世界的に原油価格が急落し、金融危機の懸念の声も
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2020年05月19日
一般社団法人エネルギー情報センター
新型コロナウイルスの感染拡大の影響をきっかけに、原油価格が下落しました。下落の状況は現在も続いており、アメリカのシェールオイル業界との関係で、金融危機への発展も懸念されています。
コロナと協議の影響で原油価格が下落
今年の3月にOPEC(石油輸出国機構)の加盟国と、ロシアをはじめとするOPEC非加盟の産油国(OPECプラス)の会合が行われました。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で経済活動が停滞し、原油価格が落ち込んだため、その回復を図るために話し合いがなされました。
OPECと非加盟国の会合では協調減産について話し合われました。協調減産というのは3年前の2016年12月10日や、2001年にも行われてきました。2016年に協調減産の合意がなされた背景には、原油価格の下落によって財政収入が限界まで落ち込んだことが考えられます。また、原油のシェアを維持していたサウジアラビアは、価格の安定に重きを置きました。サウジアラビアはOPECの最大産油国なので、その影響は大きいとみられています。
今回も原油価格の安定を図るため協調減産の話し合いがされましたが、産油国のアメリカへの対抗もあり、ロシアは協議に反対し決裂しました。また協議決裂後に、サウジアラビアが原油価格を値下げし、増産をするとの発表をしました。
OPECとは
Organization of Petroleum Exporting Countriesの略で、「石油輸出国機構」のことを言います。原油の生産と価格の調整を行っています。本部はオーストリアのウィーンにある石油輸出生産国の協議会です。
世界の石油資源と石油市場を独占していた欧米の国際石油資本(メジャーズ)により、1959年と1960年の二度にわたって産油国の許可なく中東原油価格が引き下げられるという事件がありました。国際石油資本とは、石油輸出国機構が確立する前に世界の石油生産をほぼ独占していた8つのメジャーをさします。
そのため1960年、イラン、イラク、クウェート、サウジアラビア、ベネズエラの5か国がメジャーズに対抗し、産油国側の利益を守ることを目的にOPECを設立しました。現在では加盟国数が増え、中東諸国を中心とした14か国で構成されています。
加盟国の利益を個別及び全体的に守ることや、国際石油市場の価格の安定、消費国に対して安定的に石油を給付すること、石油産業における投資に対する公正な資本の見返りの確保を目的としています。
WTI原油先物価格の急落
OPECと非加盟国の協議決裂を受けて、世界的に原油市場の代表的な指標である、WTI原油先物価格が急落しました。2月末は1バレル=50ドル近くでしたが、3月9日に1バレル=30ドル割れ、4月2日は1バレル=21ドルを割り込んでいました。
WTIとは
世界の原油取引は、消費地ごとに、アジア(中東産原油)、欧州(北海ブレンド原油)、北米(WTI原油)の3つの市場が形成されています。世界の原油相場は、これらの価格を相互に参照しながら決まっていきます。
それらのうちの1つであるWTI原油とは、米国テキサス州沿岸部の油田で産出される原油の総称です。WTIはWest Texas Intermediate(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)の略称です。
WTI原油はガソリンや灯油が多く含まれ、硫黄分も0.2%ほどと少なく、高品質の原油であることから「軽質スイート原油」とも呼ばれています。暖房の燃料やジェット燃料などにも利用できるため用途が広く、原油価格の「先物取引」の1つでありながら、原油価格全体の代名詞とも言われ、世界経済の重要な経済指標の1つに位置付けられています。
協調減産合意するも続く下落状況
3月の協調減産の話し合いは合意となりませんでしたが、各国の協議の末、4月12日にOPECと非加盟国は、世界の原油生産を日量970万バレルへ減らすことを合意しました。日量970万バレルは世界の原油生産の約1割となります。原産は5月から始まることとなっています。
しかし4月20日にはニューヨーク市場のWTI原油先物価格で、一時、1バレル=マイナス40.32ドルまで下がり、マイナス37.63ドルで取引きを終えました。原油価格がマイナスとなるのは史上初で、1983年に原油が上場して以来となります。
原油価格のマイナスは販売側が料金を支払い、原油を引き取ってもらうという異例の事態です。新型コロナウイルスの影響による世界的な外出自粛や都市封鎖で、経済活動が停滞し原油の需要が低下しているのが理由の一つとして挙げられます。また、WTI原油はアメリカのオクラホマ州のクッシングにある貯蔵庫で取引きされます。WTI原油の取引ができるのはクッシングのみなので、原油の需要が減り貯蔵庫が満杯となればWTI原油を貯めておくことができなくなります。そのためWTI原油を保有していた投資家は買い手がいなくなることを恐れ、投げ売り状態となり、原油価格のマイナスが発生しました。
シェールオイル企業の経営破綻で懸念される金融危機
原油価格の下落がこのまま続くと、金融危機につながりかねないと懸念されています。それを示唆する出来事として、4月1日にシェールオイル企業の経営破綻がありました。経営破綻したのはアメリカの「ホワイティング・ペトロリアム」という会社です。
シェールオイルは地下深くの泥岩(けつ岩=シェール)の層に含まれている石油の一種です。2010年頃にアメリカやカナダで生産されるようになりました。2018年にはアメリカの原油生産の約7割を占めており、シェールオイルは高生産コスト業者でした。経営破綻した「ホワイティング・ペトロリアム」はシェールオイルの大手企業だったのです。
シェールオイル業界の採算ラインは1バレル=50ドル前後といわれています。先にもあげたように、WTI原油先物価格は3月9日で1バレル=30ドル割れとなっていました。現状の価格では新規投資ができない状態となってしまいます。
また、アメリカのシェールオイル業者は民間企業です。一方サウジアラビアやロシアは国有企業なのですが、民間企業は社債を発行して投資家から資金を調達してきました。シェールオイル業者が発行していた社債は、主にハイイールド債というものになります。ハイイールド債は高リスク高利回りで信用度の低い債券となります。信用不安が続き、シェールオイル業者の資金調達ができなくなると、経営破綻する企業が増加します。
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執筆者情報
一般社団法人エネルギー情報センター
EICは、①エネルギーに関する正しい情報を客観的にわかりやすく広くつたえること②ICTとエネルギーを融合させた新たなビジネスを創造すること、に関わる活動を通じて、安定したエネルギーの供給の一助になることを目的として設立された新電力ネットの運営団体。
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