蓄電池×モビリティ 第3回

2024年01月14日

一般社団法人エネルギー情報センター

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次世代自動車を中心とした「モビリティ」=自動車産業界をキーワードに、蓄電池の今と未来についてを全6回にわたってご紹介します。

執筆者:一般社団法人エネルギー情報センター
理事 江田健二

富山県砺波市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア株式会社)に入社。エネルギー/化学産業本部に所属し、電力会社・大手化学メーカ等のプロジェクトに参画。その後、RAUL株式会社を起業。主に環境・エネルギー分野のビジネス推進や企業の社会貢献活動支援を実施。一般社団法人エネルギー情報センター理事、一般社団法人CSRコミュニケーション協会理事、環境省 地域再省蓄エネサービスイノベーション委員会委員等を歴任。

記事出典:書籍『2時間でわかる 蓄電池ビジネスの未来: ウィズコロナ時代に拡大する20兆円市場に注目せよ!』(2020年)

どんな電池が使われているのか

車載用としての蓄電池は、エネルギー密度(単位容積当たりに取り出せるエネルギー)が重要になります。特にEVは電気のみを動力として走行するので、電池容量の大きいことが重要な要素になります。単純に電池を大きくすれば一定の容量は確保できますが、自動車に搭載できる電池のスペースは限られます。そこで、EVには小さなサイズで大きな容量であることが求められるのです。

ではEVやPHVには、実際にどんな蓄電池が使われているのでしょうか?

かつては車載用の蓄電池といえば鉛蓄電池が主流でしたが、重たい、電気容量が小さい、臭いがきついといった理由もあって普及せず、現在、ほとんどのEVやPHVにはリチウムイオン電池が使われています。リチウムイオン電池は改良によって様々なタイプのものが開発されてきており、今後も車載用電池の主流製品であり続けるといわれています。

ただし、リチウムイオン電池以外の蓄電池が自動車にまったく使われていないわけではありません。例えば鉛蓄電池は一部のEVやPHVの補機用バッテリーとして使用されています。鉛蓄電池は容量はあまり大きくありませんが、寿命が長く価格が安いというメリットがあるからです。

ちなみにトヨタのプリウスには、リチウムイオン電池タイプとニッケル水素電池タイプがあり、燃費を重視するタイプや高位グレードの車両はリチウムイオン電池を使っています。リチウムイオン電池は高価ですが、軽く小さく、出力も高いという特長があるからです。一方、ニッケル水素電池は重く大きいですが、安価で低温に強いという特長があります。そのため、寒冷地仕様の車や低位グレードの車にはニッケル水素電池を使用しているのです。

多くのEVメーカーで使用しているリチウムイオン電池の仕様や性能はメーカーや車種・車両によって様々です。EVは搭載しているバッテリーの性能が車自体の性能に直結します。したがって、各自動車メーカーは、日々バッテリーの技術開発にしのぎを削っているというわけです。

今後EVの数が増えていけば、リチウムイオン電池の性能はますます向上していくでしょう。それに伴い、リチウムイオン電池の二次利用として住宅用や太陽光発電用など定置用蓄電池としての転用が増えていくはずです。

どこで、どのように充電できるのか

EVやPHVの普及拡大の鍵を握るのは、価格や性能などのほかに、「充電方法」の利便性向上にあります。

EVの充電設備(充電スポット)は、ここ数年で全国的に急増しています。主な設置場所は、コンビニ、スーパーマーケットやショッピングモールなど商業施設、宿泊施設、カーディーラー、飛行場や市役所の駐車場などです。また、道の駅や高速道路のSA、PAなど長距離移動時の幹線道路沿いにも充電設備が増えています。最近の調査によると、全国の充電スポット数は1万8000箇所以上あり(2019年末時点)、この数字は、今やガソリンスタンド数の約6割に匹敵するともいわれています。

EVの充電設備は、30分程度の短時間で充電できる「急速充電設備」と、一般家庭でも設置できる「普通充電設備」の2種類に大別されます。日常よく利用するコンビニや高速道路のSAやPAには、短時間で充電できる急速充電器が、また宿泊施設など長時間駐車する施設では、普通充電器が設置されています。

急速充電器は電気容量が大きいため、電気設備の容量確保が必要となり、導入には比較的大きな改修が必要となります。

充電時間の目安は、EVの場合なら急速充電設備で30分~60分で80%程度まで充電可能。普通充電器だと4~8時間程度です。ただし車両に搭載されている電池容量により、充電時間は大きく異なります。

最近は、充電サービス利用時の料金支払いに使える便利な「充電カード」や、外出先で車の電気を使える「給電器」など、EVならではの便利なツールも増えているようです。

「V2Hシステム」としてのEV活用

先ほど、EVは大型蓄電池としての機能を有している、というお話しをしましたが、ここで注目すべきは「V2H」です。V2Hは「Vehicle to Home」の略で、いったんEVに蓄えた電力を家庭で利用するシステムのことをいいます。

これまでの一般的なEVは、自宅で充電する場合、家のコンセントから電気をもらって充電しますが、その逆は不可能でした。しかしV2Hのシステム(V2H対応車種のEVと、EV用のパワーコンディショナー)を持っていれば、EVの大型バッテリーを自宅用の蓄電池として利用することができます。もし災害などで停電になっても、しばらくはEVのバッテリーに貯めている電気で生活することができるのです。

もちろん家庭用の定置用蓄電池というものもありますから、停電時にはそれを使ってもいいのですが、EVに搭載されているバッテリーの方がより大容量です。V2Hシステムを利用すれば、自動車の走行と家庭用電力の両方をまかなえるという点が、このシステムの最大の特長です。

さらに近年、昼間に太陽光発電で生み出した電力を、夜間にEVに充電できるようなシステムも出てきています。自宅に太陽光発電システムを備えていれば、V2Hを太陽光発電と組み合わせることで、電力の自給自足が可能になるのです。

電気の変換技術や蓄電池の性能向上、EVと太陽光発電の普及、そしてスマートハウスの進化。こうした流れの中で、V2Hは今後さらに普及が拡大していくでしょう。

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