日本の脱炭素社会実現へ、異業種のEV参入相次ぐ

2021年03月15日

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

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循環型社会、脱炭素社会を目指す時代の流れとともに、近年、ガソリン車に比べて、参入障壁が低いことから、世界の名だたるIT・ハイテク企業がEVシフトを本格化させようとしています。こうした企業はEVと親和性の高い自動運転の分野で自社の技術を活かすことができます。“新しいモビリティ”としてスマホからEVへのシフトチェンジが起きており、EV市場の覇権争いが激化しています。今回は、世界の動向から日本の異業種参入の事例、そして日本のEV化の課題について考えていきたいと思います。

世界のEV市場動向は?

2021年に入って、米国のバイデン新大統領がパリ協定へ復帰し、クリーン・エネルギー政策を掲げているほか、日本の菅政権も「2050年までに温室効果ガスの排出ゼロ」を表明し、2030年代半ばにもガソリン車の新車販売を無くすことを検討するなど、EVをはじめ環境対応車へシフトする世界的な動きがあります。

そうした背景の中、異業種がEV(電気自動車)市場に新規参入する動きが広がっています。1月には、米アップルがEV参入に向け韓国の現代自動車など自動車大手と交渉していることが明らかになりました。

2月には11日に中国のインターネット検索最大手・バイドゥ(百度)が参入を表明しました。26日には中国通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)がEV事業に参入を検討しているとロイター通信が報じました。ファーウェイは年内に自社ブランドのEVを複数発売するといいます。アリババや台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業も動きを加速しています。

日本の異業種からのEV参入事例

三菱自動車が09年に世界初の量産EV「i-MiEV」を発売するなど、かつてはEVでも世界をリードしたが、ガソリン車と比べ割高な価格や充電インフラの不足などが普及の妨げとなり世界の動きから遅れをとってきたといわれている日本においても、ここ数年、異業種からのEV参入事例が多くみられるようになりました。いくつか具体的に事例をあげてみます。

佐川急便など大手運送各社、EVを独自開発・導入へ

佐川急便株式会社は、EVの普及促進を図るためにファブレスメーカーとして設立されたASF株式会社(ASF)と、小型電気自動車の共同開発および実証実験を開始すると20年6月に発表しました。同社は「安全は全てに優先する」をテーマに、輸送の安全確保を第一に考えるとともに、地球環境に配慮した事業活動を推進しており、今回の発表は温室効果ガスや大気汚染物質を全く排出しない高い環境性能を備えた車両や、各種安全装置の開発に取り組んでいくことを強く打ち出したことになります。

出典:佐川急便

出典:佐川急便

同年3月には国内宅配大手のヤマト運輸もドイツDHLグループ傘下のEVベンチャー企業と共同開発したEVトラックを導入。また、日本郵便も配車に電気自動車1200台を導入しています。ヤマト運輸ではEVの導入の背景として、環境配慮という側面だけではなく、配達業務を行う多様な人材採用を進めている中で、安全性・操作性・作業性に優れ、地域のオペレーションに最適な大きさの「働きやすい車」を開発・検討してきたという側面があります。中型免許を保有していないドライバーでも乗れる車両とすることで、働き方改革の推進と集配キャパシティの向上に向けた体制構築をさらに加速させる狙いがあるということです。

出典:ヤマト運輸

出典:ヤマト運輸

佐川急便でも今回、実績のないスタートアップ企業(ASF社)との共同開発を選択した理由として、「荷室の広さや使い勝手など、宅配に特化した開発の要望に応えてくれること」、「自動運転も視野に開発を進めることにしており、ベンチャーならではの迅速な対応に期待していること」をあげています。宅配に特化した自社独自開発の電気自動車が、次世代の物流システムを創造し、持続可能な社会を実現していく大きな鍵となっていきそうです。

出光が超小型EVなどの次世代モビリティおよびサービスを開発

出光興産株式会社は2月16日に、超小型電気自動車(EV)の事業に参入すると発表しました。外部のメーカーと組んで超小型EVを製造し、給油所でカーシェアや販売を行うというものです。

免許返納に伴う移動のニーズが急増している高齢者層や、日々の買い物や子供の送り迎えに自動車を利用することに不安がある運転経験が浅い主婦層、また近隣に営業をはかるサラリーマン層に向けて、手軽で小回りの利く、必要最小限の機能を備えたモビリティと、デジタル技術を活用した利用の仕組みを提供していきたい考えです。

超小型EVのシェアリングやサブスクリプションや、変化する利用者のニーズに合わせたMaaS(次世代モビリティサービス)を開発し、全国6,400ヵ所の系列サービスステーションネットワークを利用してサービス提供したい考えです。

日本の道路の約85%が道幅平均3.9mの市町村道なので、普通車は対向車のすれ違いに苦労するという日本固有の道路事情から、軽自動車や超小型車について、日本市場では強いニーズが見込めます。実際、国内の軽自動車の保有台数は3000万台を超えています。20年9月に国土交通省が発表した超小型モビリティの新規格に準拠した新たなカテゴリーの超小型EVを開発しており、同社は、初の新型車両を2021年10月に発表し、2022年の上市を予定しています。

出典:出光興産

出典:出光興産

ソニー、CES2020で同社初の電気自動車「VISION-S」を発表

2020年1月のCES2020のプレスカンファレンスで、「次のメガトレンドはモビリティだと信じている」ソニーの吉田憲一郎社長はそう発言をしました。「スマートフォンから、今後はクルマのEV化が新たなモビリティのソリューションを生み出していくきっかけになる」というのです。

開発にあたっては全体のデザインをソニーが行い、そのデザインに基づいてカナダの大手サプライヤーであるマグナ・インターナショナル(以下:マグナ)が完成車までを担当した。マグナには多くのサプライヤーをまとめ上げるノウハウがあり、わずか2年で実走行にこぎ着けています。

将来の自動運転を見据えたコンセプト「Safety Cocoon」をコアに、計33個のセンサー(カメラ×13個、レーダー×17個、ソリッドステート型LiDAR×3個)を車内外に搭載するなど、VISION-Sにはソニーならではの取り組みが随所に採り入れられています。将来有望な赤外線レーダーのLiDARの分野へソニーが参入するきっかけとしてもVISION-Sの開発は欠かせなかったようです。

車内はまさにAV機器メーカーらしいソニーの世界が広がっています。例えばダッシュボードには3枚の液晶パネルを一体化したパノラマスクリーンが実装されていたり、車内にいながらコンサートホールにいるようなライブ感を楽しめるスピーカーが内蔵されています。将来的には次世代通信網である5Gにも対応させる予定で、ソニーのスマホメーカーとしてのノウハウも活かしていく予定だといいます。同社はVISION-S試作車両を2020年12月に完成させ、 21年1月に欧州において公道走行テストを開始しています。

出典:ソニー

出典:ソニー

EV化に関する日本の課題

自動車関連業界は、日本経済を支えてきた基幹産業であり、現在も約550万人もの人が働く裾野の広い産業です。EVの全世界的な普及によって日本の自動車産業の既存のビジネスモデルが危機にさらされるという懸念をトヨタ車の豊田会長も発言をしているほどです。ではどのようなことが日本の課題となっているのでしょうか。

1. エネルギーミックスの取り組み

日本の温暖化ガスの9割以上が二酸化炭素(CO2)で、そのうちの2割弱が自動車に起因するものといわれています。そのため自動車がガソリンを燃やさなくなれば、CO2は2割削減できる計算になります。しかし、日本では電力の7割以上が石炭などの化石燃料から作られているので、EV化によるCO2削減効果は限定的となりそうです。そのため、EVの普及とエネルギーミックスの変更(再生可能エネルギーや原子力の割合を増やすこと)はセットで行われる必要があると考えられています。

2.ハードからソフトへ

車体の美しさや性能、もしくは価格を追い求めてきたEVも、自動運転の普及に伴って、自らハンドルを握る移動手段というよりは、車内で通信や会議などもできる「居住空間」としての役割も担うように進化を遂げています。つまり、ハードウェアと同じくらいソフトウェア的な観点が求められているといえます。テスラはすでに車の機能を無線通信でアップグレードできるようになっています。さらに、それだけでなく車を分散電源として活用するエネルギーマネジメント事業も展開しています。先に述べた出光やソニーの例も、MaaSの開発や快適な空間としての追求を行っており、今後EV事業者はソフトウェアを重視した開発が求められています。

まとめ

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