気候変動サミットで打ち出された13年度比46%減の目標。日本はどう実現していくのか

2021年06月07日

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

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アメリカのバイデン大統領が主催した気候変動サミットが4月22日から23日までオンラインにて開催されました。主要排出国の中国やインド・ロシアも含め、40の国と地域の首脳が参加しました。また、日本の菅首相が削減目標をこれまでの26%から46%に引き上げたことが注目されました。そこで今回は、各国の現状や削減目標、主な取り組みを見ていった後に、目標の実現に向けて、日本ではどのような取り組みがされ、どのような課題があるのかを考えていきたいと思います。

各国の現状や削減目標と取り組みの概要について

気候変動サミットで提示された各国の削減目標は次の通りです。各国で基準年や基準値が違うため単純比較しづらいという点が見受けられますが、各国インパクトのある数字を提示している印象を持ちます。

  1. 中国 2030年にGDP当たりCO2排出量で△65%以上(2005年比)
  2. 米国 2030年に△50~△52%(2005年比)
  3. インド 2030年にGDP当たり排出量で△33~△35%(2005年比)
  4. ロシア 2030年に△30%(1990年比)
  5. 日本 2030年度に△46%(2013年比)
  6. EU  2030年に△55%(1990年比)
  7. 英国  2035年に△78%(1990年比)

この削減目標は、2050年までのカーボンニュートラル達成に向けた中間目標という位置づけになります。(中国は2060年にカーボンニュートラル達成、インドやロシアは現時点で言及なし。)

進捗状況は、11月に英国で開催される第26回の国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)で点検され、温暖化が不十分な国からの輸入品に課税する「国境炭素税」などについても協議がされる予定です。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の1.5℃ 特別報告書 (2018 年 10 月)では、「地球温暖化は、現在の度合いで続けば2030年から2052年の間に1.5 ℃に達する可能性が高い。」「もし地球温暖化が2℃ではなく1.5 ℃に抑えられると気候変動の影響はより大きく回避されるだろう」という報告されています。

そのような中で、今回、日本だけでなく、アメリカやカナダ・イギリスなども目標値を引き上げました。気候変動危機による最悪のシナリオを避けるため、実現に向けて各国はどのような取り組みがなされているのでしょうか。

EU

グリーンリカバリーの潮流をつくったEU。新型コロナウィルスで打撃を被る国々を支援する「復興基金」が2020 年 7 月 21 日、 EU 首脳会議で合意されました。復興基金総額7,500億ユーロ(約92兆円)の約3分の1は気候変動対策に充てられます。EUのグリーンリカバリーの具体的な施策例として、どのような事業が温暖化防止に貢献するかを示す基準であるEUタクソノミーを公表し、金融機関や企業に詳細な基準を明示することで経営や商品のグリーン化を促しています。

アメリカ

2035年までに発電部門の温暖化ガス排出を実質ゼロにすることを改めて掲げました。そこで風力や太陽光といった再生エネルギーへの投資を補助金や税制で支援し、比率を引き上げます。また連邦政府機関の全車両のEV化を打ち出し、一般のEVの購入には税制優遇措置を設けています。

カナダ

グリーンテクノロジーに特化した企業への投資や温暖化ガス排出実質ゼロを実現した企業の法人税を50%軽減するといった政策を打ち出しています。

中国

現在は電力の60%弱を石炭で賄っているが、3月に発表された新5か年計画では、2025年までにエネルギーの20%を再生可能エネルギーで賄うとする目標を掲げています。しかし、途上国の石炭火力発電所に数十億ドル(数千億円)規模の資金提供を行う方針を発表するなど、矛盾も生じています。それでは、次は日本の取り組みについてみていきたいと思います。

鍵はエネルギーミックス。50年には再エネ5~6割の比率も検討

日本では2030年、そして2050年の目標達成には、温室効果ガス排出の8割以上を占めるエネルギー部門の対策が不可欠といわれています。2021年夏頃には新たな(第6次)エネルギー基本計画が取りまとめられる予定ですが、具体策として、発電部門での再生エネルギーの導入を最大化させることが検討されています。

2020年12月、資源エネルギー庁の有識者会議において、エネルギー基本計画の柱となる、エネルギーミックスについて議論が交わされました。そこで、下記のような2050年の参考値が提示されました。現在の比率は18%(2019年度)ですので、大幅な引き上げとなります。(2030年には22~24%を検討)

発電電力の比率(検討の参考値)
  1. 再生可能エネルギー:約50~60% 
  2. 原子力と化石燃料による火力+CCUSの合計:約30~40%
  3. 水素・アンモニアによる火力:約10%

資源エネルギー庁の資料によると、国際機関の分析では日本の再エネ導入容量は世界第6位、このうち、太陽光発電容量は世界第3位となっています。発電電力量について、なんとこの6年間で約3倍に増加するなど、太陽光中心に日本の増加スピードは世界トップクラスとなっています(図1)。

図1 今後の再生可能エネルギー政策について 出典:資源エネルギー庁

また、太陽光、風力、地熱、水力、バイオマスといった既に認定されている案件がこれまでと同様のペースで導入されていくと、再エネ比率は22~24%となり、さらに既認定案件が全て稼働となれば25%となるため、現行の2030年エネルギーミックスで設定した再エネ比率を達成する見込みとなっています。

しかし、2050年という時間軸でみた場合、認定案件ペースが鈍化していることや、コスト面の課題からこれ以上の大幅なペースアップは見込みづらい状況です。

そこで、日本でもう一つ注目されているのが、洋上風力です。2020年12月に、「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」において、「洋上風力産業ビジョン」として取りまとめられました。海に囲まれた日本の立地を生かすことができ、大量導入が可能、また、コスト低減による国民負担の低減効果や経済波及効果が大きく、再生可能エネルギーの主力電源化の向けた切り札としたい方針です。

発電の課題である送電網の増強するため、2021年3月に経済産業省は、北海道から首都圏を結ぶ太平洋側を候補とし、洋上風力発電の送電線を海底に整備する検討に入りました。事業費は数千億円から1兆円規模に上る可能性があるとのことですが、海底ケーブルは新設に要する時間やコストが陸上より少ないとされています。

政府は、年間100万キロワット程度の区域指定を10年程度継続し、2030年までに1000万キロワット、40年までに3000万~4500万キロワットまで拡大する導入目標を掲げています(図2)。原子力発電が1基で100万キロワットの出力とすれば、原発30~45基分となり、非常に大きなポテンシャルがあるといえます。

図2 洋上風力発電の導入予測(2040年)出典:資源エネルギー庁

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