイスは、シリコンIGBTの置き換えとして、大電流・高耐圧領域から普及が進んでいます。具体的には、電気自動車(EV)、発電システムで使用されるパワーコンディショナや、電化住宅のHEMSなど、システムの小型化や軽量化のメリットが大きい領域での普及が期待されます。

政府は、電気自動車(EV)などに使用される新素材を使った次世代パワー半導体の世界シェアを2030年に4割にする目標を掲げています。そのために、2025年までを設備投資の集中期間とし、先端半導体の製造拠点に関する立地計画をつくり、高度な技術を持つ海外勢を誘致し、日本企業との共同研究や開発を想定しています。また、SiCやGaN(窒化ガリウム)に次ぐ第3の次世代パワーデバイス材料として、Ga2O3(酸化ガリウム)への注目が高まっています。

省エネ性能の高い先端半導体とは

人工知能(AI)や次世代通信規格「5G」などデジタル技術の進化でコンピューターの処理量が増え、電力消費が大幅に増える問題が指摘されています。2050年までの脱炭素社会の実現と経済の成長を同時に進めていく必要があります。経済産業省は消費電力の少ない次世代の半導体を開発する民間企業や大学の支援に乗り出しています。主要国から遅れをとっている半導体開発で、日本企業の強みがある素材開発を重点支援し、省エネ材料の開発で巻き返しをめざす目的です。

半導体用に電力消費が少ない材料として期待されるGa2O3(酸化ガリウム)の実用化をめざす民間企業などを対象とし、2021年度の概算要求で21.3億円を計上。今後5年間かけて支援していく方針です。

先ほども述べた通り、現在は半導体材料にシリコンを使うのが主流ですが、経産省によるとシリコン半導体から新材料への置き換えが進めば、年間1440万トンの二酸化炭素(CO2)が減らせるとの試算があります。新材料を使った半導体は、データセンターや家電、第5世代移動通信システム(5G)では基地局の電源など向けの普及を想定しています。

再生エネルギー分野でも半導体が活用している

このような半導体の開発や生産強化は、再生エネルギー分野にも関連があります。例えば、太陽光発電のような直流電力であれ、風力や水力発電の交流電力であれ、生み出した電力を送電線に戻すためには、電力を商用電源の周波数に変換しなければなりません。ここにも、半導体が使われることになります。半導体エレクトロニクスを使うことで精度よく制御することができます。もし制御できなければ電力の流れが不安定になり、最悪の場合は停電に至ってしまいますので、非常にじゅうような役割を果たしています。

また、今までの電力エネルギーは、需要を上回る供給能力を備えることで、停電などの供給不足にならないように対処していました。しかし、これでは余剰電力が無駄であり、電気料金が高くなる原因の一つにもなっています。そのため、ピーク需要に合わせて供給能力を高めるのではなく、その時々の需要に応じて電力を供給できるようにすることが重要です。そのテクノロジーに半導体が利用されています。これにより、低コスト化を実現することができ、ひいては日本の国際競争力を向上することにつながっていきます。

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