高騰した日本の電力市場分析と海外市場からの教訓
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日本のスポット電力価格は、約4週間にわたり高騰している。世界の主要な電力市場では、これほど長期間の高価格を見たことがない。この状況は、新電力に大きな損失をもたらし、破産する企業がでてくる可能性がある。この記事では、日本の状況を2016年のフランスの同様の状況と比較し、日本のこの状況が再発しないようにするための市場の透明性と先物取引、リスク管理の重要性を説明する。
執筆者:KYOS Energy Analytics
シリウ・デ・ヨング、ハンス・ファン・ダイケン氏
日本は電力先物取引で恩恵を受ける
長年、日本の電力価格は約10円/ kWhであった。しかし、2020年12月中旬に突然、JEPXスポット市場の価格が急上昇し始め、現在(2021年1月25日)まで続いている。価格が最も高騰した東京エリアでは、250円/ kWh(2,000ユーロ/ MWh)を超える水準に達し、1月の平均価格は通常の約10倍になった。図1では、東京のスポット価格が2020年12月20日頃に急上昇し始め、2021年1月15日の史上最高値を過ぎた後、わずかに下落した状態を示している。

図1:東京エリアの前日スポット価格 出典:JEPX と KYOS システム
この前例のない価格上昇の原因については多くの議論がある。直接的な理由は比較的明白であり、寒くて雪の降る天候、LNG供給の不足、そして稼働可能な発電所の限界が理由としてあげられる。寒波とロックダウンの同時進行で、住宅用暖房の電力消費量が増加しており、また、降雪により、太陽光発電の出力も減少した。同時に、日本はLNG供給の不足に直面した。この不足は同時に世界の他の地域でも起き、LNGの価格がこれまでになく高くなっている。図2に見るように、LNGのJKM前月先物価格は15 $ / mmBtuを示しており、通常の2〜3倍以上の値段をつけている。スポット市場では、Plattは30 $ / mmBtuを超える価格さえ報告された。
原子力、LNG、太陽光発電を合わせると、総設備容量の約55%を占めており、今年1月には、これらの発電容量が通常より少なくなった。この状況では、LNG在庫の枯渇を恐れ、生産を削減しなければならなくなった。同時に、日本の9基の稼働中の原子炉のうち3基が1月に保守と修理を受けており、原子力発電容量は約3分の1に減少している。それに加え、降雪は国内の太陽光発電パネルの一部を覆い発電能力を下げた。これらすべての要因が合わさって、日本の電力価格が急騰した。

図2:JKM LNGの前月先物価格 出典 CME と KYOS システム
フランス市場の状況との比較
価格の高騰は日本に限ったことではなく、世界中の多くの電力市場で起きている。ただし、このようなスパイクは数日以内で終わる傾向があり、通常の3〜4倍を超えることはめったにない。では、なぜ日本では市場の結果がそれほど極端だったのか。そして、なぜ警告信号がなかったのか?日本の市況の何が特別で、どのような救済策が取れるのかを分析する。
日本の電力市場の多くの要素は、ヨーロッパの電力市場の要素と類似している。流動的な前日スポット市場があり、需要と供給を効率的に制御していると言える。供給は、石炭、ガス(LNG)、原子力発電所と、水力、太陽光、風力からの再生可能エネルギー源を組み合わせたものとなっている。
世界のどの電力市場でも、供給の混乱と需給バランスの逼迫が発生することがある。最も興味深い例は、2016年末にかけてのフランスの電力価格の高騰であろう。多くの原子力発電所が修理中または検査中であったため、冬の発電容量の不足が懸念されていた。
日本との違い1:計画された発電所と実際の発電所の発電容量については多くの情報が入手可能。これは、すべての加盟国のEU規制によって施行されている。フランスの原子力大手EdFからの情報は完璧にはほど遠いものだったが、市場参加者に警告し、さらなる調査行動を喚起するには十分な情報があった。
日本との違い2:先物市場と相対取引がうまく機能しており、価格調整のプロセスが強化されている。フランスでは、潜在的な供給不足の可能性を伝えるニュースにより、2016年12月のように、来たる冬の電力供給の購入量が増加している。これにより、今後数か月の先物価格が上昇し、市場参加者が行動するための健全なインセンティブが提供された。発電事業者は最大発電容量の準備、ネットワークオペレーターは最大効率での接続の準備、(事業用)エンドユーザーは需要削減の準備を行うことができた。これらはすべて、実際の問題が起きるよりもはるかに早く行われた。
日本との違い3:ヨーロッパの市場参加者は、市場価格リスクを管理するために専門家システム(ETRMシステム)を広く採用している。これらのシステムは、ポートフォリオのリスクが高すぎる場合に警告信号を提供する。リスクを最小限にするために、ヨーロッパのサプライヤー(新電力)は、先物市場で大量の電力を購入し、スポット市場では少量のみを購入する。同様に、発電事業者はその出力のほとんどを先物市場でも販売する。
欧州の電力先物市場の重要な役割を理解するため、2016年のフランスでのいくつかの価格動向を見てみよう。2016年12月の配信のベースロード先物価格は、当初約40ユーロ/ MWhで取引されていた。 冬が近づくと、11月上旬までに価格は徐々に140近くまで上昇した(図3)。 最終的に、12月の需給バランスはややタイトであったが、多くの人が恐れていたほどタイトではなかった。この結果、12月の平均スポット価格は59€/ MWhで平均をわずかに上回る程度であった。

図3:2016年12月のフランスのベースロード発電先渡価格 出典: EEX と KYOS システム
要約すると、フランスの状況と日本の状況との違いは、市場参加者が潜在的に破壊的な出来事を予期できるということである。 発電事業者は発電量を増やす方法を考える時間があったし、販売者は需要を減らす方法を考えることができた。一時的なパニックの後、多くの市場参加者による対策により、事故は起こらなかったと言える。
日本の電力市場のこれから
透明性は、市場がうまく機能するための重要な条件である。 電力・ガス取引監視等委員会がごく最近、スポット価格を決定する需給曲線を(期間不明ながらも)公開することを決定したことは有用な決定である。 需給曲線は、提供される電力容量(供給)と入札価格(需要)を示す。(図4の赤と青の線)。 この情報は、市場参加者が市場のファンダメンタルズがクリアランス価格にどのように変換されるかを理解するのに役立つ。

図4:2021年1月22日の2時間半の需給曲線。x軸は総量を示し、y軸は供給(赤)と需要(青)の価格を示す 出典:METI
もう1つの前向きな進展は、日本の電力の先物市場の確立である。 取引所はTOCOMとEEXによって運営されており、2019年と2020年以降、電力先物を取引する可能性を提供してきたが、取引量は非常に限られており、JEPXスポット市場の取引量のごく一部にすぎない。 2020年12月のEEXとTocomの合計取引量は300GWhで、これはスポット取引量の1%(図4)。 より多くの国内市場参加者が先物を利用して価格リスクを管理し、より多くの海外トレーダーが流動性を高めるために市場に参入することが重要であると言える。

図5:スポット市場のJEPX(左)と先物市場のTocomとEEX(右)の取引量 出典: KYOS システム
最終的に重要なのは、各事業者が積極的なリスク管理を行うことである。これは、専門的な電力取引リスク管理(ETRM)の使用によって行われる。このようなシステムは、現在および将来のポジションに関する直接的かつ明確な洞察を提供する。市場価格の動向で失われる可能性のある経済的リスクを計算することによって、毎日のリスクを定量化する。そして、これらのリスクを軽減するためにどのような取引を行うべきかを判断する事を可能にする。
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