エネ庁が「ベースロード市場ガイドライン」作成、上限価格や透明性におけるルール整備が進む
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2019年04月03日
一般社団法人エネルギー情報センター
ベースロード市場のルール整備は着実に進んでおり、2019年3月19日制度検討作業部会においては、資源エネルギー庁が「ベースロード市場ガイドライン」を作成する形で合意がなされました。その後、電力・ガス取引監視等委員会により、28日に「ベースロード市場ガイドライン」が公表されました。
エネ庁が「ベースロード市場ガイドライン」作成
石炭火力や水力、原子力、地熱等のいわゆるベースロード電源は、一般的に運転コストが低く、高効率な発電が可能な電源です。このため、日本の電気事業において、低廉で安定的な電気の供給を実現する上で、重要な役割を果たしている電源となっています。
現状、こうしたベースロード電源の多くは、大手電力が保有・長期契約しており、新電力によるアクセスが困難な状況となっています。これは、大手電力が自己又はグループ内の発電部門との内部取引に加えて、発電事業者との長期かつ固定的な相対契約を維持していることに起因します。
これまで、大手電力はベースロード電源の運転・維持に要する費用を支払っており、ベースロード電源の開発や維持が行われてきました。こうした経営努力がある一方で、新電力はベースロード電源をほとんど保有できない環境に置かれ、そのためベースロード需要をミドルロード電源や卸電力取引所から調達した電気によって供給するといった不効率な状況が生じています。
ベースロード電源は、開発拠点の制約や、初期投資に要する費用が高額となることから、新規に開発することは容易ではないと考えられます。そのため、新電力と大手電力による、ベースロード電源へのアクセス環境はイコールフッティングであるといえない状況にあります。
貫徹小委員会中間取りまとめにおいても、ベースロード電源については、旧一般電気事業者がその大部分を保有または長期契約で調達しているため、新電力のアクセスが限定的であり、このことが競争を更に活性化させるための障壁となっていることが指摘されています。例えば2017年8月時点では、最大出力の割合として、旧一般電気事業者グループ(沖縄電力除く)が80%、電源開発が6%、その他が14%のベースロード電源を保有するといった状況になっています。
こうした中、新規参入した小売電気事業者が、ベースロード電源を利用できる環境を実現することが、小売競争を活性化させるためには重要です。その解決策として、平成31年度から新たにベースロード市場が創設されることになりました(図1)。
ベースロード市場のルール整備は着実に進んでおり、2019年3月19日制度検討作業部会においては、資源エネルギー庁が「ベースロード市場ガイドライン」を作成する形で合意がなされました。その後、電力・ガス取引監視等委員会により、28日に「ベースロード市場ガイドライン」が公開されました。
北海道エリア、東エリア、西エリアの3エリアで実施されるベースロード市場
ベースロード市場は、卸電力取引所(JEPX)に開設される市場の一つとなります。ベースロード市場で約定した場合、先渡市場と同様に、前日スポット市場を通じて、約定した量の電気が受け渡されます。前日スポット市場の価格とベースロード市場の約定価格との値差については、卸電力取引所において清算が行われることになります。
つまり、一定の期間にわたり固定的な価格で電気の受け渡しが行われることとなり、電力会社にとっては前日スポット市場の価格変動リスクを回避しながら安定的に電気を調達することに繋がります。加えて、発電事業者にとっても安定的な電気の供給先を確保することが可能となります。
ベースロード市場には、複数の市場範囲が設定され、それぞれに基準エリアプライスが定められます。これらは、スポット市場の分断発生頻度等を加味して市場範囲が設計されます。
具体的には、北海道本州間連系線と東京中部間連系線(FC)における分断の頻度が特に多いことを踏まえ、北海道ー東北、東京ー中部間にて市場範囲が分割されます。
つまり、市場開設の当初は、 ①北海道、②東北・東京、③中部・関西・北陸・中国・四国・九州の3エリアで実施されます。なお、沖縄エリアにおいては、需要家一般に対して新たな負担を求める措置がないことも踏まえ、ベースロード市場は開設されません。
発電平均コストをベースに設定される上限価格
ベースロード市場の目的を踏まえると、ベースロード市場への供出価格が、グループ内の小売部門に対する金額と比較して不当に高い水準であれば問題となります。そのため、卸供給料金と比して不当に高い水準とならないよう、ベースロード電源の発電平均コストを基本とした価格で投入することが適当であるとされています。
これらから、ベースロード市場においては供出上限価格が設定され、その上限額はベースロード電源の発電平均コストから、容量市場での収入を控除等することで設定されます。なお、発電平均コストについては、ベースロード電源を維持・運転する費用(円)を想定発電量(kWh)で割り戻して算定されます(図2)。
供出価格については、電力・ガス取引監視等委員会が内容を監視します。例えば、発電事業者は供出上限価格とその算定根拠の提示に応じる必要があります。また、供出上限価格が適切に算定されていない場合は、該当事業者に対して詳細なヒアリングその他の必要な対応が行われます。
この点、ガイドラインには「自己またはグループ内の小売部門に対するベースロード電源に係る卸供給価格と推定される価格が、ベースロード市場へ供出した価格を下回っていた場合、通常、ヒアリング等の対応を行うこととなると考えられる。」と記載されています。
新電力シェアの約56%が市場ボリュームに
供出量については、開始当初、新電力等の総需要に対して中長期的なベースロード比率(56%、長期需給見通しを基に算定)と同量が供出されます。ベースロード市場の開設当初は、下記算定式のとおり調整係数を設定し、供出量が決定されます。
この計算式により、全国の新電力シェアが12%の場合、供出量は約560億kWh(約8300億kWh×12%×56%)と試算出来ます。なお、2017年度の実績値として、スポット市場は約442億kWhであり、ベースロード市場はその規模を上回ることとなります(図3)。十分な電力がベースロード市場に投入されているかについては、電力・ガス取引監視等委員会が内容を監視します。
全体市場供出量(kWh) = 総需要(kWh) × 全国エリア離脱率(%) × ベースロード比率(%) × 調整係数(d)
各新電力がベースロード市場で購入できる「ベース需要」については、日別のベース需要のうち、年間18日程度(=365日×5%、2.5週)の下位の需要を除いた数値で設定されます(図4)。
「適正な電力取引についての指針」改定見込み
ベースロード市場の創設に伴い、「適正な電力取引についての指針」の改定が検討されています。改定案としては、新たに以下の内容が位置付けられています。
- 大規模発電事業者は、卸電力取引所など卸電力市場が活性化されるまでの間は、新規参入した小売電気事業者のベース需要に対し十分な量を市場へ投入するような配慮を行うことが適当である
- ベースロード市場の取引の実施に当たっては、資源エネルギー庁の定める「ベースロード市場ガイドライン」を参考にする
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執筆者情報
一般社団法人エネルギー情報センター
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