経産省などがドローン活用のガイドライン策定、電力業界への広まりとテラドローン社による取り組み

2019年04月16日

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

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2019年3月に公開されたドローン活用のガイドラインにより、ドローンを安全に活用するための指標や方法が提示されました。そのため今後は、より本格的なドローン活用が進んでいくものと考えられます。特に近年は、テラドローン社がエネルギー業界向けのソリューションを次々と開発しており、本記事ではそれら概要を見ていきます。

経産省などがドローン活用のガイドライン策定

石油・化学プラントにおいて、生産性の向上や安全・安定的な操業の維持が求められる中、プラント設備の高経年化や若手の経験不足、ベテラン従業員の引退などによる保安力の低下が大きな課題となっています。

こうした課題を解決するための先進技術として、IoT技術やビックデータ、ドローン等があり、それらの活躍が期待されています。特に、ドローンについては、コンビナート等における産業インフラの点検や、災害時の迅速な現場確認において、保安や利便性の向上への活用が期待されています。

石油精製、化学工業等のプラントにおいては、ドローンを活用することにより、高所からの撮影が容易になります。また将来的に、大型石油貯槽タンク等の日常点検や、災害時の迅速な点検が可能となり、プラントの保安力向上や労働災害撲滅に繋がることが期待されています。

ドローン活用については、有識者9名の委員で構成される「プラントにおけるドローン活用に関する安全性調査研究会」によりガイドラインの内容が検討され、2019年3月に公開されています。このガイドラインにより、ドローンを安全に活用するための指標や方法が提示されたこととなり、今後はより本格的なドローン活用が進んでいくものと考えられます。

こうした中、特に近年は、国内ドローンサービサーのテラドローン社が、その専門性を生かし、エネルギー業界向けのソリューションを次々と開発しています。下記にてそれらサービスの概要を見ていきます。

鉄塔・煙突・橋梁等の建造物の点検サービス「Terra Inspection」

これまでのドローンによる点検作業は、手動制御を行うケースが大半でした。そのため、個人のスキルに依存する形で、高度やドローンの向きを調整しながら飛行する必要があり、鉄塔に衝突する危険が伴うなど、自動航行ができないことが課題でした。

一方でテラドローン社が3月から提供開始する「Terra Inspection」は、鉄塔などの点検対象に対して、緯度・経度・高度・ジンバル角度の自動計算を行い、ドローンの自動航行を可能とします。点検対象への衝突を回避するルートを自動で割り出すことで、より計画的で安全なドローン点検が実現します(図1)。加えて、データ管理やレポート作成も自動で行うことができるトータル点検ソリューションとなっています。

これまで、1つの鉄塔に対する点検作業は、4~5名の作業員が終日をかける必要がありましたが、「Terra Inspection」を利用することで、2名で30分程度と大幅に短縮できます。そのため、高所作業での人的安全の確保や、 点検時間・人件費の削減ができます。

飛行経路の自動作成機能UI

図1 飛行経路の自動作成機能UI 出典:テラドローン

点検対象の錆具合や壁の厚さをドローンで判定

現在、 建造物点検における錆の腐食状況の把握には、作業員の目視によるレベル評価が行われ、レベルに応じて部品交換等の対応が行われています。一方でAIを用いたドローン点検では、甲乙丙の3段階で錆の自動評価が行われます。これにより、構造物全体で塗装が必用な部分、 部材交換が必用な部分を判別できます。

そのほか、石油やガスなどのタンクの維持管理で欠かせないのが板厚の管理です。これまでは、タンクに仮設足場をかけて、点検員が超音波センサーなどを使って計測していました。

しかし、テラドローン社は、非破壊検査サービス(超音波板厚検査サービス)を3月より提供開始しています。このサービスにより、検査期間が大幅に短縮されると期待され、人件費の削減、検査中の施設稼働停止による損失の削減を実現します。

使用機材は、安全飛行のため総重量は約2.5 kgです。テラドローン社が特許を取得した、接触触媒(カプラント)ディスペンサーが搭載されており、飛行中でも探触子にカプラントの供給が可能であるため、効率的に検査を進めることができます(図2)。

ドローンによる非破壊検査サービス

図2 ドローンによる非破壊検査サービス 出典:テラドローン

風力発電の点検、ドローンにより約8倍の効率化

現在、風力発電機のブレード点検を行う際、重機やロープを使った点検が主流となっています。しかしながら、重機を利用する場合は点検精度の問題があり、一方でロープでは人による高所作業となるため、長時間を要し、危険が伴っていました。

しかし、テラドローン社が3月に開始したサービスを利用することで、風力発電の点検時間を高速化しながら、高所作業の危険性を排除することができます。ドローンを利用することで、ブレード1枚当たりの点検時間が約8分となり、1日あたりで見ると約7、8機の風量発電機の点検が可能となります。

従来の重機点検やロープ点検では、1日あたり風力発電1~2機の点検が限度だったことと比較すると、約8倍の点検効率が実現しています。さらに高所作業の必要がないため、より安全な作業が可能となりました。

しかしながら、ドローンによる風力発電の点検は既に実用化されており、実績も出始めています。ただ、これらの従来の点検方法は通常、マニュアル操作でドローン制御が行われています。このため、現状課題として、オペレーターの操縦技術に依存することから、操作ミスによるブレードへの衝突事故の発生、さらに点検後に撮影した画像データの管理ができないことなどが挙げられました。

この課題を解決するため、テラドローン社はSLAM技術(Simultaneous Localization and Mapping:各種センサーから取得した情報から、自己位置推定と地図作成を同時に行う技術)により、風力発電設備を照射しながら、自己位置推定を行うことで自律飛行を実現しました。そのため、マニュアル操作時の突発的な事故の確率を低減し、安全な点検を実現しています(図3)。なお、テラドローン社によると、約1週間の訓練で、誰でも安全にドローン点検を行うことができるようになるとしています。

撮影のクオリティについては、自律飛行が可能なため、ブレることなく近距離で撮影ができ、平均0.4mm/pixの高画質なレポートを得ることができます。またソフトウェア上で撮影した画像を拡大でき、ミリ単位の傷を見ることも可能です。

さらに、撮影した画像は、専用のソフトウェアを介してクラウド上で管理ができます。風力発電のブレードは表裏を見る必要があり、1ブレード当たり数百枚の写真を撮る必要があります。風力発電1基では数千枚となるケースも多いため、撮影作業それ自体だけではなく、写真の整理も人力では大変な作業です。それら写真情報の整理についても、専用ソフトウェアが対応する仕組みです。

また、AIによる画像処理によって、表面の損傷度合いを分類することが可能となりました。結果として、点検クオリティの向上に繋がることが期待されます。

独自のSLAM搭載のシステムを取り付け、ブレード点検を行うドローン

図3 独自のSLAM搭載のシステムを取り付け、ブレード点検を行うドローン 出典:テラドローン

10分間で計2キロもの送電線点検を実現

エネルギー業界におけるドローン活用の実績については、テラドローンインドネシア社が4月16日、電力中央研究所の協力の下、インドネシアにてドローンを使用した送電線点検の実証実験を成功させたと発表しました(図4)。

この実証実験では、自社開発の固定翼機「Terra Wing」にて、インドネシア国有電力会社PT PLN (Persero)が所有する送電線の点検が行われました。結果として、およそ10分間の飛行で、送電鉄塔4本を含む、計2キロもの送電線点検が完了しました。

点検レポートは、テラドローン社と電中研が共同開発したソフトウェアシステムを使用することで、点群または3Dマップデータとして取得することができます。

このデータを活用することで、送電線間の距離の測定、緩み始めた部品の特定が可能となります。加えて、ドローンが送電線付近の枝葉も正確に識別できることから、効率的な植生管理も可能となりました。

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